チケット代の高騰とマナーの悪いお客様の話
先日、桐山さんのこのポストがいろいろな方に言及されていて、チケット代の高騰をマナーの悪い観客のせいにするのはおかしい、そこは関係のない話だ……というようなご意見もよく目にしたのですが、それを見ていて思ったのは「質の悪い観客がいるからチケット代を上げる」のではなく、逆に「過剰に客単価を上げるから質の悪い観客が生まれてしまう」のではないかということでした。
これは昨今のチケット代の高騰がどうとかいう話ではなく、もっと別の部分でのお話なのですが……
おそらく、一般の方は「演劇」といえば、お芝居そのもののチケット代や仲介業者(ぴあやローチケ等)にかかる手数料、あとは物販くらいしかお金がかからないものを想像されると思います。
もちろん、それが本来であれば当たり前なのですが、最近でいう「若手俳優」や「地下アイドル」のファン層の人たちというのはそれ以外にも色々とお金を払っているんですね。
写真集やカレンダー、CDなどのグッズを買うとそのオマケのようなものとしてご本人からサインがもらえたり、ツーショット撮影ができたり、お話ができたりするようなイベントが開催されれば、熱心なファンは何回もお話しするために大量に品物を購入したりします。
また、ツーショット撮影やフリートークなどは単体で販売されることもあって、熱意のある方はそこでもたくさんお金を使ったり。
そういうイベントがほとんどない方を推している場合には、近くで見たい・覚えてほしい・ファンサが欲しいなどの理由で、チケットをたくさん購入して前方の座席を出そうとしたりします。
(詳しくない方に説明すると、今はある程度の規模のお芝居やライブでは座席を選んで買えるケースはほとんどなく、会場の大半がS席のような状況で発券してみるまで座席のわからないチケットを買わなくてはならず、前方に座りたかったら自分でたくさんチケットを購入してその中で厳選するしかないのです)
もちろん、そういう大量発券は先に書いたようなグッズをたくさん買う方がする場合も多いです。
そうするとどうなるかというと、ものすごい金額が動くんです。
ただ同じお芝居を何度も見に行く程度の金額ではない、途方もない金額です。それこそ一度の公演やイベントで何十万とか、下手をしたら何百万とか。
それだけのお金を、何の見返りもなしに払い続けられる人がどれだけいるでしょうか?
お金をかけているぶんだけ手厚く接してほしい、それが当然だ、という考えに至るとしても正直「無理はないだろう」と感じます。
もちろん、それが勝手にやっていることであるのは「その通り」なのですが、売る側もたくさんグッズを買ったりチケットを発券する人がいることを前提にしているようなところもあります。
若手俳優のカレンダーイベントでは最初から1セット購入以外にも3セット・5セット・10セットなど大量購入用のセットを特典付きで用意しているようなケースも多いです。
どうしてそうなるかといえば、やはり演劇はチケットが売れなくてそれだけでは役者も事務所も食べていけないから……という大人の事情が関係しているとは思います。
でもそれでも、それが当たり前になっている現状が「質の悪いファン」を作る要因になっているように見えます。
それが引用でたくさんついていた「いくらチケット代を上げてもそういう人は来る」という意見にもつながっているのではないでしょうか。
売る側が異常な消費を促しているのだから、そこにいるとどんどん感覚が狂っていってしまうところはあると思います。
そもそも、公演を運営している側だって、俳優を選ぶときに「どのくらい客を呼べるか」で選んだりしているところもあって……。
集客のある人を集めているからチケットが売れる、みたいな。
悪く言えば俳優の人気に甘えている部分があって、やはりこれは作り手の側もみんなどこか悪い部分があるからそうなってしまっている、のだというのはずっと感じています。
でもこれ、現場で作ってる側の人とかは全然そういうこと考えていなかったり、知らなかったりもされるから難しいんですよね……。
先日の「良席といえば舞台の全体が見える真ん中あたりの座席だと思っていた」というケラリーノ・サンドロヴィッチさんの発言もそうなのですが、作る側がそこを良席だと思っていても、熱心なファンが求めるのは最前列などの俳優の視界に入るような・自分が俳優を間近で見られる席だったりします。
この辺りの感覚は時代の違いとかもあるのかな。
実は私はしばらく演劇の世界からは離れていて(学生のころには小劇場に足を運んだり、いろいろ見に行ったりもしていたのですが、就職するとどうしても時間もお金もなくて足が遠のいてしまっていたので…)2.5次元が流行しだすようになってから戻ってきたクチであるので、その間のところがぽっかりと抜けていてよくわかっていないところはあるんですよね。
あと、昔はインターネットが今とは全然違っていて、SNSもありませんでしたし、パソコンは高価で素人が手出しをするには難しかったのでいろいろなものが可視化されていませんでした。見える範囲が本当に自分のすぐ身近なところまでだったので、私はごく普通のお芝居や映画や小説が好きな学生だったのでコアなファンとはまったくつながりがなかったので……。
なのでわからないものは正直に「過去のことはわからない」と書いてしまうのですが、昨今の情勢はつながりがなくても目に入ってきますし色々と人づてに話も聞きますので、現状としては上のほうで書いたような感じではあるかなと思っています。
こういう問題って、どうしたら解決できるんでしょうね。
おそらく最初は接触イベント系だって「好きな俳優さんとお話しできたら嬉しいに違いない」みたいなところから始まっていると思うんですよ。
実際それはそうだし、そこが悪というわけでは決してないです。たくさん行きたい人がたくさん行くのも自由ですし、それ自体が問題なわけではない。
やっぱり悪いのは、悪辣な利益至上主義……。
社会構造的な問題が大きいのだろうと思うと、個人の力ではどうにもならないのかもしれないなというところもあるのですが、できることなら誰もが無理なくお金を出して、余計なハードルを越えることを要求されることなく演劇を楽しめる世の中になってほしいものだなと思っています。
その上で役者やスタッフ、公演を運営する側にもきちんと利益が出るようになれば最高ですよね。
理想論であるとは思いますけど……理想を描けなければそれに向かって近づけようと努力することもできないので、少しでも近づいていけるような世の中にしていきたいです。