ソーシャル分野に明るくないデザイナーの私が、ソーシャル・ベンチャーを支援する団体(SVP東京)で2年間過ごして分かったこと【前編】。
私は2018年の4月からソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(以下、SVP東京)というNPO法人にパートナーというカタチで関わってきました。この4月から3年目に突入しています。ソーシャル分野に明るくなかった私がこの目で見て経験した、SVP東京の実態(?!)についてリポートします。
SVP東京とは?
そもそもSVP東京とはいったいどんな団体なのでしょうか?
ソーシャル分野に関わっていなければ、おそらく知ることのない団体であり、私も入会する半年前までその存在をまったく知りませんでした。
団体のホームページによれば、
ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(以下、SVP東京)は、社会的な課題の解決に取り組む革新的な事業に対して、資金の提供と、パートナーによる経営支援を行っています。
と書かれています。
私がSVP東京へ入会するきっかけを与えてくれたのは、2014年に参加したイベントでお話をした方で、2017年に都内のカフェで偶然再会しました。向こうから声をかけていただき驚いたのを覚えています。
その数カ月後に、当時立ち上げたばかりの「あすよみ」の活動について助言をもらいたくお会いした際に、SVP東京のことを教えてもらいました。その時知ったのですが、SVP東京の元パートナーの方だったのです。
その方の「SVP東京、めっちゃ面白いよ」という言葉だけで、「ソーシャル」を探求テーマの1つに掲げていた私は直感に従い、2017年10月に開催されたSVP東京のイベントに参加。その直後に入会することを決めました。
SVP東京が対象とする団体
SVP東京が対象としているのは、社会課題に取り組むNPOや企業です。
「えっ、企業も?」と驚かれる方もいらっしゃるかと思いますが、SVP東京では、社会課題に取り組む団体であればその形態は問いません。NPO(特定非営利活動)法人でも、株式会社でも、任意団体でも応募対象となります。
私は入会する時点で、NPO法人がどのようなものか、あまり分かっていませんでした。「非営利」なので利益を上げてはいけないし、団体のメンバーはボランティアと同じように働いているものだと勝手に思っていました。
でもそれは間違っていました。NPO法人が活動で得た収益は、社会貢献のために活用したり、その活動の目的を達成するために使うことができるのです(スタッフ等の報酬も含みます)。むしろ、NPO法人はキチンと収益を上げて持続可能な仕組みを構築することが求められます。言葉から受ける印象だけで物事を判断してはいけませんね。
そうはいっても、SVP東京のような中間支援団体に応募してくる団体の多くは、金銭的、人的リソースに限りがあるのは事実です。
日本と米国の違い
もともとSVP(Social Venture Partners)は1997年に米国ワシントン州シアトルにおいて、アルダス社の創立者であるポール・ブレイナードらによって創設されました。SVP東京はSVP Internationalの加盟団体という位置づけになっています。
現在、SVP Internationalはアメリカ・カナダ、日本・中国・インド等などアジア各国を含め、全世界9か国、40を越える加盟団体を有しています。
SVP東京が対象とする社会課題は国内に限りませんが、米国におけるSVP加盟団体はそれぞれの都市における課題が対象となっているそうです。
また、SVPのパートナーとなるためには毎年会費がかかります。SVP東京の場合、年間10万円であるのに対して、例えばSVP SEATTLE(シアトル)では、年間6,000ドル(約60万円)もかかるためパートナーは富裕層が中心になっていると思います。また会費ではなく寄付になるため、SVP東京のようにパートナーによる経営支援は(おそらく)大きな要素ではありません。
友人に聞いた話ですが、米国でNPOの代表になることはとても名誉なことで、規模の大きな団体では報酬も大きいそうです。米国に比べたら、日本におけるNPO法人の社会的なステータスはかなり低いと言えるでしょう。
国際社会が合意したSDGsとは?
社会課題と聞いて皆さんはどんなことを思い浮かべますか?
グローバルな視点でみると、地球温暖化などの環境問題や発展途上国における貧困問題などがあります。日本国内では、少子高齢化、地域格差、男女格差など、もう少し身近な問題をいくつか挙げることができるのではないでしょうか。
「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をどこかで聞いたことがある人も多いと思います。SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。
国際社会全体が、協働して解決に取り組んで行くことを決意した画期的な合意だと言われ、国際社会において社会課題と言えば、SDGsのことを指します(世界が目指すべき17の目標と169のターゲットで構成)。
毎年、SVP東京にはたくさんの団体から応募があります(応募団体数は非公開)。
それぞれの団体が解決しようとしている課題は多種多様ですが、分類しようと思えば、SDGsにおける17の目標のどれかに当てはまるでしょう。ただし、見方によっては複数の課題が根っこでは絡み合っていたりすることも多いので、どこに分類するか意見は分かれそうです。
応募団体によるピッチは勉強になる
SVP東京に入っていてよかったなぁと思うシーンはいくつかあります。その1つが、応募団体の代表(もしくは関係者)によるピッチ(短いプレゼン)です。私が入会した2018年から導入されました。
毎年とても勉強になる場となっており、一言でいえば「視野がぐっと広がる(世の中を見る目が変わる)」感覚があります。
応募団体は毎年変わりますし、SVP東京のパートナーも大半が入れ替わるので、投資選考プロセスは毎年議論されアップデートしています。また、団体の応募回数に制限がないため、2年目に応募し、事業等の成長が評価されて選ばれる団体も少なくありません。
昨年まで、ピッチは対面で行われていましたが、今年は新型コロナの影響で、オンラインで実施されました。実施する前は、ネガティブな意見も多かったのですが、実際にやってみると予想もしなかったメリットもたくさんあることに気づきます。何事もやってみないと分かりませんね。
オンラインで実施された今年のピッチの様子
ピッチで得られる経験やメリットをもう少し具体的に書いてみると、以下の通りです。
(1)知らなかった社会課題について学べる
(2)当事者の声(またはエピソード)が聞ける(起業家の多くが当事者)
(3)起業物語や原体験にまつわる熱い想いや悲しい体験に感動する
(4)ユニークなアイデアや切り口が勉強になる
(5)様々な業界の裏話が聞ける
(6)各分野で有名な人に会える(芸能人もいました)
このように社会起業家によるピッチは、デザイナーとしても私個人としても、たいへん好奇心が刺激される場となっています。
また、自分とは異なる環境にいる人の「モノの見方や感じ方」を理解しておくことは、ますます多様化する世界を生きていくうえで重要なマインドセットだったりコミュニケーションスキルだと私は考えています。
毎年ピッチを聞き終えると、怒り、悲しみ、愛情、喜びなど自分の中に様々な感情が沸き起こってくるのを感じます。
今年のピッチ終了後、SVP東京のSlack上(昨年から導入されました)には、「幸せな時間でしたー!!」「大変勉強になり、大変刺激を受けました」といったパートナーの声が投稿されていました。
SVP東京の投資・協働先として採択されるまで
SVP東京は、採択されたソーシャル・ベンチャーに、年間100万円を限度にした資金提供を行うと同時に、(最大)2年間、SVP東京のパートナーが経営支援を行っています(パートナーの数は現在116名(2019年4月時点))。
投資・協働団体の応募開始から協働スタートまでのステップは以下の通りです。
2月末 投資・協働団体の募集開始
3月中旬 投資・協働団体の応募説明会
4月初旬 応募〆切、応募団体によるピッチ
※ヒアリングやサイトビジットを行う場合があり
5月下旬 1次選考(書類選考)
通過団体は2次選考に向けてパートナーと仮協働を行う
7月下旬 2次選考(団体プレゼンテーション)
8月上旬 最終選考(デューデリジェンス)
9月 投資・協働開始
特徴的なのは、1次選考と2次選考の間にある「仮の協働期間」です。SVP東京では協働チームのことを「Vチーム」と呼んでいます。この期間は、2次選考通過という共通のゴールに向けて団体と一緒にお試し協働を行う「仮Vチーム」が結成されます。
仮の協働期間とはいえ、正式な協働期間以上に濃密な時間を過ごすことになります。なぜなら、最長で2年間という長い時間を一緒に協働できるかどうか、お互いに見極める時間でもあるからです(まるで恋愛期間中の恋人同士のようです)。
人生何が起こるか分からない
私は入会した1年目(新Pと呼ばれます)に、いくつかの偶然が重なり、「妊娠葛藤」という社会課題に取り組んでいる団体(現ピッコラーレ、当時はにんしんSOS東京でした)を応援することになりました。
SVP東京のこともソーシャル分野についてもよく知らなかった私は、ソーシャル・ベンチャーとの協働経験はもちろん、経営支援についての経験や知識も当然ありません。
団体選考過程におけるミーティングでは、聞きなれない言葉が宙を舞います。ファンドレイジング、キャパシティービルディング、セオリーオブチェンジ、ロジックモデルなど全部横文字。正直にいうと、場違いなところに来たのではないか、ここで自分は何ができるのだろうかと思いました。
そんな私が、気がつけば1次選考会で「にんしんSOS東京」の推薦プレゼンをしていたのですから、人生本当に何が起こるか分かりません。
1次選考会の約3週間前、私はサイトビジットと呼ばれるプロセスで、「にんしんSOS東京」の事務所を訪問したパートナーの一人でした。先輩パートナーから「いい団体だから話聞いてきたら」と言われ、知らない分野だったということもあり、新Pの私はこれも勉強のうちだと軽い気持ちで訪問したのを覚えています。
今思えばあの日がその後の運命を大きく変える出来事になるのですが、当時の私は知る由もありません(実はこの件も、先日書いた「LIFE SHIFT」のエピソードからつながっています)。
その後、(チームごとに割り当てられた団体の中から)1次選考にどの団体を推薦するかどうかを決めるミーティングが行われ、「にんしんSOS東京」を推薦することが決定。
その日、「にんしんSOS東京」のサイトビジットに参加したパートナーは私しかいませんでした。当然、私がプレゼンすることになります。選考プロセスについてそれほど深く理解していなかった私は、この時点でもまだ、"推薦プレゼンだけ"なら引き受けますという軽い気持ちでいました。
推薦団体が1次選考を通過
SVP東京に入会してから最初の試練の日、1次選考会。推薦団体のプレゼンに対する先輩パートナーたちの手厳しいツッコミに驚きました。もちろん先輩パートナーの意見には学ぶところがたくさんあります。ただ、新Pが率直に思ったことをなかなか言えない雰囲気だったということも確かです(翌年は少し改善されました)。
幸いにも私の推薦団体「にんしんSOS東京」(2回目応募)については、あまり厳しいツッコミはなかったと記憶しています。無事1次選考を通過することができました。
先にも書いた通り、1次選考で投票(V票と呼ばれる)したパートナーが仮Vチームとなります。当時の私は、自分がまだよく知らない分野に足を突っ込んでみたいとも考えていたので、自分が推薦した団体にV票を入れました。
1次選考通過が決まったその場で、(仮協働期間の)リーダーを決める必要があり、(若干不安を抱えつつ)私が手を挙げました。
仮の協働期間は1ヵ月半しかなく、仮Vチームはほぼ初対面に等しい関係からスタートし、2次選考に向けて必要な書類やプレゼン用のスライド(2次選考でプレゼンするのは団体の代表)を一緒に作る必要があります。
私たちは週に1~2回のペースで団体の方と会って打ち合わせをしました。今思い返しても仕事との両立でハードな期間だったと思います。実は私は他の団体にも興味があったので、一度だけ他の仮Vチームに参加させてもらったのですが、その後余裕がなくなり、「にんしんSOS東京」の2次選考に向けた準備にかかりっきりになりました。
協働って本当に難しい
仮の協働期間は、団体側が2~3名、SVP東京側が平均5名くらいで毎回打ち合わせを行っていました。
この期間で大事なことは、なるべく早いうちにお互いが思ったことを安心して話せる関係を作ることだと思います。心理的安全性の確保です。これがなかなか難しい。
経験も知識も、立場もバックグラウンドも異なるメンバー同士が、いきなり本題についてディスカッションを始めると、各々がそれぞれの見方で単に意見を主張し合うだけの場になってしまいがち。みなさんも経験があるかと思いますが、空中戦になると最悪です。
私はファシリテーションに関して、それなりの知識と経験、自信があったので、「場づくり」という関わり方なら団体との協働に貢献することができるかもと考えました。
マインドマップを使って意見やアイデアを可視化
たしか4回目の打合せにおいて、このまま話し合っていても大きく前進するのが難しいと感じた私は、1時間だけ時間をもらえないかと提案しました。そこで実施したのがマインドマップを使ったビジョン共創プロセスです。
たった1時間ですが、その日集まったメンバーが初めて同じ方向を向き、2年後のありたい姿を思い描くことができたのです。団体の代表からは、「すごい!」ととても感謝されました。パートナーそれぞれが見ている視点やこだわり、その理由や背景を少し垣間見れたことで、協働がスムーズに進むきっかけとなったのです。
参考までに、協働とワークショップの関係について、以前書いたブログ記事がありますので貼っておきます。
その後、マインドマップを使った会議手法は「1MapMeeting」という2時間半のプログラムとなり、SVP東京パートナー有志による勉強会でも提供させていただきました。
コンサル中心の投資・協働チーム
2次選考にむけて、仮の協働期間中に準備しなければいけない資料は、以下の3点です。
・2次選考用のプレゼンテーションスライド
・KPIサマリー(協働計画案)
・デューデリチェックシート
プレゼンテーションスライドに関しては、デザイナーでもある私がお手伝いすることになりましたが、2つ目3つ目の資料は、気がついたら出来上がっていました(笑)。
当時の仮Vチームは10名で、そのうちコンサルが5名、経営者が2名もいたので本当に助かりました。
入会してみて分かったのですが、SVP東京には大企業の方が多く、特にコンサル会社の方(出身者含む)がたくさんいます。コンサル以外の大企業ではイノベーション関連の部署の方が目立ち、ご自身が経営者というパートナーも少なからずいました。
特にパートナーの中で目立っているのは、外資系コンサル会社アクセンチュアの(元)社員です。誰でも6か月間プロボノ(100%専任)としてNPO法人の経営支援に関わることができる社内制度があるそうです。そういった社風に憧れて入社する人も多いのだとか。コンサルと社会課題という組み合わせが自分からみるととても新鮮でした。
SVP東京には、社会課題に対して想いのある方が多いため、様々な意見が飛び交いますが、基本的にはみなさん優しくてよい人ばかりなので、その点では安心ですし、入会前に参加したイベントでも、初対面の私に対して親切に応対してくれたことを今でも覚えています。
2次選考も無事通過
毎年7月下旬に行われる2次選考会は、毎年様々なドラマが繰り広げられる場となっており、多くのパートナーがSVP東京で過ごす期間においてもっともエキサイティングな一日だと語ります。
2次選考当日の様子(団体メンバーとVチーム)
2次選考会でプレゼンを行うのは、団体の代表です。前日の夜遅くまでスライドの修正についてやり取りしていたのがとても懐かしいです。
1次選考会では、外部の人間として少ない情報のなかで団体の推薦プレゼンを行った私ですが、2次選考に向けた準備フェーズにおいて、団体にまつわることや団体が扱う社会課題の周辺知識についてかなり理解が進みました。
2次選考の投票結果に目が離せないパートナーたち
団体によるプレゼン終了後、SVP東京のパートナーだけが会場に残って、投票やディスカッションを行います。特に投票数がギリギリ基準に満たない団体や基準を満たしていても反対票がある場合には熱い議論が展開されます。
当時新Pだった私たちは2年間の団体との協働がどのようなものか想像もつきません。過去の事例や経験を引用した先輩パートナーの意見やアドバイスはどれも大変参考になります。
選考の観点は以下の5つとなっています。SVP東京は投資会社ではなくパートナーによる経営支援が大きな要素となっているため、特にパートナーが共感できるか、SVP東京とのマッチングが最適かはとても重要な要素だと私は思います。
・起業家精神
・事業モデル
・共感性
・社会的インパクト
・SVP 東京とのマッチング
要するに、最終的にはVチームが結成できるかどうかということです。どんなに素晴らしい事業を行っていても、社会的インパクトが期待できる事業だとしても、手を挙げるパートナーが一定数いなければ選ばれません。
私が入会した2018年は、4つの団体が正式な協働先として選ばれました。
思いがけない妊娠とは?
ここで私が協働パートナーとして支援している団体についても少しご紹介させてください。
「思いがけない妊娠」
この言葉を知ったのは2018年の4月ですが、「思いがけない妊娠」によって、誰にも相談できず「孤立」してしまった妊婦をサポートしているのが、ピッコラーレ(旧にんしんSOS東京)です。
日本は、赤ちゃんが最も安全に生まれる国であるにもかかわらず、悲しいことに生まれてすぐに実の母親による虐待で亡くなってしまう赤ちゃんが後を絶ちません。
本人よりも生まれ育った環境に問題があることも多く、「妊娠」したことがきっかけで、問題が顕在化してしまうのです。「妊娠」しているのに誰にも相談できないとしたら、あなたはどうしますか?
もう少し詳しく知りたいと思った方はぜひ以下のページをご覧ください。あなたの力を必要としています。
団体代表の生の声をお聞きしたい方はこちらのイベント(無料)もお勧めします。
最後に
書き始めたらいろいろ書きたくなり思ったよりも長くなってしまったので、前編と後編に分けました。苦手としている文章を書く訓練だと思っていますので、気がむいたら後編も書きたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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