0009 時代に適応した新たなファッションデザインの構築について


 これまでキコ・コスタディノフに関する記事を中心にほぼ自己満的に書いてきたが、今回はより一般的なファッションデザインそのものの話について書こうと思う。題名は「時代に適応した新たなファッションデザインの構築について」である。これを語る上では多くの前提を話さないと伝わらないことがほとんどであると予感しているが、ここは初期衝動を大事にしていきたいので、まずは勢いだけで書いていこうと思う。それを公開した後に少しずつ修正や追記、改訂を繰り返して記事を完成に向けて書き続けていく予定である。

0009 時代に適応した新たなファッションデザインの構築について

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ファッションデザイナーという職業

 みなさんはファッションデザイナーと言われるとどういった職業を想像するだろうか。布をマネキンの上で操作して服の形を作る人、服のイラストを書く人、指示を出しデザイナーが描いてきたイラストを精査し意思決定をする人。実はこれらはどれもファッションデザイナーの仕事内容であると言える。ファッションデザイナーという職業でやることにに明確な型はなく、とにかくそれぞれのやり方で「ファッション」を提案する人のことを我々はファッションデザイナーと呼ぶ。

ファッションとはなにか

 ではファッションデザイナーが提案する「ファッション」というものは何なのか。ある辞書にはファッションは「流行」であると書かれているし、wikipediaには「ある時点において広く行われているスタイルや風習」と書いてある。さすがwikipedia、非常にわかりやすく的確である。ここで言われているスタイルは「装い」とも言えるだろう。つまりファッションとは「時や場所と密接にリンクした人々の装いや風習」であるとパラフレーズできる。

従来のファッションデザイン

 先程、ファッションデザイナーのあり方の事例をいくつか上げたが、一般化するとファッションデザインという作業は主に2つの要素に分解することができる。一つは「デザイン」もう一つは「パターン」である。デザインを「スティリズム」、パターンを「モデリズム」、それらを行う人を「スティリスト」と「モデリスト」と呼ぶこともあるが、ここではデザインとパターンで進めていくとする。
 デザインは主に服の形や色、シルエット、ディテールなどことを言い、従来の方法ではデザイン画と呼ばれる「人がその服を身にまとったイラスト」を描くことで行われる。パターンはそのデザイン画を元に実際に布で服を作るための型紙を作ることを言う。これには平面と立体を行き来するセンスがあると非常に有利で、小学校の算数の展開図が得意だった人は向いているかもしれない作業である。
 従来のファッションデザインはデザイナーがデザイン画を描き、パタンナーがそれを元にパターン(型紙)を起こすことで成立している。これにもう一つ基礎的な手法を加えるとすれば、立体裁断というものがある。これはマネキンの上で布を動かしたり切り貼りして服の形を立体の上で作ってしまうという手法である。それを今度はパタンナーが立体から平面の図面に落とし込むのだ(これは後々量産するために必要な工程である)。
 そのようにして出来上がったデザインとパターンには仕様書と呼ばれる服の細かな仕様(ステッチの幅や縫い順など)が書かれた書類と共に縫製工場へと送られ生産される。

デジタルデザインツールの登場

 従来のファッションデザインの手法ではデザインを実際の生地で服にした状態を確認するためにサンプルの制作を縫製工場に依頼することが多い(自分たちで縫う場合もあるが、量産を前提としている場合その工場でサンプルを作ってしまった方が効率が良いのだ)。多い場合は複数回のサンプル発注と修正を繰り返して完成形を目指していく。よく聞くサンプルセールというのはこういった過程で生まれる大量のサンプルを処分するために開催されている(毎シーズンすべてのサンプルを抱えているとスタジオはすぐにパンパンになってしまう)。
 サンプルを制作するさらに前の段階、パタンナーがパターンを制作する上で立体の状態で確認するためのものをトワルと呼ぶ。トワルは形を確認/デザインするために制作されるため実際に使う生地を使う必要はない。多くの場合シーチングと呼ばれる無地のコットン生地を使って制作される。服をデザインする過程ではこのトワルが大量に、生み出されすべて廃棄されるのである。デザインを実物大で確認する上ではしょうがないとは言え、大量の布製のゴミが生成されるのである。
 サステナビリティという言葉がファッション業界にも浸透しつつある昨今ではあるが、デザインプロセスは未だサステナブルとは言えない状態にあるのだ。これを改善しうるツールが3D CADソフトと呼ばれるものである。CAD(Computer Aided Design)とはコンピューターを使ってものを設計することを指し、アパレルCADとは型紙をPC上で制作するためのツールである。それに3Dと付くとどうなるのか。答えは布と縫製のシミュレーションがPC上で可能になる、である。
 CAD上で制作した型紙を縫製し立体で確認するという工程が全てPC内で完結することで、物質的な廃棄物は一切生み出されない。それまでのトワル廃棄問題を一気に改善できるツールが3D CADソフトウェアなのだ。それは決してパタンナーの仕事を奪うものなどではなく、むしろ手間と時間を省きより実験できる機会を与える画期的なツールなのだ。

3Dデザインによる新たなデザインの可能性

 3Dで服をシミュレーションできるソフトを使えるようになると他にどのようなことが起きるのか。それは「感覚の拡張」である。例えばここではパターンとデザインの知識、両方を持ち合わせたデザイナーを例に考えてみる。普段デザインを考え、型紙を引き、布を裁断し縫製し実物大で確認するという工程が一気に省略され、試行錯誤できる時間が増える。その時間を修正のシミュレーションに使えば従来の数倍の試行錯誤が同じ時間でできる計算になる。
 さらに重要なのは、デジタルでデザインするということは複雑な線を簡単に引けるということ意味する。また一度描いた線やパーツは瞬時にコピーペーストできるのだ。複雑な線を描けるとデザインの可能性が広がり、それまで諦めていたデザインを諦めずに済む。3D CADで制作する過程を繰り返していると平面と立体を行き来する感覚が研ぎ澄まされ、驚くことに紙の上では思いつかなかったデザインが生まれるようになるのである。これは3Dシミュレーション上では、現実では試せない事も簡単に試せてしまうからであると思われる。3Dシミュレーション空間は単なる現実のシミュレーションなんかではなく、現実の物理法則を超越したデザイン環境なのだ。

斬新とは「省略」することである by 川田十夢(AR三兄弟)

 現在の硬直したファッションデザインの手法に斬新さ、あるいは革新をもたらすためには「省略」が必要である。「斬新とは省略することである」とはAR三兄弟の川田十夢が2009年ごろに言っていた言葉である。私は高校生だった2011年にAR(拡張現実)に興味をいだきそれを題材にした作品や本を読み漁っていた。その中で見つけたのが川田十夢の「省略」に関する考え方であった。
 例えば、目からビームを出すARの場合、

目からビームを出したい → 目からビームが出る

というふうに間の細かな工程が省略される必要があるというのだ。願望を叶えるには様々な鍛錬や工夫をするのではなく、それを叶えるための工程を省略する方法を考えれば良いのかと当時目からうろこだったのを今でも覚えている。

 ファッションデザインにおいても従来の無駄かつ環境負荷の高い工程を「省略」することで生まれる斬新さがあると私は考えている。そのための一手が3D CADソフトでのデザインなのだ。

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 現在、私は3D CADでのファッションデザインを習得するためにCLO 3DMarvelous Designerというソフトウェアを勉強している最中である。私自身まだ初心者ではあるが、4月以降に有志で集まって勉強会を開催するつもりなので、3D CADでのファッションデザインに興味のある方はぜひツイッターのDMから連絡をいただけると開催時にお誘いするので、ぜひ。

twitter: @yuridistan

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Yuri Ridwan
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