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等距離恋愛。_1丁目8番地 紅潮カレー


初めて見た彼の姿は想像してたよりも華奢で、第一印象は「子犬」みたいだなと思った。

マフラーに顔を埋めていた彼は、

「なんか今更だけど、初めましてっ!(笑)」

という言葉とともにはにかんだ笑顔を私に向けてきた。まるでドラマのワンシーンみたいに胸がキュンと音を立てたのがわかった。

「初めましてだね。ごめんね、今日の私可愛くない。」

寝不足と体調不良でできたニキビを必死に隠す。

「俺そういうの気にしてないし。電話してて会いたいと思ったから会いにきた、ただそれだけ。」

彼の真っ直ぐすぎる言葉に、ただただ顔が熱くなるのを抑えるのに必死だった。照れて顔を伏せると、

「お腹すかん?どっかオススメのカフェあったら教えてよ。」

と顔を覗き込まれる。反則でしょ…。

「うーん…。あ、この前行ったカフェおしゃれでご飯美味しかったからそこ行こっ!」

「おーいいね、カフェ。下北っぽい。」

私たちはお昼ご飯を食べに反対口にあるその「下北っぽい」カフェにむかった。歩き慣れたはずの道なのに道路のアスファルトを踏みつける感触をいちいち確かめてしまうのはきっと二月という季節の寒さのせい。

「歩くの遅くね!?(笑)」なんて言いながらも私のペースに歩幅を合わせて歩いてくれ、少しずつ緊張もほぐれていった。

カフェは階段を上がった二階にあった。私はタコライス、彼は悩みに悩んで結局チキンカレーを頼んだ。

悩んでる時の顔が面白くてこっそり写真撮ろうかと試みたがあっけなくバレてしまった。どうやらカンは鋭いほうみたい。

「撮ったら金とるよ。」

「わかった、5円ね」

なんてくだらないやり取りをしていると店員さんが微笑みながら料理を運んできてくれた。

「うわ、うまそーーー!!!え、これここで作ってるんすか?」

なんの躊躇いもなく店員さんに話しかける奏太の目はキラキラしててまるで初めてカレーを食べるみたいにワクワクしてた。

「手作りですよ〜」

と言ったアルバイトっぽい女の子の店員さんの笑顔が可愛くて、少しモヤモヤした。その会話に割り入るのもプライドが邪魔してできなかったので

「お腹すいた〜いただきます!!!」

と二人の会話を無視して、目の前にあったタコライスを口いっぱいに頬張った。するとそれを見ていた彼が、

「あ!抜け駆けすんなよ!俺の方が腹減ってっから!いただきます!!」

と言いながら負けじと口いっぱいにカレーをいれた。

モグモグモグ…とお互いに欲張りすぎた口の中のものを目を合わせながらゆっくり咀嚼する。変な無言の時間に思わず二人ともやけてしまう。

先に飲み込んだのは彼だった

「あーやべー。マジでうまい…」

とお大袈裟なくらいに絶賛する。口の中がようやく空っぽになり、

「そんな言うほど?(笑)」

と呆れた口調で聞いてみる。

「一口食って見ろって。マジやから。」

「そこまで言うなら一口食べてあげる!」

「なん、その上から目線(笑)」

「どうしても仕方なく食べてあげたてい(笑)」

「なんでもいいけん、早よ食えや(笑)」

そう言ってスプーンに乗せたカレーを私に向けてくる彼。

(え、これ恥ずかしくない?店だし!!)

と戸惑っていると、

「はーい時間切れでーす。」

と言いながら自分の口にスプーンを入れようとしたので

「あ、食べる!食べます!食べたいです!!」

と思わず身を乗り出して食い気味に顔を近づけてしまった。

それに一瞬だけ驚いた顔を見せた後、「ブハッw」と吹き出したように笑いながら私の口に優しくカレーを入れてくれた。

(なんかこの人といると調子狂うな…)

赤く火照った顔を両手で覆う。今日何回これを繰り返すのだろうかと考えただけでさらに熱くなるのがわかった。

その様子を美味しそうにカレーを食べながら意地悪な顔で見てくる。

「どした?辛かった?(笑)」

なんて、

(この人絶対確信犯だ…。)

と思いつつも楽しんでる自分に呆れが止まらない。

「…ううん、すごく美味しい。」

こういう時満面の笑みで言う子の方が絶対可愛いに決まってる。

でも本当に、今まで食べたカレーの中で一番っていうほど優しくてあったかい味がした。一緒に食べる誰かでこんなにも味が変わってしまうのかと。

いつの間にか空になった皿を眺めながら私は調子を取り戻すためにトイレに駆け込んだ。

戻ると私の上着とバックを持って入り口付近で待つ彼の姿。

「あ、もう出る?」

「おう!せっかくの休みだし下北散策しよ!」

と言いながらレジをスルーして店の階段を勢いよく降って行ってしまった。

慌てて、店員さんに

「あ、お会計まだですよね!すみませんいくらですか?」

と聞くと、

「もうお代はいただいてますよ。素敵な彼ですね、お似合いです♪」

なんて言われてしまった。店員さんに頭を下げ「ごちそうさまです。」と言って階段を降りる。

(年下のくせにやるじゃん…。)

ただ無邪気に楽しんでるかと思ったら、さりげなくかっこいいことしてくる。きっとモテるんだろうなあとか心の中で呟いた。

階段を降りると、店の前で携帯をいじりながら

「次、あっち側行ってみよ!」

と北口の駅前にある坂を登り、成り行きでとある小売店に立ち寄ることにした。

_1丁目9番地 あちらこちらな遊具



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