短編【ホテルのある風景 vol.4】 ウェスティンホテル東京(東京都恵比寿)
「緊急ランチの真の目的」
クリスマスビュッフェ「ウェスティンホテル東京」(東京都恵比寿)
主人公は、40代のサラリーマン。実在するホテルを舞台にした、ビジネスショートストーリーです。
産業機器メーカーの営業マンであり、4人家族のパパでもある倉田恵司。第4話は東京の恵比寿にある、クリスマスシーズンのウェスティンホテルが舞台です。
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天井にも届く、赤とゴールドをふんだんにあしらった正統派のクリスマスツリー。その横で駆け出すペガサスがより豪奢に見える。ツリーの足元では雪化粧した街の中をミニチュアの機関車が走り、汽笛の音に小さな子どもたちが声を上げてはしゃいでいる。青い絨毯が敷き詰められたいつもの階段も、もみの木の緑、赤とゴールドで正装している。
フランクとは取引先の数年来の担当者同士、同世代で気心知れた仲だが、年末の急な来日。契約上の問題でも起きたかと気が引き締まる。ランチビュッフェは若い女性や年配のグループなどで大賑わい、皆思い思いに盛り付けた白いプレートを手に行き交っている。
カウンター席で軽く食べながら始まったミーティングは、年末年始の販売台数の調整や出荷スケジュール、来年の予定などを話すと、早々に雑談に流れた。さすがに前菜やローストビーフのクオリティが高く、「一杯だけ」とオーダーしたカリフォルニアの白ワインのおかげか、会話が弾む。
フランクが時計を気にし始めたところを見ると、そろそろ終了か。そう思いながら目を上げると、ブロンドの女性が笑顔で立っている。「ハロー」と声をかけられて戸惑うと、フランクが言う。「妻のリナだ」。
年末年始を日本で二人で過ごすことにしたとのこと。急な割におよそ緊急性のないディスカッションの内容も、なるほどそういうことかと合点が行った。「良いお年を」と挨拶を交わすと、二人は楽しげに出ていった。
「帰ったみたいね」
妻の明美だ。「ウェスティンでランチ?ずるい!」と、実はこちらも家族連れでビュッフェに参戦。テーブルでは中学生の結菜がプチケーキやらソフトクリームやらスイーツ三昧、小学生の悠人は担々麺とカレーを並べて食べている。
「英語でミーティングしてるの、結菜が見てたわよ」。最近俺には不機嫌な顔しか見せない結菜に、少しはいいとこ見せられたか。そう思うと贅沢なランチの出費も痛くない。家族や親しい人たちと楽しんでこそのクリスマスランチ。
あらためて乾杯、「メリークリスマス!」
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これでもか、と気迫すら感じる、豪華なクリスマスのデコレーション。非日常の世界を、ただただ存分に味わいたい。ひとりだけで楽しむのもあり、パートナーや家族、友人と共に喜びあうのもあり。
2022年のクリスマスの風景です。