「チケットが全然!当たらないよ!」問題を数字から見てみた
チケットの問題といえば、「高額転売」と「全然当たらない!」こと…。
サイトが使いづらいとかどうでもいいレベルでこれ。
ほんこれ…
実感としても、明らかに以前よりも当たらなくなっていると思います。
音楽配信サービスの台頭でCDが売れなくなるなか、ライブ公演やフェス、イベントがどんどん開催されるようになり、
演劇でも2.5次元舞台のような新しいジャンルも出てきたし、公演自体は増えているのでは?と思ったけれど、
今のエンタメ業界の市場規模って、どうなってるの?
気になって、数字を見てみることにしました。
数字で見るエンターテインメント市場の変化
まずは売上、入場者数、公演数を見てみます。
公演数はおよそ2倍の伸び、売上は3倍、入場者数は公演数の伸びと同程度、2倍に(※1)。
単価を「売上/入場者数」で単純計算してみると、
4,766円 → 6,886円 (144%)
1.5倍…
それでも、公演数に対して入場者数の伸びが上回っているということは、
①ニーズに対して提供を増やしている
②増えた提供に対して入場者が順調に伸びている
どちらか。いずれにしても「単価が上がっても売れている」。
続いて、市場規模(チケット単価×流通数)を見てみます。
およそ1.6倍、5,000億円超え(※2)。
数字から見ても、エンタメ市場規模は拡大し続けていることが見えてきますね。
単価があがっても、伸び続けている…なぜこのような変化が起こったのか。
「リアル」の価値が高まった?
その仮説を考えてみることにしました。
(※1)
プロモーター事業者団体(キョードーさん、ウドー音楽事務所さんといったチケットでよく見る会社さんたち)による調査データ
出典:一般社団法人コンサートプロモーターズ協会
http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/?fbclid=IwAR3i2nQRVmZPAKExeHmKA866II8mPwc3wGWmxwECDGmoQCm_719iw4OWH_o
正会員一覧
http://www.acpc.or.jp/members/regularmember.php
(※2)
チケッティング事業者(チケットぴあ、ローソンチケット、e+など)の取り扱いに一部での取り扱い公演を合わせた全国規模の数字
出典:2017年ライブ・エンターテインメント市場
http://live-entertainment-whitepaper.jp/pdf/summary2018.pdf
ライブ・エンタテインメント調査委員会
http://live-entertainment-whitepaper.jp/about_us.php
モノはお腹いっぱい
カーシェアやシェアハウスなどシェアリングサービスが登場して車を持たない人が増えるなか、ミニマリストや断捨離などのライフスタイルが注目され。
Instagramではインパクトのある景色が人気を集め、旅を発信することが仕事という「プロトラベラー」というお仕事も誕生しました。
「映える」を求めて出かけ、チルな時間をストーリーにアップする。
写真も動画もスマホで撮り、スマホ上のアプリでSNSに共有する。
スマホだけで電車に乗り、お店で決済もできる。
以前と比較して、モノを持たずに生活できるシーンが増えたように思います。
モノを持つよりも、その分を実際の体験=コトにお金を使うようになった。
モノを所有することで感じる喜びよりも、体感する時間や感情のほうが幸せを感じる?
モノ消費からコト消費へ。
昨今よく目にしますがこの変化、コトに価値が見出されるようになったのには、社会の変化が関わっていると考えています。
SNS黎明期の代名詞「mixi」
日本でのSNSの盛り上がりに大きく貢献したサービスのひとつに「mixi」があります。
2004年にサービスが開始。
私自身忘れていたのですが、当初は「招待制」を採用したSNSでした。
すでに参加済みの人から招待メールをもらわなければ、参加できなかったのです。
mixi内のコミュニティを通じ、ネット上で新しい友人ができることは勿論ありましたが、コミュニティで頻繁に行われていたのが「オフ会」。
オフ会!こんな言葉あったな~!!というのが正直なリアクションになるのですが、ネット上で完結するのではなく、「オフラインで実際に会う」ところまでがコミュニケーションに含まれていた。
mixiは、「直接繋がっている友人とネット上でもコミュニケーションする」意味合いの強いツールでした。
あくまでも、オフラインに比重が置かれていた。
オフラインの生活が基本となっていて、その拡張線上にデジタル・バーチャルな空間があるというパワーバランス。
オフライン(リアル) > オンライン(デジタル、バーチャル)
と表してみます。
mixiサービス開始から4年後、2008年に日本でiPhone3Gが発売されました。
やがて、スマホはケータイを圧倒。
9年後の2017年には普及率は75.1%まで伸び、ネットを利用するデバイスもスマホがPCを上回るまでになりました。
ケータイ→スマホで変わったこと
「インターネットに常時接続かどうか」は大きな違いのひとつです。
ケータイでは、ブラウザを使うときにのみネットに接続するのが一般的でした。
スマートフォンでは機内モードなど故意に設定しない限り、常にネットに接続しているものになりました。
総務省の調査によると、スマホの利用時間は10代20代が平日だと3時間、休日では10代が突出しており5時間(※3)。
これだけの時間、インターネットと接触しているようになりました。
いつでもネットに繋がっていて、思い立ったらリアルタイムに情報を得られる。
TwitterやInstagramなどSNSが普及し、何かあればリアルタイムにシェアする文化も生まれました。
スマホで映画だって見ることができる。ケータイでは考えられなかったことです。
Twitterやストーリーで友達の今がわかる、
連絡が取りたければLINEを送っておけば良い、
テレビ電話やSkypeがあれば、実際に会っていなくても顔を見て話すこともできる。
デジタルがあるのが普通のこと、自然なことになりました。
Twitter上だけで繋がっている関係は普通だし、
Instagramで世界中のひとから反響があるのも普通のこと。
「直接会わないコミュニケーション」が成立するようになった。
世界は、「直接会わなくても問題がない」場所になりました。
ただ、行動としては「スマホを触っているだけ」。
オフラインかオンラインかといったことを、もはや意識しないようになってきたのではないでしょうか。
オフラインとオンラインのバランスが変わったというよりも、”境界がなくなっていく”に近いのかもしれません。
デジタルとつながったリアルを、まるっと含めて「日常」。
この変化が、相対的に「直接会わなければ手に入らないコト」の意味合いを変えたのかもしれないと思うのです。
なぜ2012年から?
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会のデータを見ていて、気になったことがありました。
2011年までの伸びと比較して、明らかに2012年から急激に拡大傾向になったという点です。
2011年、東日本大震災。
大きなことといえば、やはり大震災だと思います。
「絆」、「一体感」、「つながり」といったキーワードが関心をあつめ、自分自身も「会いたい人には、会いたいときに会う」ことの大切さを感じた出来事でした。
世界がデジタル化していく一方で日本では、大震災をきっかけに「肌で感じる」「リアル」に対しての関心がさらに高まっていった。
この傾向が、リアル体験コンテンツであるライブやイベントの拡大に影響しているのではないかと、思っています。
「そこにしかない」価値
10年間で、倍になったステージの市場価値。
今後も高まり続けると思っています。
デジタルとリアルの境界が薄まったとしても、リアルな世界に存在しているヒトにとって、「リアル」が消えることは物理的にありえない。
そして、甘いものが美味しくて大好きでも、食べ続けていれば塩気が欲しくなる。
デジタルの比率が上がれば、比例してリアルを欲する気持ち、渇望感のようなものも強まると思うのです。
私自身、ずーっと写真や動画を通して憧れていたチェコ・プラハのカレル橋を実際に歩いた時は、光景としては見慣れているのに、空気、匂い、日差し、雑踏…全身に触れる全てのことに言葉にならないほど感動しました。
どんなに精細な映像でも、実際に触れるのとは別のもの。
8K、5G、AI、VR…デジタル技術の不可逆的な進化をしていく現代において、「そこにしかない」リアルなエンターテインメントは一層価値が高まり、需要が拡大していく。
その世界では、チケットが紙が電子になった、といったカタチの変化に留まらず、デジタルな時代に合わせた新しい設計が必要だと思うのです。
参考
「ライブエンタテイメントの市場規模は2000年と比べると2倍。その理由は?」(前編)ぴあ総研 共創マーケティング室室長 笹井裕子さん─Synapse
https://synapse-magazine.jp/marketing/171219pia/