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一目惚れは孤独の現れ

一目惚れは孤独の心理ーー加藤諦三先生の言葉です。通常、私たちは10代の若い時にこそ、一目惚れという熱病のような恋心を体験します。でも、精神が成熟していくと、異性を外見や雰囲気だけで選ぶことはほぼなくなります。心理的安定と自己肯定感が深まるにつれ、自ずと相手の精神、つまりは存在のエネルギーにこそ反応し、それによってお互いに惹き合い相手を受け入れていくからです。



これはまさに占星術が教えるところでもあります。女性にとっての火星はアニムス、男性にとっての金星はアニマを意味しています。アニムスは女性の無意識の中にある男性性(理想の男性像・男性原理)であり、アニマは男性の無意識の中にある女性性(理想の女性像・女性原理)です。



たとえば、火星が牡羊座にある女性は、エネルギッシュで能動的な自分をリードしてくれる男性が好みです。そのような理想の男性像を無意識的に持っているからです。金星が山羊座にある男性は、どこかしら古風で誠実、帰るべき港でいてくれるような、決して自分を裏切らない女性が好みです。そのような理想の女性像が無意識下に存在しているからです。



アニマとアニムスには成長段階があります。わかりやすく言うと、肉体レベル(動物的な肉愛)、精神レベル(人間的な愛)、霊的レベル(統合された段階の愛)です。私たちは、この段階を経て、自己を成長させていかねばなりません。心理学的には4段階に分類されます。女性にとっての理想の男性像であるアニムスを例にあげます。



第1段階は力のアニムス。この段階では男性的な力強さ、体格や俊敏さなどに惹かれます。たとえば、「大きくて頼りがいがある感じ」「体力があって強そう」といった肉体的なイメージに価値を見出している段階です。

第2段階は行為のアニムス。男性的な行動力や実行力に憧れを抱きます。たとえば、昼夜を問わずバリバリ働くようなバイタリティ、感情を排して突き進む潔さといった行動面に価値を感じます。

第3段階は言葉のアニムス。この段階からは、知性を発揮して仕事や諸事に対処する力に価値を感じていきます。物事を論理的かつ合理的に処理し、言葉で説明できる聡明な人に憧れを見出します。いわば精神面に価値を見出している段階です。

第4段階は意味のアニムス。知性をさらに熟成させ、物事や人生に秘められた深い意味を読みとれるまでの深い洞察力や人間的成熟度を持った人に価値を見出します。ここでは霊性に価値を見出している段階と言えるでしょう。



この4つの段階を踏んでいくことは「イバラの道」と言われます。この階段を上り切ることが、まさに人間的成熟、心理的自立、真の大人になることだからです。それは「知性と強さの獲得」を意味しており、自らの内側で女性性と男性性(あらゆる二極)を統合していくことに他なりません。



他者からの愛や承認を必要としない段階、この世界に自分一人で真っ直ぐに立っていられる状態、あらゆる出来事や感情体験を自分一人で昇華させることができる段階ーーそこに至ると、いわゆる熱病のような一目惚れは起こりません。何歳になっても、たとえ結婚していても、異性に対して「素敵だなぁ」とときめくことはあるでしょう。むしろある方が健全です。



でも、精神が段階を経て成熟しているならば、異性の外見や雰囲気に触れただけで、自分の中心軸が持っていかれるほど惚れ込んでしまうことはないはずです。大人になっても、常にメンターやグル、あるいは庇護者を求めてしまう心理状態と一目惚れの心理状態は同じものと言えるでしょう。



自分を明け渡してしまうほど、あるいは、自分の軸が傾いてしまうほど、誰かに惚れ込んでしまうーーその心理状態は孤独・不安そのものです。もっと端的に言うと「自我がないから」です。ありのままの自分を認め切っていない、自分を丸ごと愛するという意味がわからない状態なのです。



やたらとすぐに怒る人、異様なまでに感情的になる人も同じですね。自分にとって大して重要でもない出来事にいちいち反応し、不快感や怒りを露わにする。これは自我=自分がないからです。これが自分であるという手応えも自己肯定感も危うい状態なのです。



感情が強く反応してしまう出来事に遭遇したなら、感情と自分自身を同一化させずに、それを外から眺め、私たちの内側にあるどんな怒りや悲しみや不安が反応しているのかを見てあげる。それこそがアニマ・アニムスを成長させていく賢明な方法です。



先日、私自身もバスの運転手さんに過剰反応しました。いきなりケンカ腰で対応されたので、相当ムカっときたのです。その時、相手が悪いと思って終わることもできるわけですが、真実は違います。同じ出来事に遭遇しても、みんなが感情反応を起こすわけではありません。



反応を引き起こしているのは相手の態度ではなく、私たちの内側にある昇華されていないままの怒りや悲しみや恐怖です。アニマ・アニムスが最終段階にまで成熟していれば、相手の言動と自分自身を同一化しないので、自らの感情反応にも飲み込まれず、相手の状況を想像して慮る余裕が生まれます。



その運転手さんはストレスがマックスに達しているのかもしれません。精神的にかなり追い詰められているのかもしれません。お客さんに対して喧嘩腰でものを言うーー少なくとも、それ自体が健全で成熟した精神状態ではないわけです。



占星術は叡智の詰まった宝箱です。パートナーシップに問題を抱えているのであれば、まずは自分自身のアニマ・アニムスを見つめてみてください。女性にとっての火星星座は理想の男性像です。それを相手から与えてほしいという無意識の欲求があります。最終的には自分自身の中にこそ、火星星座が示す要素を見出していかねばなりません。それに気づいて培い、外側に引き出していく必要があります。



火星=内なる理想の男性像が示す要素➕7ハウスのサインと天体=他者へと投影してしまい自分に欠けていると感じる要素。これらを相手から与えてもらうおうとする限り、何度も衝突や失望を繰り返すことになります。パートナーシップが決裂する大元の原因はここにあると言っても過言ではありません。たとえば、女性の火星が獅子座にあれば、パートナーや配偶者に「強く逞しく信頼できるリーダーのようでいてほしい。いつも眩しい存在でいてほしい」と願うでしょう。



でも、それ(獅子座的要素)はあなたの中に眠っている資質であり、相手に投影することをやめ、自分で自分にそれを与えることができるようになると、アニムスは成長していくのです。獅子座が象徴する生きる喜び、まばゆい生命力はあなたの中にこそ眠っているのです。全ては自己同一化を止めること、外側にエネルギーや愛を求めることを止めること、なんです。



大事なことは、自分自身を心から大切にして、無条件に自分自身を愛することです。



時折、恋愛で苦しむ若い女性から相談を受けることがあります。死ぬほど気持ちはわかります。恋愛は苦しいです。愛を得たいのにそれが得られなかった時、私たちは死と隣り合わせになります。だからこそ、アニマ・アニムスの階段を上がっていくことは命懸けです。でも、必ず乗り越えることができる、いつか素晴らしいパートナーシップを築くことができる、それを忘れないでください。人生は案外素敵なものです。

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