「国民皆歯科検診」義務化の狙いは?
◆2022年5月30日、ニュースが流れた
政府は、国民皆歯科検診なるものの義務化を検討するとのこと。
まずは実際のニュースを読んでみましょう。
「国民皆歯科健診」検討開始へ
政府「国民皆歯科検診」導入を検討
歯は大事なので良い政策だ!という声、
そんなこと強要されたくない!という声、
好意的、批判的、様々な意見があるようです。
個人的には、税金使った割に効果が出ない制度に陥りそう(苦笑)と直感的に感じました。
そもそも、何が目的なのか?
国民の歯を健康にすることでしょ?と思ったあなた。甘いです。そんな単純な話ではないのですよ。背景を読み解いてみましょう。
◆政府の狙い
冒頭のニュースの一文を見てみましょう。
最も注目すべきなのは、”経済財政運営の指針”に明記されたこと。
経済財政が主軸なのです。
歯の健康を維持する
↓
他の病気の誘発が抑えられる
↓
医療費全体を抑制する 👈これが狙い!
という三段論法です。
◆歯科医師会の狙い
日本歯科医師会2021年のプレスリリースより抜粋。
”歯科医療機関の受けた経済的ダメージの回復をはかりつつ”
とはっきり記されています。
コロナ禍において、医科のように病床確保に関わる補助金等も得ることができず、歯科医療機関が経済的ダメージを受けたのは事実です。その回復に努めることは当然のこと。
国民皆歯科健診の義務化
↓
歯科治療が増える
↓
歯科医療機関が経済的に潤う 👈これが狙い???
って、思われちゃっても仕方ないですよね。
その結果、医科も含めた全体の医療費抑制に貢献するならば、政府の狙いと合致するので何の問題も無し。
そんなにうまく行くのでしょうか?
◆健診と検診の違い
ここまでの文章で、健診と検診が混ざっていたことには気づきましたか?
わざと混ぜてみました。実際、マスコミや医療関係者も含めて、同じ意味として使っている人がほとんどだと思います。
ニュース文中に、"歯周病を発見するための簡易検査などの導入が想定されていて"とあり、歯周病の早期発見・早期治療を推進しようとしてそうなので、「検診」が正しいような気がします。しかし、前出の歯科医師会のプレスリリースでは「健診」となっていました。
まあ、どちらでもいいのです。歯の健康が維持されるならば。
予防歯科とは何ぞや?など、話が長くなるので、この件は一旦、そっと蓋をします。持ち出しておいて、すいません。
◆歯科健診をすれば医療費は減る?
定期的な歯科健診を受けている人ほど、受けていない人に比べて、年間の医療費が少なくなるという調査結果の1つ。
ここでも「健診」ですね。定期的に歯科健診を受けている人は、全身の医療費が少なくなる傾向があるとか。
穿った見方をしてしまうと・・・
年に3回以上、ちゃんと歯科健診受ける人は、元々、健康に気を使ってる人なような気がします。歯科健診自体が本当に効力を発揮しているのでしょうか?
「健診」が本来の定義通りで、歯が健康かどうかを定期的にチェックしているだけ、歯石取りやセルフケア指導をしていないならば、あまり意味がないですし。
◆歯の本数が多いと医科医療費が少ない?
歯の本数と年間医療費の関係も調査されています。
まあこれも、40歳以上で、歯の本数が少ないほど平均年齢が高くなってしまうような気がします。
歯を多く失う原因は歯周病であることが多いです。歯周病が全身へ与える影響(糖尿病など)があるのは確かなので、歯の本数と医療費の相関はそれなりにあるとは考えられます。
◆国民皆歯科検診で医療費は抑制されるのか?
国民皆歯科検診の義務化(★検診実施費用)
↓
歯周病の人に歯科受診を勧める
↓
歯科で歯周病の治療が増える(★歯科医療費増加)
↓
虫歯もついでに治療する(★歯科医療費増加)
これら増加した費用★以上に医科医療費が減ることがゴールです。
大前提として、歯周病をちゃんと治して再発しないようにすること、虫歯の再発を防ぐことが適切に実施される必要があります。
今の保険診療では「何をしたか?」で報酬が決まっています。処置をいっぱいした方が報酬が入ります。ちゃんと歯周病が治ったか、再発を抑えたかは報酬には直結しません。
つまり、検診の義務化だけでは不十分、逆効果の可能性さえあります。
(多くの歯科医師は報酬だけで動くわけではないので誤解なきよう。)
歯の健康を増進して、健康寿命に貢献して、医療費も抑制しちゃおう!
というコンセプトについては、私自身、大賛成なのです。
医療、歯科医療、経済、財政をもっと広く捉えて改革ができれば、ITの進歩が目覚ましい現代、技術的には難しくないと思います。
しかし、今の日本では乗り越えるべき壁が多すぎるでしょうねえ。