コメディにおける俳優の演技について
コメディにおける俳優の演技のスタンスについて個人的に思うところがあるんです。
コメディはやはり観客の笑いを誘発する演劇なので、俳優の演技スタイルも、観客の笑いをもぎ取りに行くような演技スタイルが多い。
もちろんそのような演技スタイルも僕は大好きです。
例えば大人計画の俳優の方々のようなナンセンスな身体性によるガツガツした、笑いをもぎ取りに行く演技スタイルは僕の心を躍らせます。
だけど僕が作品を作る側に立つとなると、自分の作品ではそのような演技スタイルとはまた別のやり方を求めてしまうところがあるんです。
それは、観客の笑いをもぎ取りにいかないタイプの演技スタイルです。
セリフはおかしいんだけど、あくまで俳優たちは、それがあたかも当たり前の普通の会話のごとくセリフを発する。
ことさらナンセンスでコミカルな芝居はしない。
それは誤解を招きたくないのであえて言いますが、僕が観客の笑いをもぎ取りに行くスタイルのコメディが嫌いだというわけではありません。
それはそれでとても大好きです。
ただ自分がやるとなると、そういうのは他の団体さんに任せて、また別のやり方でやりたい、というだけなんです。
笑いの演技について考えるとき、よく「バナナの皮で転ぶ紳士」について考えます。
「バナナの皮で転ぶ紳士」は、笑わせようと思ってはいないから、だからこそはたから見てると笑えるのではないか。
ピシッとした格好をした気取った紳士が、不意にバナナの皮で足を滑らせ、自分の意思とは不本意に滑って転んでしまう。
その後も転んだことで恥ずかしがっている自分を隠したくて、妙に取り繕ったりして、何事もなかったかのようにその場を後にする。
その姿が滑稽で笑えるのではないか。
もしそのその紳士が、目の前にバナナの皮が落ちているのを知っていて、ややオーバーリアクションで、笑いを誘うようにすってんころりんと転んだら、それを見ている通行人は「ああ、あの人やってんな」と思い、冷めてしまうのではないかと思うんです。
もちろんその姿があまりにもオーバーすぎたり、ナンセンスの度合い(デタラメさ)が強すぎると、逆に笑いにはなるとは思うのですが。
ただ基本的に笑いを狙いに行くと、周りの人たちは冷めてしまうことが多い。
僕のやりたいコメディは、妙なことを言い出す人も、それがあたかも当たり前のことのように話し出す。
周りがそれに違和感を感じても、本人は至極真面目に考えを話しているだけなので、過剰にコミカルな話し方をするわけではなく、普通の話し方をする。
受け手側も、ことさらコントや漫才のように、コミカルにリアクションをしたり訂正や疑問を感じることなく、あくまでリアルな反応の範囲でセリフを発する。
そのようなやり取りが、僕がコメディ作品を作るときに出したい味つけなんです。
何度も言いますが、コミカルな演技によるコメディを否定しているわけではない。
それはそれで笑えるしとても素晴らしいものなんだけれども、僕が作品を作るとなると、それとはまた別の演技スタイルで芝居を構築したい、というだけなんです。
来年1月に上演する、僕の作・演出作品も、そのようなコメディになればと試行錯誤しております。
幸い俳優陣が皆さん優秀なので、僕のやりたい演技スタイルを試行錯誤しながらも体現して頂いております。
その辺りもご注目いただいて、作品をお楽しみいただけますと幸いです。
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