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ビールが私を「人間信者」に変えてくれた


私は、大好きだった人に振られた。

今でもお酒が入るとつい思い出してしまうほど好きだった。彼を思い出すと色んな感情が涙と共に溢れ出し、飲みかけのビールをしょっぱくしてしまう。

だから、一人で飲むのは苦手だ。せっかくの美味しいお酒を、自分の体液で不味くしてしまうから。とめどなく溢れる涙を、誰も止めてはくれないから。

本当に好きで、ずっと一緒にいるんだと信じて疑わなかった私はまだ子供で、「終わり」の知らない無知な人間だったのかもしれない。

子供が後先考えず徒競走の時、スタートダッシュを全力で駆け抜けるように。はたまた、赤ちゃんの「泣けば誰かが助けてくれる」という本能的な行動のように。

「終わり」を経験したのは初めてなわけじゃなかった。学生時代にも付き合っていた人はいたし、友達だと思っていた人を唐突に失ったことだってある。その時も確かに辛かった。泣いたとも思うし、苦しくなった記憶もある。

でも彼を失った時の辛さは今までの比じゃないくらいに大きくて、1週間はまともにご飯を食べられなかった。これからもずっと一緒にいれたらいいな。そう思っていたのは私だけだったのかな。

「今の俺を一番理解してるのはお前だし、お前のことを理解してるのは俺。だからなんでも頼れ、いいな?」

そう言った彼は、私じゃない誰かを今一生懸命に愛している。

世の中は無情だ。無情で、非情だ。もう誰も信じれない信じられるものなんてない誰のことも信じたくなんてない。

頼るのが苦手だった私は、頼れる唯一の存在だった彼を失いもうどこにもよりかかる壁などないのだと太さも長さもわからない一本の綱をしがみつきながら生きた。誰も信じない、誰も頼らない、誰のことも愛せない。

世界で私を愛してあげられるのは私だけなんだと、そう気を張って生きていた。

でも、そうじゃなかった。

とんだ、勘違いばか野郎だった。

少し立ち止まって周りを見渡すと、私を応援してくれる人がたくさんいて支えてくれていた。このノートを読んでいいねしてくれるあなた。ツイッター、フェイスブック、インスタグラムでいいねやコメントをくれるあなた。ラインで頑張れ!応援してる!とメッセージをくれるあなた。

一人で渡っていたと思っていた綱は、何十人、何百人、何千人の人たちの綱とからまり合い、繋がっていた。風で綱から落ちそうになった時、誰かが「僕の綱をつかんでいいよ」って言ってくれる。欲しいものに届かない時、誰かが「この綱を使えば届くかもしれない」と新しい道筋を切り開いてくれる。

そんな人たちがすぐ近くにいたから私はここまでやってこれた。

それを教えてくれたのは皮肉にも、私が大好きだった彼が大好きだったビールだ。

毎日仕事終わりにスーパーで買い物かごにビールを入れる彼は、幸せそうに笑っていた。あの頃はビールの美味しさなんて知らなくて、よくそれで言い合いしてた気がする。

彼と別れて、どれくらい経っただろう。正確な数字にするのはちょっとアルコールが足りないのでやめておこうと思う。なんにせよ、私は今ビールが好きだ。ビールを通して色んな人とコミュニケーションをとり、人を好きになった。ビールが私を「人間信者」に変えてくれた。

想いが大きい分だけ人は苦しくなるし、辛くもなる。だから怖くなって壁を作って「辛さの予防線」を張ってしまうのかもしれない。でもやっぱりまた人を信じようと思う。そしていつかは誰かを愛せるように。この話の続きは、ビールを飲みながら語り合おうではないか。

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