月蟹座~二人の母
私には蟹座の月(これは無意識の恐れとしての月です)を持つ二人の母がいます。一人目は実母です。本質的な彼女は太陽双子座らしくフットワークの軽い明るい人です。また、本当の月は山羊座にあたり、素の部分は合理的で何らかの現実的成果を上げることを好みます。
そのせいか、太陽期後半から火星期にかけて、ほとんど休みのない状態で飲食店を経営していました。そこには苦しいこともあったのでしょうが、それ以上に、太陽の純粋な喜びが存在していることが見て取れました。でも、どこか母が苦しそうに見える・・・どこか悲しそうに見える・・・それが何なのか、長い間、理解することができませんでした。
しかし、月理論を知ってからというもの、いかに母が蟹座の月に翻弄されてきたのか、それが手に取るように理解できます。どこからか漏れ出す母の苦しみや悲しみ、それが月にあったのだと思う度、胸がチクリと痛みます。月という無意識の恐れや焦燥感に捉われると、母はとても感情的で破壊的になります。二人の兄も私も、彼女の月の暴走に、なすすべもなく付き合わされてきました。
蟹座の月に捉われると、母親や主婦という立場に置かれていることがどうしようもなく苦痛になり、その閉塞感から逃れたくて、イラダチや冷酷さをむき出しにすることがありました。本来の母は慈悲深く、とりわけ、貧困や病気等で苦しんでいる人には惜しみなく手を差し伸べる人です。
しかし、その母が豹変するのです。もはや、別の人格にしか見えません。こちらの心を引き裂くような冷徹で暴力的な言動をとり、嵐のような激情をそのまま発散させます。幼い時、私はよく泣いていました。豹変する母を見てどうしていいのかわからず、また、母の苦しみや悲しみに共鳴して、ただ泣くことしかできなかったのです。
※欠損としての蟹座の月を持つ場合、通常は、気分の浮き沈みがなく、情緒が一定であるため、母の場合は何か別の要素があるのだと思います。月が冥王星とアスペクトしているのかもしれませんが、生まれ時間がおおよその特定しかできないため、明確な因果関係はわかりません。
やがて、比較的早い段階で、私は母との感情的決別を果たしました。自分と母とは別々の存在であり、母の重荷まで背負う必要はないとの結論に至ったわけです。そうすることでしか、私自身、健全に自己を保つことができませんでした。おそらく、長兄も同じです。しかし、一番優しい下の兄は母と月で繋がったままです。つまり、母親と健全な境界線を持つことなく大人になりました。
母と下の兄は、いまだに共依存状態です。実家は家族経営で仕事をしているという背景があるにせよ、大のオトナである兄の金銭管理を母が行っているという異様なまでの不健全さ。兄に届く郵便物も平気で開封します。兄は何度かその「囲い込み」に対して、怒りを露わにしてきました。しかし、真の解決法は母を責めることではなく、兄自身が母から自立すること、共依存の鎖<月の連鎖>を断ち切ることなのです。
また、二人目の月蟹座の母は夫の母、つまり、私にとっての義母です。彼女には二人の息子がいて、長男が私の夫です。50歳を迎えようという次男はいまだ独身です。長男は早い段階で母親からの自立を果たしていました。しかし、とても繊細で優しい次男は母親と強い共依存状態です。以下、次男をMと記します。
Mには結婚を考えた女性がいましたが、義母がお相手をよく思っていなかったこともあり、破局。今や、金銭面も義母に丸投げ状態です。そして、関東に住むMと神戸在住の義母は毎晩のように電話で話をしています。ユリシスの目から見ると、二人が健全な関係だとは、到底思えないのです・・・
経済的にも心理的にも共依存。母親の囲い込みの鎖の中で魂を抜かれ、M自身が成熟した男性になることを、もはや放棄しているように見えます。年に数回ほど、Mと会うことがあります。本当のMはもっと明るく社交性があり、自分の信念や価値観を持っています。本当は心通じ合う友達や人生を共に歩むパートナーを強く求めていることが、ふとした瞬間、透けて見えるのです。
しかし、すべてのエネルギーを母親へと繋げているため、もはや、友達も恋人もいらないというそぶりです。自分が大人の男性として自立することや配偶者を得ることが、そのまま母親を悲しませることなのだと信じているように見えます。その言い得ぬ哀しい様はまさに私の兄と重なります。
以前、義母にこう訊ねたことがあります。「お母さん、でも、M君がずっと独身だったら心配じゃないですか?このままでは、お母さんがいなくなった後、M君は孤立無援の状態になりませんか?」すると、義母は即答しました。「別に。何で私がそんなん思わなあかんのよ?」
私は内心、驚愕しました。二人の母が重なって見えました。あぁ、この人たちは本当の愛情が何なのか、全くわからなくなるのだ!蟹座の月に翻弄される時、本当の母の愛とは何か、本当の親としての役割とは何か、自分を守りたいが故に、それが全くわからなくなるのだ・・・
この状態から抜け出す方法は、マドモアゼル愛先生が仰る「心理的母殺し」を行うことであり、個の人間として母親との精神的決別を行うことに他なりません。母との共依存、囲い込みから脱出できない息子たちには多くの共通点があります。ひとつは女性と対等に付き合えないことであり、オスとしての健全な行動がとれないこと。
恐らく、自分が大人の男性として成熟し自立してしまうと、母親が発している暗黙の信号ーー「いつまでも私の管理下にある小さな男の子であれ」「私の庇護を必要とする自由意思を持たない存在であれ」という呪いが解除されてしまうことを知っているのです。その呪縛を解除すること、それは母なる存在への反逆でもあるのです。
つまり、月で躓くと、金星も太陽も火星も木星も獲得できない、或いは、獲得が不完全になるということなのです。女性を愛することも男性というセクシャリティを持つ存在になることも、そして、太陽というセルフを獲得すること自体も、自ら禁じてしまうのです。月にはすべてのボタンを掛け違えさえるだけのパワーがあります。
月蟹座ーー
「我感じる」の欠落。母性を見失い、心の拠り所を失わせる月。子どもを依存させ囲い込むことが愛だと勘違いさせる月。自分を自分で支え、守ることができない月。
月はどの月も強烈です。しかし、気づくことでその鎖から解放される・・・月に翻弄されて生きてきた私の母に認知症の診断が下りました。生きている間に、彼女が蟹座の月から自由になることはできないかもしれません。しかし、私はだからこそ、月理論を必要とされる方に伝え続けていきます。
月を伝えることは時に胸が痛みます。決して簡単なことではありません。でも、私自身、この事実を知ってしまった以上、それをやらないという選択肢はないのです。そして、月はなくならないものであり、一生付き合っていくべきものでもあります。だから、終わりや完成はなく、よりよい付き合い方、より詳細で深い月の読み方を模索し続けていこうと思います。