あなたは104分後、何を思う。― 映画「相撲道」を観て
隣の女性は前のめりに拍手を送り、
隣の男性がため息を漏らす。
アトラクションのような、
こんな映画は初めてだった。
2020年11月15日。
2日前にド田舎福井県から上京したばかりのわたしは、「引っ越したら1番最初にしたい」と思っていた、「映画“相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜”を見る」を成し遂げるために、横浜にある映画館に向かっていた。
「相撲道」は大相撲のドキュメンタリー映画。
(出典:映画『相撲道』公式サイト)
どうして「相撲道」を見たいと思っていたのか、その理由はあとから書こうと思うけど、はじめに伝えておきたいのは、わたしはこの映画を見るまで、1ミリたりとも相撲ファンではなかったということ。
相撲に対するイメージは、むしろネガティブ。
失礼ながら「塩まきがちな日本の国技」「1試合10秒くらいな割にめちゃくちゃ前置き長い」くらいの印象しかない。
どうやったら横綱になれるのかも知らないし、コケるか“丸”から出たら負けっていうことは分かるけど、「大関」と言えば圧倒的にワンカップ大関。
数年前に横綱の白鵬さんをたまたま駅で見たけどまわりがざわつくまで「世の中にはでっかい人もおるもんやなあ」としか思わなかった。
相撲については、好きか嫌いかの土俵に立つ前に(相撲だけに)、そもそも興味すらなかった。
そんなわたしが、まさかたった2時間で、「豪栄道と竜雷どっちが好き???」なんていうマニアックすぎるガールズトークに花咲かすことになるなんて。
・・・という話を、今日はお送りしようと思います。
それではいくよ、どすこいっ。
※超個人的な感想です
※いわゆる“ネタバレ”はありません
その日、わたしは、はじめて訪れる映画館「ジャック&ベディ」に訪れた。しのぶ必要はこれっぽちもないのだがおしのび訪問だ。
駅から徒歩約5分のその場所はなんともレトロな映画館。こういう感じの映画館ははじめてだったけど、結構好きだなと思った。
振り向けばポスター。
わくわく。
前に並んでいた中学生くらいの女の子がチラシを大切そうに抱いているのにほっこりしながら、開場を待ち、座席に座って上映を待つ。
お隣に見知らぬ男性が座って意図せずカップルになってしまったことをのぞけばここまで完璧だ。ひとり映画あるあるだけどこれもまたよい。
11時15分。
いよいよ上映が始まる。
わくわく。
映し出されたのは、満員の両国国技館。
\ ででーん /
(出典:映画『相撲道』公式サイト)
そのとき、
右隣に座っていた女性が
前のめりになって大きな拍手を送り、
左隣に座っていた男性が
力士の鍛え上げられた筋肉にため息を漏らす。
力士と力士の身体が激しくぶつかるたびに
どこからか声が漏れるのが聞こえた。
もうここは映画館ではなく、
両国国技館そのもの。
そして、スクリーンに映し出されるそれは、「映画」を超え「アトラクション」のようで、その場の全員がその世界に没入していった。
スポットがあたるのは、境川部屋と髙田川部屋。
相撲ビギナーのわたしは「部屋」のシステムすらもよく知らなかった。なんとなく映画を見ながら、自分が進学先や就職先を選んできたみたいに、力士になりたい人にとってのそれが「部屋」で、どこで修行をするかを選んで仲間にしてもらう仕組みなんだなと思った。
部屋ごとに、指導方針にも違いがあるみたい。部屋って何個くらいあるんだろう。入門するなら、朝は遅めでごはんがおいしくておやつも食べられてこれでもかってくらいに褒めちぎって育ててくれるところがいいなあと思ったわたしは、ゆとり世代。
(出典:力士がムカデのように前進、稽古風景収めたドキュメンタリー「相撲道」本編映像)
これはムカデみたいにみんなで歩くトレーニングで、一見簡単そうに見えるけど、後ろから引っ張り下ろされるからめちゃくちゃキツイらしい(混ざるなら一番うしろがいいな、ふふ)。とにかくめちゃくちゃ稽古してた。すごい。
そんなこんなでほんの少し前までは相撲に興味ゼロだったわたしはあっという間にこの世界に引き込まれていた。それはわたしだけではなかったはず。所々で漏れる他の観客たちのリアクションがその証明だ。
なんでそうさせてくれるのだろう・・・と考えて、ぼやんと浮かんだのは、この映画には見る人ひとりひとりにとっての、ちょうどいい「おもしろい」が発見できるようになっていること。
たとえば、全体を通して、解説やナレーションがほとんどなく、密着映像とインタビューで展開されていく。
特に、冒頭約15分(実際は時計を見ていないから体感だけど)は一切の「言葉」がない。
ぶつかりあう力士、熱狂する観客が次々と映し出され、そのリアルな空気をそのままわたしたちに届けてくれる。
(出典:映画『相撲道』公式サイト)
もし、解説が入っていたら、相撲に興味がない人や知識が浅い人にとっては「難しい」「つまらない」と感じるかもしれないし、相撲の大ファンにとってはその深さによっては興ざめするかもしれない。
解説がないからこそ、ひとりひとりの解釈で、ひとりひとりの興味の深さで、見たままをストレートに受け取り、素直に心を動かすことができる。
きっと、言語・年齢・知識の壁も超えて、“その人にとって「おもしろい」”ように作られているように感じ、同時に「これを見てあなたはどう思う?」と投げかけられているように思った。
ちなみにわたしは、
・両国国技館ってこんなに広いんやなあ
・相撲って大きい声だして応援するんやなあ
・以外と若い人も見に行ってるんやなあ
・カジュアルな服でも行っていいんやなあ
・グッズで応援するのアイドルみたいやなあ
・お相撲さんってみんな顔が似てくるんかなあ
とかそんなことを考えていた。
きっと右隣の女性は全く違うことを感じていたと思うし、左隣の男性もまた違うことを感じていたと思う。
それぞれにとっての「おもしろい」と「発見」をくれるから、誰が見てもその世界観に没入させてくれるんだと思った。
映画の中で、特に印象に残ったのは、ある力士が、土俵の外でひたすら四股を踏んでいたこと。それも一切力を抜かず、足を高くあげ、ドシンと地面を響かせて。
「楽をしようと思えばいくらでもできるけど基本が大事」そんなことを話していたと思う。
そのシーンを見たときに、本当に大切なことを思い出させてもらったような気持ちになった。
思い返してみれば、慌ただしい日々の中、何ごとも「効率的」に、とにかく「結果」を出すことを求められるようになった。
そつなくなんでもこなせる人はいつだってかっこよく見えるし、コンプライアンス的に「とにかくやれ」とお尻を叩かれることも減った。
だから、いくらでも手を抜くこともできるし、なんでもできるかっこいい自分のフリをすることも、ごまかすことも、ズルすることもできてしまう。
SNSで自分のいいところだけを編集して演出することも誰もが当たり前にやっている。そういう時代だ。
そんな時代の雰囲気が真面目に努力を重ねることを「かっこ悪い」「ダサい」「古い」と感じさせるようになった。
「頑張る自分ってかっこ悪いのかな」「努力ってもうダサいのかな」「頑張らないと叶えられない目標なんて自分には向いてないのかな」、そんな風にも思うこともある。
でも、何か目標や夢を実現するには、死ぬ気でがむしゃらにコツコツと、誰に見られていようといられまいと努力する時期は必要。
1500年以上前から今日まで続く相撲の世界にはいつだって、高い目標を掲げて、休むことなく、汗水流しながら、淡々と稽古をつみあげる力士たちがいる。それが必要であることは時代の空気が変わっても何も変わらない。
「死ぬ気でやれ」と叱咤してくれる人はいないし、なんでもごまかせる時代。
だけど、泥臭くてもダサいと思われたとしても自分の決めた道を信じて、努力を積み重ねることはいつだって素晴らしいことで、生き生きと輝くのはそういう人なんだと、誰にどう思われたとしてもそのままがむしゃらに頑張ればいいと、背中を押してもらったような気持ちになった。
そんなことを感じていたら、映画が終わる104分後にはふつふつと元気がわいてきた。上京のスタートを切るにもぴったりの映画だった。きっとテレビで相撲を見るたびに今日の気持ちを思い出させてくれると思う。
これは、相撲のドキュメンタリー。
だけど、ひとりひとりの中にある「あの日」に帰らせてくれる映画だ。ある人にとっては、わたしのように初心のあの日に。ある人にとっては汗を流した青春時代に。ある人にとっては満員の両国国技館で熱狂したあの日に。ある人にとっては両親とふるさとで過ごしたあの日に。
あなたはこの映画を見た後、
何を思うだろう。
「相撲を知らない」そんな人にこそ、そのとき何を感じるか体験して欲しいと心から思った。
おまけ:
興奮冷めやらぬまま、友だちに思わずLINE。
そして、どっち派談義に花が咲いた。
わたしは豪栄道さん推し。
あとがき:
(出典:「マツコの知らない世界」の元総合演出家による世界初の大相撲ドキュメンタリー! 映画『相撲道』坂田監督インタビュー)
監督の坂田栄治さんは、人気番組「細木数子の『ズバリ言うわよ!』」「マツコの知らない世界」を作ったTBSのプロデューサー(2つもヒット企画を出せる人はほとんどいないそうです、すごい)で、現役でTBSにお勤めされています。
とはいっても、この映画にTBSは関わっていなくて「相撲のおもしろさを伝えたい」その一心で、会社に副業申請を出して、“坂田さんが“ゼロからつくられたとか。
さぞかし坂田さんは相撲ファンなんだろうなと思われるかもしれませんが、実はそうではないようで、元々の相撲ファンではなかったらしいのです。番組の企画でたまたまのぞいた相撲の世界に感動し、相撲のおもしろさを、“相撲に興味関心がない人に”伝える映画を作ろうと思ったのがきっかけ。
バラエティの世界の第一線で、おもしろいテレビづくりをしてきた人が、とんでもない熱量をかけてつくる、相撲ドキュメンタリー映画ってどんなんやろうってとても興味があったのです。
そしてその「どんなんやろう」へのあなただけの答えは、ぜひ劇場で見つけて欲しいなと思います。
映像制作にどんなかたちでも携わるクリエイターの方々にも、映像制作の第一線で活躍し続けるプロデューサーがつくる「おもしろい」をぜひ体感してもらえたらなと思います。
せっかく、舞台挨拶にあわせてうかがったのに写真をお願いしわすれた。
※写真のセンスは前世に置いてきた。
なので去年お会い出来たときのを・・・!!!(泣)。
坂田さん素敵な映画と相撲に触れるきっかけをありがとうございます。次のチャレンジもとても楽しみにしています!
最後に、鳥肌モノの「相撲道」の予告編をご覧ください。
続々と全国公開中。
上映中の映画館はコチラから確認できます。
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もし「自分の住んでる地域で公開がないよおおお」という方は、ぜひその声を「#相撲道」をつけてSNSに・・・!あなたの街にも「相撲道」がやってくるかも。
\ 監督坂田さんのSNSはコチラから /
\ #相撲道 SNSでも話題沸騰中です/
最後にお願い!もしこの記事を読んで「映画『相撲道』に興味をもった」と1ミリでも感じてもらえたら、SNSで記事をシェアして欲しいです!「相撲道」を広めたいっ!お願いばっかりでごめんね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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