0015 コレクションブランドとキコ・コスタディノフのドロップしたアイテム 1 「コレクションブランドの消費プロセスとセレクトショップ」
新年あけましておめでとうございます。昨年は本業が多忙を極め長文を書くモチベーションを削がれてしまっていたので、2022年は今まで以上に軽い文を頻繁に書くというやり方にシフトしようと思います。本年も何卒よろしくお願いいたします。
さて、最後に投稿したKiko Kostdinov AW21コレクションのレポート以降キコはSS22コレクション、BOREDOMS EYƎとのコラボアイテム、Asicsとのオリンピック記念リリース、ASICS・BRAINDEADとのトリプルネームスニーカー、KKラインのポップアップイベント+カプセルコレクションの発表と様々な展開があり、書かなければいけないことは増えていくばかりです。
書きかけの過去のコレクション解説やレポート記事は多数ありますが、ここは手慣らしも兼ねて新たにテキストを書いてみました。とはいえ僕に求められているのはキコ関連の記事だと思うので、キコを絡めつつファッション全体に関する話にしてみました。
※本記事で太字にしている単語については今後追記や別記事で説明していきます。最終的にはこのnote内で相互参照できるwikiのようにする予定です。
閉鎖的なファッション業界
ファッションの話をするとき、そこには
と主に3つの意味があると思います。
3つ目の文化/産業としてのファッションに興味を持ちファッションメディアやファッションに詳しい人の発信に耳を傾けてみると、そこはよく分からない単語が説明されることもなく飛び交っている場所だということにすぐ気づくでしょう。しかしファッションに限らず業界の内側にいる人たちは自分から聞かない限りそれをいちいち丁寧に説明してはくれません。
自ら探求し知ろうとする努力ができない人に軽い気持ちで来られても大変な現実を味わわせるだけだし、この不親切さがフィルターとして機能しているというのはわかります。正直ファッションに関してはこの世界の基礎や語彙が教科書にまとめられている訳ではないし、流行り廃りの速さ同様に使われる言葉やルールもすごい速さで変わっていくし、真逆になることだってあります。
なのでこれまで通りファッションに興味を持った人は自分で検索したり話を聞きに行ったり、思い切って飛び込んでみて学んでください、以上。
と言いたいところですが、その結果出来上がったのが内側にいるけど実は自分がいる場所、やっていること、使っている言葉を理解していない人で思いのほか溢れているファッション業界なのではないでしょうか。
当然、体験を通して知ることが何よりも有効であることは間違いありません。ファッションの世界に憧れを抱いて今から足を踏み入れようとしている人たちにもきっとそうすることを勧めるでしょう。しかし勧めたところで「自分にはまだ早い」「もう少し様子見したい」とその一歩を進めない人が増えているように感じます。
予備知識がないから躊躇しているというのであれば、僕が知りうることは可能な限り共有して、言い訳の余地をなくしてやろうとすら思います。それが僕に思いつく能動性を尊重しつつ背中を押す数少ない方法です。オンライン上の一方的なコミュニケーションで出来ることはもうそれくらいしかありません。(なのでぜひDMでもリプライでも気軽に声をかけてください)
僕が持っている知識と経験というのも些細で偏りがあると思いますが、誰かの役に立つと信じて発信していこうと思います。一つ一つ事細かに説明しても長ったらしくて頭に入ってこないので、異なる角度と距離から同じ話をすることで理解を深めていく方法を心がけます。
この試みの初回となる本記事では僕が散々取り上げてきているキコ・コスタディノフなどのコレクションブランドとはどういうものなのか、僕なりの視点でざっくりと話していきます。
コレクションブランドとはなにか?
早速ですが、コレクションブランドとはコレクションと呼ばれる単位で商品/作品を発表するファッションブランドのことを指します。コレクションとはある一定のテーマやコンセプトのもと制作される複数の服をひとまとまりとして発表する枠組みです。コレクションブランドと呼ばれるブランドにはそれ以外にも条件があります。
コレクションブランドは基本的にランウェイや写真(ルック)、ビデオプレゼンテーションという形で新作を発表します。発表直後にプレス(コレクションを広く発信するメディアの人たち)やバイヤー(ブランドの商品を自分のお店で売るために買い付ける人たち)向けの展示会が開催され、バイヤーの方々は次のシーズンに自分たちのお店で売りたい商品を選んでオーダー(発注)します。
これらは概ねファッションウィークと呼ばれる期間に発表され、海外からも訪れるバイヤーの人達がまとめて色んなブランドの展示会を回れるように都市ごとに時期をずらして開催されます。パリコレやロンドンファッションウィークと呼ばれているものがそれです。パリコレ(正式には「Paris Fashion Week」)が最も歴史が長くヒエラルキー的にもトップに位置しており、それに続く形で「Milan Fashion Week」や「London Fashion Week」「New York Fashion Week」などがあります。
各国が独自のファッションウィークを開催していますが、世界的に展開するブランドにとってはパリ・ミラノ・ロンドンが主要なファッションウィークとされています。ヒエラルキー以外にもそれぞれに特色があり、パリは歴史的にもファッションの頂点で、ミラノはメンズウェアが強く、ロンドンは多くの新人や若手がデビューコレクションを発表するフレッシュな場となっています。
要約するとコレクションブランドの商品はファッションウィーク中に発表され、その期間中に開催される展示会でバイヤーからのオーダーを受け付けた後に生産に入り、約半年後にお店に並びます。この一連のプロセスが春夏・秋冬と半年に一度、大きいブランドともなるとプレフォール・リゾートコレクションも加えて年に計4回新作が発表されます。ブランドによってはレディトゥウェア(ウィメンズウェア)とメンズウェア、クチュールなど複数のラインを展開している場合もあり、1ブランドが年間に制作・発表するコレクションの数は4つどころではない場合も多いです。
「ドロップ」とセレクトショップ
ファッション業界で使われる「ドロップ」という単語には複数の異なる意味と使われ方があるのでとてもややこしいです。ランウェイやルックでは発表されたけど実際には生産されなかった=ドロップした(落ちた)アイテムや、NikeのスニーカーやSupremeのTシャツのように主にストリートブランドが数に限りのある限定商品を投下する=ドロップする売り方/マーケティング手法(ドロップカルチャー)や、注文が入った時点でメーカー(製造業者)やベンダー(卸売り業者)から商品を発送するネットショップが採用する取引方法「ドロップシッピング」などがあります。
今回取り上げるのは1つ目のランウェイやルックでは発表されたが実際には生産されなかった=ドロップしたアイテムについてです。
ひとつのコレクションが有するルック数はおおよそ30〜70体とブランドの規模によって異なり、これといって決まりはありません。中にはメンズとウィメンズを混ぜて100体を超えるルックからなるコレクションもありますし、ルック写真のみでの発表の場合30体を下回ることこともあります。これはモデルが服を着て歩くランウェイプレゼンテーションではルック数が20後半を下回るとショーとしての規模感を出すのが難しくなるためという理由があります。(もちろんこれは演出によりけりです)
1ルックには大体2-5アイテムが使用され、色違いも含めてなるべく同じ組み合わせにならないようにスタイリングされます。キコ・コスタディノフのAW19コレクションを例に上げると、34ルックに対して発表されたアイテム数は色違いを個別にカウントして計81点あります。この中には発表はされたけど実際には生産・販売されなかったドロップアイテムも含まれています。その他にもランウェイには登場していないが販売されたアイテムやカラーバリエーションもあります。
ドロップしたアイテムを深堀りするおもしろさはブランドが打ち出したい商品とお客さん(正確にはバイヤー)の好みや読みのズレが見えるところです。バイヤーは買い付けた商品をお客さんに売らなければいけない訳ですから、当然売れる商品を仕入れたいと考えます。ただ売れるだけでなく自分の店に合ったテイストの商品や、他に取り扱っている商品と相性の良いものを仕入れてスタイルとして売り出すのこともセレクトショップの醍醐味です。セレクトショップはバイヤーの目利きで商品をセレクト(厳選)していることが価値となっています。
セレクトショップの価値と役割
しかし近年ではお客さんに売れるからという理由だけで人気のブランドを取り扱ったり、確実に売れるであろう商品だけ仕入れてあまり冒険をしないセレクトショップも増えています。セレクトショップがお客さんに売れるか分からないけど良いと思った商品をオーダーすることが「冒険」扱いされてしまうこと自体良くないのかもしれません。実店舗を持つショップが接客を通して商品を購入まで持っていくのはオンラインショップにはない力の見せ所ですし、店員を雇う意味そのものと言えるからです。
ブランドは売れないけど作りたい商品を諦めなくてもよくて、ショップは良いと思った商品を仕入れてちゃんとお客様に売れるというのがブランドにとってもショップにとっても理想的な形だと思います。しかし現実はそう甘くなく、バイヤーが良いと思ったクセの強い商品が売れ残り続けシーズン終わりに半額で売りに出されているどころか、数シーズン経っても系列の在庫処分店舗に並んでいるということがあります。このような在庫商品はデッドストックと呼ばれコレクターにとっては買い逃した商品を入手できる貴重な機会でもあります。
ブランドは基本的にオーダーが生産に必要な最低ロット数付かないとその商品を生産できません。正確には生産コストが見合わないので諦めざるを得ません。なのでセレクトショップによる「冒険」はある面ではブランドのクリエイションを支えているのです。しかし結果的に売れないとセレクトショップ側も次のシーズンからそのブランドを扱うこと自体やめなければいけなくなります。
ドロップしたアイテム
書いているうちに話題がズレてしまったので一旦「ドロップしたアイテム」に話を戻します。
ドロップするアイテムが生産に至らない理由は様々です。先程挙げたようにオーダー数が生産に必要な最低ロット数付かない、使用している生地が生産分確保できない、作りが複雑すぎて量産するにはコストが見合わない等。コレクションが発表されたときに目をつけていたアイテムがドロップしているとこの上なく悲しい気持ちになります。
そこで今回はキコ・コスタディノフのこれまでにドロップしてきた幻のアイテムたちをピックアップしようと思います。しかしすでに4000字を超えてしまっているので続きは次回に繰り越します。2022年の目標は5分で読める分量(おおよそ3000字)を頻繁に書くことなので、無理に詰め込まず区切って記事を投稿していこうと思います。
(2につづく)
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