Sunday’s Book 18 「思い出は夢のように」
★Sunday’s Book★
明日が憂鬱な日曜日に、読んだらほんの少しココロが前向きになれるような
「心の体温が上がる」本をテーマにご紹介します。
<17冊目>
タイトル「そのときは彼によろしく」
著者:市川拓司
夢
というのは、不思議なもので。
現実とフィクションがぐしゃぐしゃな世界に迷い込むのに
そこにいる自分はそれを少しも疑問に思わない。
よく潜在意識が反映されているのだ、とか言われるけれど
実際、その人がどんな夢を見ているかを客観的に見ることはできないから
夢の解明はなかなか難しいのだそうです。
壮大な、長い夢を見たときは
どこか遠い場所から帰って来たような
それでいて記憶は曖昧で
不思議な感覚に陥ることがある。
特にこんな雨の日は。
夢から覚めてもどこかふわふわとした心地が抜けない。
きっとこういう感情に陥ったとき
市川さんはこの作品を書いたんじゃないだろうか。
手のひらからなんでも世界を知れる世界も素敵だが
クリエイティブはいつだって「わからない」世界から生まれる。
わからないと、想像するからだ。
演劇が始まった頃、舞台に映像なんてなかったから
台詞で観客に想像させるしかなかった。
そこに劇作家の言葉の力、俳優の演技力が問われた。
なんでも答えが出てしまったら
想像する必要がなくなる。
そうなったら、私たちはどうやって未来を楽しみにしたらいいんだろう。
どうやって辛い現実が訪れたときに乗り越えたらいいんだろう。
どうやって自分らしさを見つけたらいいんだろう。
「そのときは彼によろしく」は、夢の世界を通して生まれた
ファンタジーであり、再会の物語でもある。
幼い頃、周囲に馴染めず、少し風変わりで、
だからこそ
特別な時を共に過ごした智史、花梨、佑司。
大人になって、再会したとき
3人の中には、幼き頃の思い出が夢のように生き続けている。
大人になった花梨は、主人公の智史の幼い頃に関してこう語る。
「全然孤立することを恐れていなかった。人と同じようにしようなんて、そんな気まったくないの。自分だけを信じて、少しもゆるぐことがなかった」
「それでいて、まったく肩に力が入ってないのよ。自然体なの。とことん無自覚でリラックスしている」
「憧れてた。目を逸らすことができなかった。一緒にいることで同化したかったの」
自分らしくいるということ
そして自然体でいること
シンプルで難しいお題だ。
私は変わった人が好きなのだと思っていたけれど
自分らしく、自然体でいる人が好きなのだと気づく。
智史、花梨、佑司のような。
3人のまっすぐで夢のような言葉がふわふわと漂い続けているうちに
私もそっと肩の力を抜いて
今週も色々とあったけれど
それでもこうやって本を読んで、想像して、どきどきして。
それでいいんだ、それがいいんだと。
ちょうどこんな雨の日にそっと開き
思い出や想像にひたったりして
今夜の夢を楽しみにしたくなる
そんな本でした。