暑くて熱い一週間
「この町から甲子園なんて絶対無理だよね」
「田舎の公立高校だからねぇ」
まだ、高校が二つあった時もよくて全道大会出場。ひどいときは地区予選一回戦負けが常だった。
高校が統合されて新設校になってから、一度だけ北北海道大会まで進出したことはあったけれど、その後は長く最北の私立高校の後塵を拝していた。
「どうしていつもあの高校に負けるんだろうね。相性悪いよね」
ところが地区予選2回戦でその高校に逆転勝ちしてから、現金なものでそんな風向きが変わりだした。
地区予選決勝を6回コールドで難なく勝ち抜き、7年ぶりに北北海道大会に駒を進めた。
「とにかく1つ勝てたら」
地元の期待はそんな程度だった。
中学時代に実力のある選手は、大多数が旭川やそのほかの私立に行ってしまうから、名寄地区と他の地区との実力差は悔しいけれど認めざるを得ない。
出ると負け、が定番だった。
北北海道大会初戦の相手は十勝地区を勝ち抜いてきた足寄高校。
松山千春氏の母校。ご本人はスタルヒン球場へ応援に駆け付けたそうな。
地元の祭りと重なりネット配信で試合を見守る。
まさかのコールド勝ち。
「なんだなんだ、攻撃力すごいな。どこかの赤黒いサッカーチームみたいだな(褒めてる)」
トーナメントの山を見たら、次は釧根地区の雄、武修館高校。
「え、ここと当たるのかー。キッツいわー。あ、でもうちらの高校ってどこと当たっても同じか…」
武修館との試合もネット配信で視聴。
ひりひりした試合も何とか終盤で突き放してまさかの準決勝進出一番乗り。
相手は旭川明成高校。ここも初の準決勝。
「監督、あと2つ買ったら甲子園だな」
相方氏が、近所に住んでいる監督に圧をかける。
やめてやれよ。選手よりも誰よりもプレッシャーかかっているのは監督だろうに。
「まさか、エスコンでできるなんてねぇ。明成も志峯(旧旭大高)に勝ったんだから普通にうちより強いか。でもここに勝っちゃったら次はクラークか白樺。」
「楽部(吹奏楽部)の子たち喜んでるだろうなー」
市役所主導で組まれたバスツアーは完売。
行けなかった私はテレビで観戦。
スクイズで先制して追加点を取って、もしかしたらと淡い期待を一瞬持ったが、いつもの習い性でそれを慌てて打ち消す。
「名寄地区悲願の甲子園出場をかけて」
「道内で唯一甲子園に出場していない名寄地区」
必ず付く枕詞。
もう少しで、あと2つ勝てば行けるんだよ、その憧れの場所に。
中盤までは本当にいい試合をしてくれたけれど、3ランを打たれたり3人目のピッチャーの乱調で8回コールドで試合終了。
相手の校歌を聞くのは悔しかっただろう。見てるほうも悔しかった。
旭川の壁はやっぱり高くて厚かった。
だけど、その壁は決して超えられないものじゃない。
ここまで勝ち残った経験は後輩たちが戦うきっと秋の大会でも生かされると思う。
小さな町の公立高校野球部員が、たくさんの人に夢を見せてくれた暑くて熱い一週間が終わった。