0016 コレクションブランドとキコ・コスタディノフのドロップしたアイテム 2 「コレクションブランドによる直販の可能性」
2022年5月11日追記:タイトル含め、一部表記、一部文章を変更しました。
こちら前回の記事の続きとなっておりますのでぜひ『0015 コレクションブランドとキコ・コスタディノフのドロップしたアイテム 1 「コレクションブランドの消費プロセスとセレクトショップ」』を先に読んでいただければと思います。
キコ・コスタディノフのドロップしたアイテム
ここまではコレクションブランドにはランウェイやルックには登場したが実際には生産・販売されなかったアイテム、すなわちドロップしたアイテムがあるという話をしてきました。それらが生産に至らない理由は様々ですが、人々に届けられない事が残念でならない魅力的なアイテムは多々あります。今回は僕が得意とするブランドKiko Kostadinov(キコ・コスタディノフ)のコレクションから一部紹介していこうと思います。
本来なら時系列順にファーストコレクションから取り上げていきたいところですが、キコの1-3シーズン目までは取り扱い小売店が限られていて流通しているアイテムの把握が難しいため一旦飛ばします。初のランウェイショーとなった4シーズン目も見た限りドロップしたアイテムは無かったため飛ばします。5シーズン目も生産されなかったカラーバリエーション(以後カラバリと表記)はあるもののアイテムの型ごとドロップした物は無かったので飛ばします。むしろ5シーズン目はランウェイには登場していないカラーバリエーションの商品が販売されていて面白かったので、こちらはまた別途取り上げようと思います。
6シーズン目以降はブランドとコレクションの規模も大きくなりちょくちょくドロップアイテムも出てきています。6シーズン目2019年春夏コレクション「00062019 Interviews by the River」からはこちらのニットスカーフとニットパーカーがドロップしてしまいました。
古代マヤ文明やメソポタミア文明の壁画に描かれているような人の横顔を模した柄は当時のキコのブランドイメージからはかなりかけ離れた茶目っ気のあるデザインで、バイヤーにはハマらなかったのかもしれません。あるいはジャカードニットという特性からコスト的にハマらなかったという可能性とあります。僕はこれらが一番欲しかったアイテムだったのでかなり悲しかった記憶があります。
その他にもドロップしたカラバリとしてASICSコラボから半透明な肌色のパーカーと同型のホワイトのセットアップ、ホワイトのスニーカーなどがありました。タンクトップも元からスタイリングのみ用なのか、生産販売された形跡はありません。
続いて7シーズン目、2019年秋冬コレクション「00072019 Midnight Stripe」からは型ごとドロップしたアイテムが2点ありました。一つ目はルック17のロープチェックハーフジップジャケットです。アシンメトリーなデザインで胸元まで開くジップファスナーが特徴的なこのジャケットは、裾と袖口がゴムでギャザーしてあったり脇が切り替えられていてスポーツウェアっぽいディテールが魅力的だと思います。スポーツウェアという要素は5シーズン目以降キコのデザインに頻繁に見られるようになった重要なポイントなので要チェックです。
もう一点はルック26に使用されている斜めストライプのニットトップスです。こちらはストライプ柄の一本が透明な糸で編まれていて部分的に透けるようになっているところがとても良いのですが、技術的に量産は難しいからか、はたまた人気がなかったのかドロップしてしまいました。
その他にもローファーの白やシルバーのスカーフ付きコートなどのカラバリがドロップしています。一方でこのコレクションでは一部カラーをブランド公式オンラインショップ限定で販売することで、これまでオーダーが付かず生産を諦めざるを得なかった商品を世に出す糸口が見つかったようです。
最近(というよりもはや数年前)ではD2C(Direct to Consumer)が盛んに取り上げられますが、これはブランドが小売店などを挟まずに独自のチャネル(=売り場、窓口最近ではECが主)を通して直接消費者に販売するビジネスモデルの事を指します。より分かりやすく言うと直販(直接販売)です。
ファッションブランドが直販をするということは少なくとも最低ロット数の在庫を自ら抱えることになるので、自社EC(Electric Commerce=オンラインショップのこと)で売り切る見込みがないとこの取り組みをすること自体リスクになり得ます。
一方で小売店などや個人客によるオーダーの有無に問わず自分達が売り出したい物を自分達でリスクを背負って出せるというのは魅力的です。
コレクションブランドによる直接販売が持つ可能性
ここではあえてD2Cという単語を使わず直接販売/直販と言っていきたいと思います。なぜなら、D2Cと言われても分からない人には何が何だか分からないし不親切だからです。それよりも慣れ親しんだ日本語の略語である直販の方がまだ「直接販売かな?」と予想できます。
キコは6シーズン目あたりから自社ウェブサイトにオンラインショップ機能を設けて、コレクションの余り生地を使用したオンライン限定カラーの商品を数量限定で販売していました。これらはかなりの少量生産ということもあり、強いファンダム(Fandom。英語圏におけるファンコミュニティの呼名)を持っているキコの限定商品はまたたく間に売り切れます。これはまさに前回の記事で述べた2つ目のドロップ、ドロップカルチャーのビジネスモデルを採用していると言えます。
以降、毎コレクションの限定商品に加えてスニーカーの先行リリースやコラボコレクションを自社ECで展開してきたキコ・コスタディノフですが、現在では「KK」という直販ライン(ラインとはブランドをより細かく区分する際に使用される名称です。メンズライン、ウィメンズラインといった使われ方をします。)を本格的に始動させています。一部商品のオンライン先行販売に始まり、先日ロンドンで2日間のフィジカルポップアップが開催されました。
コロナ禍で小売店が苦境に立たされるなか、必然的にブランドも小売店に頼らないビジネスの在り方について本格的に検討しなければいけなくなりました。これまでは小売店との関係を保つ上でもブランドがお客さんに直接販売するのはあまり良くないという暗黙の共通認識があったように思います。実際、ブランドが展示会を一般にも開きファンの多くが直接オーダーしたことで、そのブランドを取り扱っているセレクトショップに嫌な顔をされたという話も聞いたことがあります。
KKラインの展開にもそういったセレクトショップで服が売れないという課題などに対処するという側面もあるのでしょう。しかし小売店ありきの商売をやってきて直販のノウハウがないブランドにとっては諸刃の剣でもあります。とはいえやらずには最早やっていけないというのが現在のファッションの世界ではないでしょうか。インターネットとデジタルテクノロジーの本分はあらゆる物事を省略、簡略化して距離を短くすることにあります。
コレクションブランドにとって自前のオンラインショップを通して直販することは、誰がなんと言おうと自分達が作りたい物を作って売ることができるけど「ちゃんと売らなければいけない」という重責がまとわりつくことを意味します。またそれが枷となって結局作りたいものを作れなくなってしまう(売り切らなければいけないため、作りたい物ではなく売れる物を作ってしまう)というトラップが敷かれています。可能性は良い方と悪い方、両方に開かれているのです。
話をドロップしたアイテムに戻して、続いてシーズン8、2020年春夏コレクション「00082020 TULCEA 189/965」からはルック20のグリーンの上下とその中に着ているターコイズのスカーフシャツや、かなりの色数あった帽子の一部カラバリがドロップしていました。ただアイテムごとドロップしたものはなかったようです。
もう少し続けたいところですが長くなりすぎるとだれるので続きはまた次回に繰り越そうと思います。キコ・コスタディノフの商品は現在シーズン11、2021年秋冬コレクションが店頭に並んでいます。次回は残り3コレクション分のドロップアイテムを取り上げます。
(3につづく)
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