ユルゲン・クロップに花束を。アカデミー改革が齎した最後のタイトル。
就任から3147日。8年7ヶ月。
稀代の名将がマージーサイドに別れを告げる。
プレミアリーグ × 1
チャンピオンズリーグ × 1
FAカップ × 1
リーグカップ × 2
クラブワールドカップ × 1
スーパーカップ × 1
コミュニティシールド × 1
最終年に有終の美となる4冠達成の夢物語が儚く散った今日この頃。暗く険しい時期を過ごしていたリヴァプールに8つのタイトルをもたらし、悩める古豪を再び欧州で存在感を発揮するクラブへと引き上げたドイツ人指揮官を華々しく送り出すストーリーは夢半ばで完結せず。現実はそう甘くはなかった。
8年間で8つのタイトルという数字。
側から見れば黄金時代と呼ぶには物足りない結果と言えるかもしれない。リヴァプールというクラブの過去や同時期にライバルとして凌ぎを削ったマンチェスターシティにタイトル数が及ばないのは事実だ。
しかし記録にも記憶にも残る唯一無二のドイツ人指揮官が決して色褪せることのない思い出と、今後迎えるであろうリヴァプールの輝かしい時代へのレガシーを残したことに関しては疑いの余地がない。
ユルゲン・クロップは指揮官以上の存在だった。
彼の功績は単なるタイトル獲得数では語り切れない。
ここではその一部を、アカデミーという視点から振り返ろうと思う。アカデミー改革の全貌を。
2024年2月25日。
聖地ウェンブリーで勝ち取ったクロップ政権最後のタイトル。
数多くの怪我人を抱える厳しい台所事情の中、手駒を使い果たしたクロップが最後に信頼したのはアカデミーに所属する若者達であった。
実績が乏しく決して評判の良くなかった近年のリヴァプールアカデミー。トレント・アレクサンダー=アーノルドやカーティス・ジョーンズのような突然変異の傑出した天才は輩出しているものの、他の国内ビッグクラブと比較すると全体的なレベルは低く、アカデミーに対するクラブやサポーターの期待値も常に低空飛行。マイケル・オーウェンやロビー・ファウラー、スティーヴン・ジェラードを生み出した過去の栄光は跡形もなく崩れ去り、多くのサポーターがアカデミーの存在意義や方針を疑問視していただろう。
しかしウェンブリーでの120分はアカデミーに対する疑念を払拭するには十分すぎるものであった。勝負所でクラブの未来を信頼して送り出した名将と、大舞台に怖けることなく指揮官からの期待に応えてみせた若者達。
フィクションのような余りにも出来過ぎな物語。
クラブがアカデミー改革へと本格的に着手し、長く険しい歩みを進めてきた過去数年間を結果が肯定してくれたのだ。クラブの過去、現在、未来を大きく左右する出来事を私たちは目の当たりにした。
ウェンブリーでの決勝戦は結果として見ればリーグカップ優勝というただ1つのタイトルに過ぎないかもしれない。しかしクロップが「20年以上の監督キャリアで間違いなく最も特別なトロフィー」と喜びを形容したあの夜が持つ意味はそんな小さなものではない。計り知れない価値を持っているのだ。
過去の取り組みを結果が肯定してくれた今日、リヴァプールのアカデミー改革は更に歩みを加速させるだろう。現在のアカデミー生はあの舞台に立つことを夢に見て今まで以上に精進し、ロンドンやマンチェスターのクラブに劣るリクルートメント面もあの決勝戦を機に状況が一変する可能性も秘めている。
漸く夜が明けたリヴァプールアカデミーの躍進は未だ序章に過ぎない。クロップが築き上げた礎は今後数年、いや数十年に渡ってクラブの財産として残り続けるだろう。
ありがとう、さようなら、ユルゲン・クロップ。
こんにちは、ゆーりです。( @nana_ynwa1892 )
先日は『リヴァプールアカデミー・プロスペクトランキングTOP60』をご購読いただき誠に有り難うございました。
当初の予想以上に多くの反響をいただき嬉しい限りです。
今後リヴァプールを観戦する上で参考になれば幸いです。
未読の方は宜しければ是非。
またYouTubeの方でも久しぶりにKevin Keeganさん( @Mrpotetoheadsan )のチャンネルでコラボさせていただき、アカデミーに関するお話をしました。
1本目は前回の動画に触れながら近年振り返り。
2本目は今後数年間でトップチームへと昇格するであろうプロスペクト解説です。
前作のnoteと共にラジオ感覚で是非。
本記事はユルゲン・クロップ退任に際し、近年のリヴァプールが取り組んできたアカデミー改革を纏めた文章です。
全文無料での公開となります。
記事の最後、またはnoteのサポート機能で投げ銭が可能ですので、皆さんのお気持ちを寄付という形で頂戴いただけると幸いです。次回作のモチベーションにも繋がるので宜しければ。
・あの人は今。クロップ下でデビューした若者。
・U18 & U21 シーズン総括
・ローン組総括
・アカデミー&ローン組 去就展望
・プレシーズン展望, スロットとアカデミー組
・来季U18 & U21展望
・アカデミー移籍総括
全ては書く気が起きるか否か次第ですが、今後はこの日程でnoteを執筆していく予定です。
今後とも宜しくお願いします。
では、本文に入ります。
最後まで目を通していただけると幸いです。
◎アカデミーへの絶望感
「今朝、トレントの母親が感謝と別れを伝えに来たんだ。そしてブレンダン(・ロジャーズ)が去り、私が就任した時に思っていたことを教えてくれた。外国籍の監督はアカデミーに注目しないから若手が台頭するにはイギリス人監督が必要だろうと。当時の彼女はとても心配していたんだ。その後の展開はご存知の通り。美しい物語だったよ。」
先日クロップがこう明かしたように当時のリヴァプールアカデミーに対する期待感は地に堕ちていた。この悲観的な見方は他クラブやメディアだけでなく、クラブの内部やアカデミーに所属する選手関係者にまでも広まっていた。アカデミー年代で良い活躍を見せ、将来が嘱望されるクラブきっての有望株だったアレクサンダー=アーノルドの母親さえも上記のように感じていたことを考えると、大抵の若者やその関係者がリヴァプールのアカデミーを経て大成するのは無理だろうと捉えていたのは容易に想像出来る。
リヴァプールアカデミーに期待を抱く人間など誰も存在しないのが厳しい現実であった。
1999年に撮影された1枚。
ロビー・ファウラー、マイケル・オーウェン、スティーヴン・ジェラード、ジェイミー・キャラガーらアカデミー育ちの選手がクラブの主力を担っていた2000年前後。クラブの輝かしい歴史はアカデミーの存在なくして成し得ることは出来なかっただろう。
それから月日が流れること、約15年。
クラブの顔もバロンドーラーも輩出したリヴァプールアカデミーは期待感の全く持てない組織へと落ちぶれていた。
改革以前のリヴァプールアカデミーは特定の地域出身の若者や白人の割合が非常に高く、開かれた環境での健全な競争が行われている状況には程遠かった。中流階級出身の白人が大半を占め、有色人種の割合は僅か10%足らずだった時代もあった。数年前と現在の各年代の集合写真を見比べると、有色人種が明確に増えているのは一目瞭然だろう。
またピッチ内では幼少期からクラブに所属する選手を重宝し、年功序列の選手起用も度々見受けられた。今後トップチームへの昇格が期待される前途有望な16歳よりも成長が停滞した18歳を優先的に起用するような状況だった。この環境はアカデミーを追って来た中で筆者自身が最もストレスを感じたものと言える。何を目的にアカデミーが育成を行っているのか強い疑念を抱いていた。
どこを切り取っても弱い組織だった。
このような状況下でトップチームに良い選手を輩出出来るのだろうか。
答えは当然ノーだろう。
リヴァプールアカデミーは完全に地に堕ちていた。
更に悪化する余地が無いほど機能不全に陥っていた。
一寸先の光さえも見えない暗闇であった。
⑵ クロップが成し遂げた成長と勝利の両立
ここで読者の皆さんに1つの質問を投げ掛けたい。
「貴方は今、世界で最も不安定な職業であるビッグクラブの指揮官を務めています。そして£50mの予算が与えられました。ここで選択肢は2つ。
新規選手補強 or トレーニング施設建設
どちらを選びますか?」
自分を含め多くの方々は前者を選ぶだろう。即効性がなく、ましてや自分の任期中に完成するかも分からないトレーニング施設の建設など二の次と考えるのは当然だ。そのシーズンに結果が出なければメディアやサポーターから厳しい反発を受け、自分の席は直ぐに消えて無くなる。昨今の欧州フットボール界はそのような難しい環境に置かれている。
しかしクロップは違った。クラブの長期的な成長を優先し、資産を増やすことを選択。その中でリヴァプールにタイトルをもたらした。
クラブの成長とピッチの勝利を両立させたのだ。
2016年にアンフィールドの改築が済んだリヴァプールは2017年に旧練習場のメルウッドからカービーへの移転計画を発表し、2020年に新練習場への移転が完了。するとクラブはアンフィールドの6万人収容を目指し、更なるスタジアム拡張計画を発表。そして2024年に入って漸くアンフィールドの増築工事は完成した。この期間にはコロナ禍の厳しい財政状況にも陥っていることを考慮すると、クロップは就任から制約のない移籍市場を過ごしたのは一度たりとも無かったのだろうと容易に想像可能だ。
CL優勝直後の2019年の夏。控えGKのアドリアン、若手有望株だったセップ・ファンデンベルフとハーヴェイ・エリオットの計3人だけを加えて補強が終了したあの夏。
二度にわたるアンフィールド拡張工事とカービーの新練習場建設に消えた£250mを移籍市場に投入出来れば如何に強いチームが作れたか。如何にマネジメントが楽になったか。ピッチ内の責任だけを負うべき指揮官がチーム強化に向けて補強を要望するのは当然である。
しかしクロップはクラブの資産を増やし、未来へ向けて成長することを優先した。そしてピッチ上では勝者であり続けた。
だからユルゲン・クロップは偉大なのだ。
過去も今も未来もクロップのレガシーは生き続ける。
大抵の指揮官は公の場で上記の状況に対する文句を漏らすこともあるだろう。しかしクロップは補強の少なさに言及するメディアや批判を浴びせるサポーターの矢面に立ち、クラブへの感謝を述べ続けた。実際に当時の彼が心中にどのような思いを抱えていたのかは誰にも知る術はない。なんなら「ふざけんなよ!クソッタレ!」くらい思っていて欲しいものだ。あの状況で聖人君子で居られる人間など存在しないと思う。
しかしクロップはピッチ外での難しい状況に不平不満を垂れることなく、ピッチ内での勝利を実現し続けた。批判の矛先をクラブ内部に向けることは絶対に無かった。
そして成長と勝利という2つの成功を収めた。
この成長こそが昨今の結果、そして未来の成功へと深く繋がっていく。
アカデミー改革の始まりだ。
⑶ 指揮官と参謀、早くも実を結ぶ新練習場
では、ここで息抜きに1つのクイズを。
「クロップの下で最初にデビューを果たしたアカデミー組の若手とは…?」
答えは…
「コナー・ランドール」でした。
現在28歳となったランドールはスコットランドのロス・カウンティで元気にプレーしている。
では、もう1問。
「43」
クロップ政権下におけるこの数字から何を思い浮かべるだろうか。
答えは…
クロップの下でトップチームデビューを果たしたアカデミー組の人数である。8年半で43人。
同期間でこの数字以上にアカデミーの若手を登用したプレミアリーグのクラブは存在しない。
勝利が要求されるリヴァプールにおいてクロップは誰よりも若手を信頼し成長の機会を与えた。
就任当初は決してレベルの高くなかったリヴァプールアカデミーに期待し、様々な狙いを持って長期的な視座で若手を登用し続けた。
では、なぜこれほどアカデミーな人材をスムーズにトップチームへと送り出せているのか。
その答えとして"アカデミーからトップチームまで同じプレーモデルを共有していること"が挙げられるだろう。
「U21もU18も全ての年代が同じスタイルを志向しているからトップチーム昇格後も快適にプレー出来てるよ。トップチームの試合でも自分が何をすべきかを理解出来るから楽なんだ。アカデミーの取り組みは素晴らしいよ。」
今季大ブレイクを果たしたブラッドリーが語るようにリヴァプールはアカデミーからトップチームまで同じスタイルを志向している。今夏クロップの後任候補だったルベン・アモリムはアカデミーにも自身の哲学を浸透させることで知られ、基本的に3バックのシステムを採用している。そしてこのスタイルの相違と長期的な哲学の不合致が招聘を見送った理由とも伝えられている。今のリヴァプールはそれほどアカデミーも含めた一貫したプレーモデルの共有に拘っている。
では、近年のリヴァプールはなぜ、トップチームとアカデミーの間でスタイルの共有を実現出来たのか。
それこそが前述した新練習場建設の影響だった。
2020年に移転したカービーの新練習場ではアカデミーからトップチームまで全ての年代が施設を共有している。就任当初からクロップはメルウッドへの不満として、トップチームとアカデミーが時間を共有出来ないこと、アカデミーの若手を視察する時間が足りないことを挙げており、アヤックスやザルツブルク、トッテナムの練習場を参考にしたカービーでは上記の問題が解決された。
また全部で3面のフルピッチを有するカービーでは練習場の北側をトップチーム、南側をアカデミーが使用しており、年代が上がるに連れて北側のピッチへと移るシステムとなっている。両施設は1本の通路で結ばれており、「トップチームへの道」としてクロップの発案で設計された。このような施設作りにより、育成年代の若者はいつの日か北側のピッチでプレー出来る日を夢に見て日々の練習に精進出来る環境が整えられている。
またリヴァプールではトップチームの練習に日替わりで様々な若手が参加している。トップチーム、U21、U18、U16のコーチングスタッフで頻繁に話し合いの場を持ち、誰がどの年代で練習に参加するかを判断する。これはトップチームとアカデミーが同じ施設を使用し、緊密な関係で結ばれているから実現出来るようになったことだ。練習で良い状態にある若者は誰であってもトップチームへの道が開かれている一方で、冴えないパフォーマンスを見せる選手は同年代だけでなく、後輩にも先を越される可能性がある。練習場の移転により、よりオープンな競争が可能となった。
またこのオープンな環境による恩恵はトップチームへの道が開かれたことだけではない。
2024年1月20日。FAユースカップ。
リヴァプールU18 7-1 アーセナルU18
ルイス・クーマス 3G1A
トレント・コネ=ドハティ 2G
ジェイデン・ダンズ 2G1A
トレイ・ナイオニ 1A
イーサン・ヌワネリ、マイルズ・ルイス=スケリー、チド・オビ=マーティンを擁する強豪アーセナルU18相手に7-1のゴールラッシュ。
この大勝は今季のU18を語る上で絶対に外せないハイライトだ。トップチーム同様の高い強度でアーセナルU18を完全粉砕した一戦であった。
そしてこの試合が行われる数日前。
既にU21を果たしていたクーマスやダンズ、ナイオニらはU18へと降格し、同世代の仲間とアーセナル戦に出場することを自ら直訴していた。オープンな環境はトップチームへの道を開くだけではない。クラブは若者達と相談しながら彼らの意向を最大限汲み取り、自身の決断に納得して適切な環境で日々のプレーに集中出来る環境を作り出している。
また、この流動的で柔軟性のある育成システムは当然クロップひとりの力によって成り立っている訳ではない。クロップを支えてきたペップ・ラインダースとヴィトール・マトスという2人の参謀。そしてアカデミーマネージャーのアレックス・イングルソープ。彼らの存在なくしてリヴァプールのアカデミー改革は決して成し得なかっただろう。
クロップの右腕として近年は実質的にチームの戦術担当を任されていたラインダースは弱冠19歳で指導者キャリアをスタートし、ポルトのアカデミーやトップチームで10年以上キャリアを積んだ後、2014年にリヴァプールへと加わった。
リヴァプール加入当初はU16やU18などアカデミーの指導に携わり、後にロジャーズやクロップを支える存在へと登り詰めた。HGとなるアカデミーの若手をもっと重宝するべきとクロップに助言し続けたのもラインダース。才能を見抜く目利きと若手へと指導力は戦術以上にクロップの手が届かない部分を補完していた。
そして、より重要な役割を果たしたのがヴィトール・マトスだ。彼もポルトでコーチ、分析官、スカウトなど様々な役職を経験した後、2019年10月にリヴァプールへと加わった。リヴァプールでの役職は「エリート育成コーチ」、アカデミーの若手をトップチームへと昇格させるためだけに在籍している存在だった。またこの役職はトップチームに昇格する以前のラインダースが務めていた立場でもあった。トップチームデビューを果たした若者達が口を揃えて感謝を述べ、クロップからも名指しで賞賛を受けるマトスは5年間、アカデミーとトップチームの橋渡しを行ってきた。マトスはピッチ内のパフォーマンスをフォローするだけでなく、私生活やメンタルケアも含めて常に若手選手に寄り添っていた。そんなマトスは「若手がピッチ内外で自分はリヴァプールの選手なんだと感じてもらうことが最も大切」と語っている。
トップチームのコーチングスタッフがアカデミーに精通し、勝手をよく知る存在なのだから若手にとってこれ以上に頼もしいことはなかっただろう。彼らのザルツブルクでの成功を祈っている。
またU21の指揮官バリー・ルータスは2013年から、U18のマーク・ブリッジ=ウィルキンソンは2015年からリヴァプールに在籍し、一貫したフィロソフィーの共有に一役買ってきた。前者はU12からU16、U18、U19を経てU21の指揮官へと昇格、後者はU14からU16を経てU18に辿り着いた。
特に毎年、トップチームと同じシステムを導入し、18歳以下の若者に上手く落とし込んでいるマーク・ブリッジ=ウィルキンソンに対して賞賛の声を挙げたい。ウィルキンソンは2020年の夏にU18指揮官へと就任し、今季で4シーズン目。今季も例に違わずプレシーズンから4-3-3 ⇄ 3-2-2-3の可変システムに挑戦し続けた1年だった。
インバート型SBの役割を主に担ったのはキャプテンのジョシュ・デヴィッドソンとカイル・ケリーの2人。FAユースカップのようにフルメンバーで臨む試合では前者が、普段のリーグ戦では後者がこのタスクを担う機会が多かった。
既にU21への昇格を果たしているデヴィッドソンは小柄ながら足元のテクニックに優れサッカーIQも高い。U18ではDM、U21ではIHの経験もある為、インバート型RSBの役割に最適な選手だった。U21のシーズン終盤戦では本格的な中盤コンバートを行っており、モートンやマコネルに続くトップチームへの一気に駆け上がり得る若手筆頭候補だろう。
ウィルキンソンは彼らを上手く起用し、もしかするとトップチーム以上にスムーズに可変システムを実行していたかもしれない。クラブの方針転換を上手く遂行したウィルキンソンは若く優秀な才能に積極的にプレータイムを与えるだけでなく、年長組とのバランスやより適合性の高い新たなポジションへのコンバートなどを考えながら、リヴァプールU18を以前より競争力のある組織へと変貌させた。
またリヴァプールアカデミーの指導者はその後に良いキャリアを築く優秀な人物が多い。ジェラードやマイケル・ビール、ブラックプールを率いるニール・クリッチリー、ボーンマスやウルブズで確かな実績を残すギャリー・オニールなどはリヴァプールのアカデミーで指導者キャリアを積み重ねた。ウィルキンソンも今後はトップリーグの指揮官への歩みを進めるはずだ。
2012年にトッテナムから引き抜き、2014年からアカデミーマネージャーを務めるイングルソープも含め、クラブ主導でトップチームと同様のプレーモデルを導入する構造と文化を構築するには長い時間が必要だった。
クロップと参謀、そしてクラブ全体が同じ方向を向き、長く険しい道のりを共に歩み続け、築き上げた成果こそが現在のリヴァプールアカデミーの姿である。
⑷ 古典的な規則と明確な育成方針
「キャラクター、性格だ。クロップの在任期間にキャラクターが原因で競争から脱落した若者が誰ひとりとして居なかったのが何よりも誇れることだ。」
アカデミー最高責任者のアレックス・イングルソープは今季の躍進理由について質問されると上記のように即答した。
リヴァプールアカデミーには厳格な規則が多々存在する。ここでは幾つかを紹介しよう。
先ずはアカデミーの賃金上限が年間5万ポンドに定められていることだ。新規獲得や慰留の際もこの枠から外れる例外は存在しない。また安全のために若者が運転出来る自動車の排気量は1.3Lと決められている。更には朝の8時半以降、クラブ施設でスマホを渡され使用することが出来るが、帰宅する際にはスマホを再び預けることも決定事項だ。
一見オールドファッションなやり方にも思えるが、上記の規則は若者達がフットボールに集中し、最短でトップチームへと到達すること、更にはピッチ内の能力だけで自身の価値を測られることを目的に定められている。そしてこの結果、リヴァプールアカデミー育ちで素行不良が理由でキャリアが停滞する選手は近年皆無となっている。
またリヴァプールアカデミーは育成方針も明確だ。
クラブはアカデミーに在籍する若者の潜在的な市場価値を£300mと推計している。最近の各選手の活躍ぶりを考えると今では更に高いポテンシャルを予測しているかもしれない。そして当然、上記の推計は場当たり的な数字ではない。リヴァプールご自慢のデータ班が様々な統計を基に基準を明確にしており、プレミアリーグで活躍するスカッドレベルの選手の平均的な市場価値は週給も含めて£25m程度と考えている。
そして当面のリヴァプールが目指す方針はこの値まで到達する選手を数多く育成すること、要するに全体的な水準を引き上げることと言えるだろう。ハイフロアの若手を増やす、競争のレベルが高まる中でトップチームで活躍し得るハイシーリングの選手も生み出す。この流れを目指している。
加えてアカデミーの目的は必ずしもリヴァプールのトップチームで活躍する選手を生み出すことだけじゃないということにも言及したい。勿論1人でも多くの若者がその高みまで到達するのが理想ではあるが、現実はそう甘くない。
イングランド2部や3部へのローン移籍で活躍出来る選手、五大リーグ、特にプレミアリーグ内へ完全移籍を果たせる選手も当然育成大成功と言える。高い評価を受け完全移籍を果たしたブリュースターやフーフェル。数回のローン移籍を経て完全移籍を果たし、現在も立ち位置を確保するネコ・ウィリアムズやハリー・ウィルソン。今夏オファーが届くであろうケレハー。ローン先で評価急上昇中のモートンやセップ。
リヴァプール内に限らず、彼らが移籍先で活躍することが回り回ってリヴァプールアカデミーの評判を高めることに繋がる。業界からの評判の高さにより育成年代で有望な人材が集まり、更なるオファーが届く。ハイフロアの選手を増やすことでこの循環に入るのがリヴァプールアカデミーの方針だ。チェルシーやマンチェスターシティで育った選手が数多く活躍しているように、リヴァプールアカデミー育ちが対戦相手として猛威を振るう日を今か今かと待ち侘びている。
勿論一朝一夕で成し遂げられる道のりではない。
しかし現在アカデミー最高責任者のイングルソー
プを引き抜いてから約12年、クロップの就任から約8年と半年。
紆余曲折は多々ありながらもクラブはデータを活用しながら一貫した方針を取り続け、正しい方向へと歩みを進めて来た。その取り組みが漸く実を結んだのがクロップ最終年の今シーズン、リーグカップ優勝であった。
⑸ 大成功を収めるリクルートメント
近年のリヴァプールアカデミー改革を語る上でリクルートメント力の強化は切っても切り離せないテーマと言える。リクルートメント面での大きな改善が見られ始めたのは2019年頃に遡る。
【2019夏】
コナー・ブラッドリー
ジェームズ・マコネル
(ハーヴェイ・エリオット)
(セップ・ファンデンベルフ)
【2021冬】
ケイド・ゴードン
ステファン・バイチェティッチ
カラム・スカンロン
【2021夏】
ボビー・クラーク
【2022夏】
ベン・ドーク
トレント・コネ=ドハーティ
ケロン・サミュエルズ
【2023夏】
コーネル・ミスキウル
アマラ・ナロ
トレイ・ナイオニ
上記は2019年以降にリヴァプール移籍を果たし、1年以内にU18へと昇格した若手に限定したリクルートメントの一覧である。チェルシーから加入したものの、マージーサイドでの生活が肌に合わず、単年でロンドンへと帰還したサミュエルズを除き、他の全員がトップチーム入りを狙える素材。特に昨夏獲得したミスキウル、ナロ、ナイオニの3人は将来的にリヴァプールのスタメンの座をも狙えるレベルの逸材だ。これは驚異的な成功率と言えるだろう。
またリクルートメント力を考える際に留意すべき事実として地理と財政の問題が挙げられる。
リヴァプールが獲得を熱望する若者は基本的に英国内外の様々なクラブから声が掛かっている。ティーンエイジャーが生まれ育ち慣れ親しんだ環境を離れる決断を行うのは容易ではなく、ロンドンやマンチェスターの同地区でステップアップを望む若手が多い。またイギリス北部に位置するリヴァプールはイングランドで最も多くの才能を輩出すると言われるロンドン南部地域から若者を引っ張るのは非常に困難だ。
加えて財的的な問題も存在する。リヴァプールはアカデミーに投資する資金を年間£13mを上限に設定している。この数字はアカデミーへの投資を将来的にリターンで見込める金額から逆算して定められている。リヴァプールは過去10年の間にアカデミー出身選手の売却によって£160m程度を生み出しており、£13m × 10年 = £130mの支出を回収し、収支をプラスしている。今後はアカデミーの成長次第でこの金額は拡大すると見られる。
£13mという予算は勿論決して少ない金額では無いが、ロンドンやマンチェスターのビッグクラブが毎年£40m程度をアカデミー部門へと費やしている事実と比較すれば予算規模は大きくないと言える。
しかしその中で近年はリクルートメント面でイングランド屈指の大成功を収め、クオンザーやダンズ、クーマスのように10歳前後からクラブに所属する若者の育成との両輪が良いバランスで実現出来ている。比較的少ない投資で大きなリターンを生み出す現在のアカデミー方針は今後数年間にわたり戦力的にも資金的にもトップチームの好成績を陰で支える要因になり得るだろう。
しかしこれらの若者がスポットライトを浴びるにはトップチームの指揮官がアカデミーの若手を信頼し、出場機会を与えることが必要不可欠だ。
どんなに大きな才能を持っていたとしても輝くチャンスが無ければ何者にもなることは出来ない。マンチェスターシティからチェルシーへ移り、一気に注目の的となったコール・パーマーの活躍は分かり易い一例だろう。
では、これらの若手を信頼し起用し続けたクロップの退任後、リヴァプールはどのような未来を描くのだろうか。
⑹ 歩みを加速させるアカデミー改革
何度も申し上げたように今季はアカデミー改革の成果が遂に表れたシーズンであり、未だ序章に過ぎない。
トップチームでは03/04世代のジャレル・クオンザー、ハーヴェイ・エリオット、コナー・ブラッドリーが立ち位置を掴み取り、中心選手への階段を着実に登る。U21のボビー・クラークやジェームズ・マコネルも少ない出場機会ながら存在感を発揮。2部ではローン移籍中のタイラー・モートンがハルシティの中心的役割を担い、来季にはトッププロスペクトのステファン・バイチェティッチが本格復帰する。
成長痛と合併症により19ヶ月の離脱を強いられたケイド・ゴードンと15ヶ月間もピッチを離れたバイチェティッチ。世代有数の才能として高い評価を受けていた両者は大きな怪我を抱えていた訳ではなく、起用可能な状態ではあったが、クラブは短期的な結果ではなく長期的な利益を優先し、肉体作りとコンディションに専念させることを選択。前者は復帰から約半年経ち、漸く本来の姿へと戻り、シーズン終盤戦のU21では無双状態。来季のローンに向けてこの期間が無駄ではなかったと証明し始めている。同様にバイチェティッチも来季、そして今後10年以上に渡ってこの対応が最適解だったと証明してくれるだろう。
イングランド国内外では10代からプレータイムを重ねた才能豊かな若手達が大小様々な怪我に苦しむ現状を考えると、身体が出来上がる前の若手を酷使せず、結果よりも身体面の成長とコンディション調整を優先する方針を取るリヴァプールは賞賛に値する。
更にU18に目を向けると驚異的な急成長でトップチームへと駆け上がり、初ゴールを記録したルイス・クーマスとジェイデン・ダンズの将来有望なWストライカーが居る。またこの世代には真打ベン・ドークも控えている。現在は半月板損傷の怪我から順調にリハビリを進めており、来季に向けてコンディションを整えている最中だ。
しかし私が個人的に最も大きな期待を寄せているのはもう一つ下の06/07世代。来季スカラーシップ2年目となるこの世代はアカデミー黄金時代を予感させる逸材が揃っている。
ここでは筆頭候補6人の名前を挙げる。
先ずはU21でCBコンビを組む17歳のカーター・ピニントンとアマラ・ナロ。共に190cm前後の上背を武器に年上とのフィジカルバトルでも互角以上に渡り合い、シーズン通して堅固な守備陣を形成。特にナロに関しては来季U21でこれ以上やることが無いレベルにまで到達している。エアバトル、デュエル、対人の守備対応は全て文句無し。スピードも及第点以上でオンザボールでもオフザボールでも非常に落ち着いている。加えて高いビルドアップ能力も有する。ナロは左利きではあるが、両足で逆サイドまでロングフィードを蹴ることが可能。最近ではRCBに入る機会も多々あるが、ビルドアップの全局面を右足でスムーズに行える。これほど高い能力を持ったCBを私はリヴァプールアカデミーで観たことが無い。数年前はクオンザーとクメティオのコンビに感心したが、18歳時点の彼らよりも現在のナロは遥かに優秀だ。数年後ナロがリヴァプールのスタメンを張る姿は容易に想像出来る。
GKでは今季16歳ながらU18の絶対的に守護神に君臨し、既にトップチーム帯同を果たしているコーネル・ミスキウル。ポーランド国籍とイングランドの市民権を持つミスキウルは既に195cmの長身GKであり、抜群のショットストップを誇る。彼もまた今まで見てきたアカデミーの中で最も優秀なGKと言えるだろう。数年後、アリソンの後釜に収まっても全く驚きは無い。
更に今季U18のシーズンMVP、高いオンザボールの能力と強烈な左足を武器に前途有望な才能を遺憾なく発揮するレフティのキーラン・モリソン。今季はRWGでゴールに直結する活躍を披露し続けたが、フィル・フォーデンに例えられるプレースタイルから考えても将来的には恐らくRIH向き。
加えて今季は長期離脱を余儀なくされたものの、高いアスリート能力とフィジカルを有するフォラ・オナヌガ。非常に優秀なボックスtoボックスだ。
そして昨夏レスターシティから加入し、瞬く間にスター街道を駆け上がっているトレイ・ナイオニ。既にトップチームデビューを果たしたナイオニに関してはクラブが絶対にモノにしないといけない才能を備えていると言えるだろう。
彼らは今季スカラーシップ1年目の世代だが、6人全員が既にU21で堂々とプレー出来る能力を有している。
更にはU16のジョー・ブラッドショーやジョシュ・ソニー=ランバー、U15のアイザック・モーラン、U14のジョシュア・エイブとトップチーム入りを目指せる有望な若手が各年代に揃い始めた。また全体的な水準も確実に向上しており、ハイフロアな若手が揃う環境でハイシーリングの才能を育成する方針が功を奏し始めている。
(上記の数名やその他の若手に関する更に詳しい解説と展望は前作の『リヴァプールアカデミー・プロスペクトランキングTOP60』をご覧下さい。)
そして、ここで最も大切なのはクロップ退任後も現在の方針を継続出来るのか否かということだろう。
ここで計画を中断したら今までの取り組みが水の泡になってしまう。
そして、その答えはイエスだ。
クラブは現在のアカデミー改革を今後も推し進めるだろう。また一部希望的観測も含んでしまうが、更に良い方向へと加速する可能性さえ秘めている。
ここでアカデミーの育成論を進める前に来季以降の体制に関して軽くおさらいする必要がある。
クロップ退任により、FSGは体制転換を決断し、アメスポ型へと移行することを選択した。マイケル・エドワーズとジュリアン・ウォードをクラブに呼び戻し、ベンフィカからペドロ・マルケス、ボーンマスからリチャード・ヒューズを招聘、指揮官にはフェイエノールトからアーネ・スロットの引き抜きに成功した。
FSGはエドワーズを三顧の礼で迎え入れ、フットボールCEOに就任。マルチクラブ構想も含めた全体統括責任者となるはずだが、エドワーズの能力に関しては今更言及するまでもない。リヴァプール退団後、ビッグクラブが挙って声を掛けた欧州サッカーのフロント界におけるキリアン・エンバペのような存在だ。
リヴァプールのSDにはボーンマスで敏腕を発揮したリチャード・ヒューズが就くが、彼の任務に関しては多くの方がイメージし易いだろう。
指揮官のアーネ・スロットは決して予算規模の大きくないAZやフェイエノールトでの実績を高く評価され、クロップの後任に選ばれた。スロットの役割は"manager"ではなく、ピッチ内に限定された"head coach"や"trainer"として伝えられ、攻撃的な戦術と若手育成、マンマネジメントを買われての大抜擢と言えるだろう。ビッグクラブ適正は勿論未知数だが、過去の両クラブでアカデミー組や若手の登用を積極的に行っている経緯にリヴァプールのフロント陣は高評価を与えた。
そしてこの方針が今後リヴァプールで発揮されることにも期待して良いと考えている。現在のリヴァプールの若手は"クラブのアカデミー"だからというバックグラウンドによる消極的な理由でなく、能力や将来性といった要因で起用される段階まで到達している。また大きな権限を持たないスロットはクラブ方針と就任時の約束を反故出来ないはずという少し意地悪な予測も出来る。クロップと同様にAZやフェイエノールトで見せたアカデミー組の積極的な登用に期待したい。
そして新たな焦点となるのがジュリアン・ウォードとペドロ・マルケスの役割である。
では、先ずウォードの話から触れよう。
ウォードはTDに就任し、主な役割はマルチクラブ構想を進めるFSG全体のエリート選手育成戦略、リヴァプールアカデミーのローン部門統括、新たなフットボールイノベーション部門の設立と報じられている。
エドワーズの後任としてSDを務めていたウォードだが、彼の本来の役割はアカデミーやローンも含めた育成戦略だった。過去や現在のデータを基にリヴァプールの未来に必要な選手像を割り出し、育成部門に還元する。これが主なウォードの業務だ。そして今回はリヴァプールに限らず、FSGの傘下に加わった他クラブも彼が担当する。
また今夏からFSGに加わるペドロ・マルケスも重要なタスクを任される予定だ。
スポルティングではスカウトからアカデミーやトップチームの現場まで様々な経験を積み、マンチェスターシティではマルチクラブ構想を担当、ベンフィカではアカデミー責任者を担ったマルケスはデータを活用した分析能力に優れ、ウォードと二人三脚でリヴァプールの、マルチクラブ全体の育成やスカウティングに注力する。彼が過去に在籍したクラブのアカデミーが非常に優秀なのは言うまでもないだろう。
そして彼らによって将来的に価値を生む育成が今後のリヴァプールでは行われる。実績十分の両者は短期的な結果ではなく長期的な視座で3年後、5年後に必要な理想像を割り出し、そのゴールに向かっての人材育成を実行することが狙いだ。正直難易度の高いこの任務が実行可能なのか否かは読めない部分も多い。しかし仮に実現出来るのであれば、いち早く有効なデータを活用してリヴァプールに栄光をもたらした過去のように、他所のビッグクラブを出し抜くことが可能になるだろう。
またこれが実現出来れば新規獲得やマルチクラブ構想だけでなく、アカデミーにも良い影響がもたらされるはすだ。前述したようにアカデミーの育成目的は必ずしもリヴァプールで活躍し続ける選手を輩出することではない。少しでも高い価値を持つ選手を育成すること、ビジネス的に言えば金になる選手を生み出すことだ。そのためには将来的に需要の高い選手像を把握し、そこに向かって若手を育成する必要がある。現状、リヴァプールも含め多くのクラブが現代フットボールで価値のある選手を育成しようとしているが、アカデミーの若者が実際に日の目を浴びるのは数年後のピッチ。その答えを先にカンニング出来るのなら、本当にそんなことが可能であるのなら、独自の手法でアカデミー改革を更に推し進めることに繋がるだろう。最終目的地が分かればそこまでの道筋を立てるのも遥かに容易になる。
加えてエドワーズ、ウォード、マルケスは南米を始めとしたヨーロッパ以外のマーケットにも積極的に参入し、マルチクラブを利用した青田買いも今後は進めるはずだ。現在のリヴァプールは英国のEU離脱の影響もあり、16歳前後でのイングランド国内からの引き抜きしか行えていない。数年前のエドワーズがロドリゴやジョアン・ペドロ、エンソ・フェルナンデスやブルーノ・ギマランイスの獲得を望んだが、当時のクラブ事情で実現しなかったのは有名な話だ。資金力の限られたリヴァプールが競争力を高めるためには非ヨーロッパの若手確保は早急に解決が必要なクラブの課題となっている。
またローンの活用法も改善が必要な領域だ。モートンやセップ、ヤロシュのようなローン先で活躍し、市場価値を上げる若手は生まれ始めているものの、プレースタイルやシステムの影響でローン先で出場機会を掴めない選手も多く存在する。未だにローン移籍を最大限フル活用出来ているとは言い難いのも現状の課題である。アカデミーでの育成が成功したとしてもトップリーグで活躍出来なければ何の意味も持たない。当然クラブがトップチームで起用出来る若者の数には限りがあるため、ローン移籍で活躍の場を提供することは必要不可欠だ。こちらはウォードが主に担当すると見られるが、マルチクラブを持つこともローン問題を解決することに一役買う可能性はあるだろう。
上記の課題だけでもリヴァプールはクラブとして戦略的、戦力的、財政的に改善の余地がまだまだ残っていると言える。またアカデミーを含め、更に高い競争力を有するクラブへと進化する道も既に見えている。
そして、この未来に向けた希望、更に進化する余地が生まれたのはクロップが8年7ヶ月で築き上げた礎があってからこそ。元々の土台が無ければその上に積み重ねることなど出来やしないのだ。
クラブの成長と、ピッチ上の勝利を両立させた偉大な指揮官ユルゲン・クロップ。
アカデミー改革は彼の存在なくして成立しなかった。
リヴァプールアカデミーの改革は未だ夜明けを迎えたに過ぎない。
クロップのレガシーは過去に留まることなく、今後数十年に渡ってクラブの未来を明るく照らす。
ユルゲン・クロップに花束を。
リヴァプールフットボールクラブの未来は明るい。
『ユルゲン・クロップに花束を。
アカデミー改革が齎した最後のタイトル。』
以上が本編となります。
最後まで読んでいただき、誠に有り難うございました。
面白かったな〜。読んで良かったな〜。と思える内容に仕上がってることを願っております。
2015年10月8日から3147日。
栄光を掴み取ったシーズン、タイトルにあと一歩が届かなかったシーズン、怪我や不振で苦しみ続けたシーズン。
アリソンの劇的決勝点、アンフィールドの奇跡。
リヴァプールと、ユルゲン・クロップと喜怒哀楽を共にした8年7ヶ月。言葉では表現し切れない様々な感情を体験させて貰いました。
今こうしてnoteを纏めながら振り返ると、長いようであっという間の日々だったなと感じます。
当時、中学生だった自分はテレビの前でマージーサイドにやってきたドイツ人指揮官に心躍らせていました。
カオスを生み出し、プレスで相手を飲み込むヘビーメタルに感銘を受け、リヴァプールのスタイルに初めて誇りを持ったことを今でも鮮明に記憶しています。
当時と現在の自分を比較すると、リヴァプールに関する様々な情報を一次ソースで把握し、クロップの会見を自分の耳で聞いて理解出来るようになった語学力くらいしか変わってない気がします。良い意味で何も変わらず、学生生活の間、ずっと熱中させてくれたのがクロップ率いるリヴァプールでした。
そしていつしかアカデミーも追い掛けるようになり、最終年となる今季は若手が数多く躍動する夢物語を現実のものとして叶えてくれました。リヴァプールのアカデミーが大好きな自分でも正直このようなシーズンを見れるとは夢にも思っていませんでした。
ピッチ内の事象や戦術、政権後半の補強体制に関して賛否両論、私自身も様々な意見を投げ掛けた身ではありますが、クロップ政権が築き上げた功績はそのような小さな尺度で測られるべきではないでしょう。ピッチ上の成績やタイトル獲得数といった小さな物差しだけではこの8年7ヶ月の偉大さを理解し尽くせるはずがないのです。
アンフィールド拡張と新練習場建設に£250mもの大金を投じ、自身の退任後まで見通す長期的な視点でクラブの資産を成長させながら、限られた予算で30年ぶりのプレミアリーグ、6度目のチャンピオンズリーグ、計8つのタイトルをもたらしたこと。そして何よりもリヴァプールを再び競争力のある強豪クラブへと引き上げ、マージーサイドに情熱を取り戻したこと。
リヴァプールフットボールクラブは今後もクロップが築き上げた礎を土台に常に前進し続けるはずです。未来への期待で胸を膨らませながら、リヴァプールを愛しリヴァプールに愛されたレジェンドとの最後の別れを見届けたいなと思います。
いつの日かクロップが残したピッチ外での功績が今以上に高く評価される日が来ることを信じています。クロップが残したクラブの宝が今後更に躍動することを願っています。
リヴァプールというクラブに、街に、コミュニティ全体に計り知れないレガシーを残し、全てを良い方向へと転換させた漢が如何に大きな存在だったのか、リアルタイムで追い掛けた私たちでさえも理解し尽くせていないのかもしれません。何れにせよ就任初日から在任最終日までの全てをリアルタイムで見届けることが出来た幸運に感謝です。
"You have to change from doubter to believer."
"It's not so important what people think when you come in, it's much more important what people think when you leave."
就任時にクロップが語った言葉。
見事なまでの有言実行でした。
唯一違っていたのは彼が "the Normal One" では無かったことくらい。私にとって、リヴァプールにとって間違いなく "the Only One" でした。
稀代の名将との物語は今日でエンディングを迎える。
夢のような楽しい旅をありがとう。
リヴァプールに、ユルゲン・クロップの未来に、幸多からんことを。
ユルゲン・クロップに花束を。
Danke schön.
Auf wiedersehen.
Jürgen Norbert Klopp.
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