【屋久島空港問題 ♯6】 需要予測をしないで出した “偽りの需要予測” 14万人
ジェット機就航の目的に対して2,000m滑走路が必要じゃなくても、パンフはあくまでも必要性があると主張しなければなりません。
そのために乗降客数の予測(需要予測)をしているので、今回はその需要予測手法が適切かどうかを調べます。
需要予測手法がの適切か否かは、図1のとおり新規事業採択時評価の評価の基準にもなっているほど重要なポイントです。
国交省が定めた需要予測の厳密な手法
国土交通省航空局は、「国内航空需要予測の一層の精度向上等について」に
詳細な需要予測の手法を取りまとめて地方公共団体等に通知しています。
ここでは本文の需要予測手法を図示した参考‐1を貼っておきましたが、
詳細はわからなくても、段階的な予測を幾重にも積み重ねて、ようやく最終的な需要予測に至ることくらいは素人にもわかります。
本文の方も一瞥すると、使用データも含めてさらに厳密な予測手法を細かく定めていることがわかります。
新規事業採択時評価では、ここに定めた予測手法に基づいて適切な需要予測をしていることを、評価の基準としているのです。
2,000m滑走路の必要性の根拠は、屋久島‐羽田間の需要予測
2,000 m滑走路に固執しているパンフですが、2,000 mの必要性の根拠を端的に明示している箇所はありません。
定員160~180名のB737-800又はA320を想定していますが、これらの離着陸に必要な滑走路長さも示していません。
パンフがないない尽くしなので丘珠空港の資料(♯2の図1,2)を参照すると、5段目のA320-200と6段目のB737-800がパンフの想定機種とほぼ同じで、A320が1,800 m滑走路で夏季に就航可能(屋久島なら通年)、B737-800が2,000 m滑走路で夏季に就航可能(屋久島なら通年)となっています。
よって2,000m滑走路の必要性が主張できるのは、B737-800を就航する場合のみ。
なおかつ屋久島‐羽田間の乗降客数に対して、B737-800が過大でない場合に限りです。
というわけで屋久島‐羽田間の乗降客数の予測(需要予測)について、パンフはどんな手法を用いて、どんな結論を出しているのでしょうか。
2,000 m滑走路の根拠は、“需要予測”14万人
ここでパンフp6の「乗降客数の予測方法と結果」という小見出し以下を、3段落に分けて読み解いていきたいと思います。(太字筆者)
ごちゃごちゃした段落1は経路比較の方法を述べており、東京駅から屋久島までの4つの経路を所要時間で比較したら、
羽田発鹿児島乗り継ぎ(経路①)と
羽田‐屋久島直行便(経路④)が決勝戦に残ったというところまでです。
段落2は、「乗降客数の予測方法と結果」という小見出しの回答部分です。予測方法は所要時間と費用による経路比較。これにより得られた結果は以下のふたつとパンフが言っています。
・経路④を大部分の乗降客が利用する
・経路④の乗降客数は年間約14万人
段落3の展開は以下の通りで、パンフは需要予測の14万人をもって、2,000m滑走路の必要性の根拠としていることがわかりました。
・屋久島‐羽田間の年間乗降客数が14万人もいるから
・定員165名のジェット機が定期就航できる
・そのために2,000 m滑走路が必要
需要予測の14万人は、全くの無根拠
ではその14万人の方にはどんな根拠があって、どうやって導出されたのでしょうか?
段落2:「これに費用を含め予測したところ,関東-屋久島間は経路④を大部分の乗降客が利用することがわかり,乗降客数は年間約14万人と予測されました。」
ここでもう一度段落2を読み直すと、書いてある予測方法は「所要時間に費用を含め『予測』した」ことだけです。しかしながら実際にやったことは予測ではなく経路の比較なので、実態に合わせて段落2を書き直してみるとこうなります。
1.経路比較をしたら、大部分の乗降客が経路④を選ぶことがわかった。
2.経路比較をしたら、経路④の年間乗降客数が14万人という予測値が出た。
こうしてみると1の文章は成立しても、2の文章は全く成立しないことがはっきりします。
あれこれ比べてお買い得品を探すことと、何人がそれを買うかは全く別の話で、その人数を求めることが「需要予測」。でもパンフがやったことは単なる経路『比較』で、それを『予測』と言いくるめたところで、14万人という数値がそこから湧き出すはずもないのです。
本当はどうやって14 万人という予測値を出したのか、パンフのどこにも書いてありません。
年間14万人の需要予測には何の根拠も示されておらず、従って14万人を根拠とする2000m滑走路にも根拠がありません。
「国内航空需要予測の一層の精度向上等について」が定めた需要予測手法にも全く反しているので、新規事業採択時評価の評価基準を満たしていません。
経路比較の疑義1 直行便は乗り継ぎよりも割高なのでは??
新規事業採択時評価の評価基準に満たないことに比べたら微々たる話ですが、パンフの経路比較そのものにも疑義があります。
鹿児島便とくらべて、
「所要時間1時間、費用2000円の僅差で経路④の羽田直行便が有利」
と判定しているものの、その程度なら条件次第でたやすく逆転するからです。
一般的に直行便は同区間の乗り継ぎよりも割高と言われており、実際関西方面は伊丹直行便よりLCC利用の鹿児島乗り継ぎの方が割安で、鹿児島まの
で離島割引も使えば断然格安です。
その事実がありながら価格設定の根拠も示さずに、羽田直行便が鹿児島乗り継ぎよりも安いと言われても、どこまで信用できるでしょうか。
経路比較の疑義2 成田直行便なら割高に
またパンフの表題部及び本文では「関東ー屋久島間」と繰り返しているのに、「成田‐屋久島」間の直行便をはずした経路比較に正当性があるのでしょうか。
地図の通り成田は東京駅から遠い分、所要時間も費用も不利になるので、直行便有利を確実にするために成田をはずした疑いをぬぐえません。
そのうえ最終的に羽田ではなく成田での就航が決まるなら、替え玉受験というべきかおとり商法というべきか、ともかく正当性のかけらもありません。
ちなみに2013、14年当時は羽田直行便で終始一貫していた町長の答弁が、15年の本計画始動後からはっきり変化しているので、成田はあり得ないことでもなさそうです。
以上のとおりパンフは諸々の荒業小技を駆使して、2000m滑走路の必要性を必死に捏造していますが、そこまで切羽詰まるほど2000m滑走路にはどうにもこうにも根拠がないのです。
次回は、経路比較で出したという”偽りの需要予測”について、14万人という数字自体を問うていきます。
記事まとめ
【屋久島空港問題 ♯0】 「屋久島空港の滑走路延伸計画」は2,000 m滑走路の必要性を捏造している ~その首謀者と目的は?~
【屋久島空港問題 ♯1】 2,000 m滑走路の目的は、屋久島‐羽田間のジェット機就航。1,500m滑走路でジェット機就航中の空港もあるのに。
【屋久島空港問題♯2】 1,500m、1,800mでもジェット機が飛ぶなら、2,000m滑走路の必要性はない
【屋久島空港問題♯3】 鹿児島県の態度急変と同期する2,000m滑走路。因果関係があるのでは?
【屋久島空港問題 ♯5】 「新規事業採択時評価」と評価の基準
【屋久島空港問題 ♯6】 需要予測なんかしないで出した “偽りの需要予測” 14万人(←現在の記事)
【屋久島空港問題 ♯7】 14万人よりかけ離れて少ない実績値(関東からの鹿児島便乗降客数)
【屋久島空港問題 ♯8】 羽田直行便就航後は軒並み採算ライン割れ それでも就航する航空会社は?