Sunday’s Book 24 「“役に立たないこと”にこだわる理由」

★Sunday’s Book★

明日が憂鬱な日曜日に、読んだらほんの少しココロが前向きになれるような
「心の体温が上がる」本をテーマにご紹介します。

<24冊目>
タイトル「夜のピクニック」
著者:恩田陸

文学はしばしば、世の中の「役に立たない」と言われる。


就職を意識した学生で、文学部を選択する人間は少ないだろう。

答えのない読書感想文や国語を苦手な日本の子供は多い。


確かに、経済には直結しない。

そして、日本の中心には常に経済がある。


かつて、国立大学の文学部を始めとする人文社会系学部は、

文科省から組織見直しを通達された。

事実上の廃止令とも取れるこの通達は、

まさに「役に立たない」というメッセージにとれた。



衝撃的だった。

私にとって、文学を学ぶことは、人生を学ぶことだった。

言葉を学ぶことは、人間を学ぶことだった。

その優先順位を下げる国が自分の生まれた国だなんて、と悲しかった。



そんな時、京都大学は

「京大にとって人文社会系は重要」と通告を拒否した。

理系のイメージが強い京都大学がこの意志を示したことが嬉しかった。

文学を学んだ人間と過ごした日々が自分の人生にとって必要であった

と表明され、それに強く共感をした。




先日、『夜のピクニック』を読んだら、このことを思い出したのです。


この作品に出てくる忍の言葉がきっかけでした。


彼は、いとこからすすめられた本をずっと読まずに放置していた。

そして、高校3年になってふと手にとって読んでみた。


読み終わった時、「しまった、タイミングを外した」と思ったと語る。

『しまった、タイミング外した』だよ。なんでこの本をもっと昔、小学校の時に読んでおかなかったんだろうって、ものすごく後悔した。せめて中学生でもいい。十代の入口で読んでおくべきだった。そうすればきっと、この本は絶対に大事な本になって、今の自分を作るための何かになってたはずだったんだ。そう考えたら悔しくてたまらなくなった。
だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。


文学は、雑音かもしれない。

だけど、文学は、同じ言葉なのに、

読む人間によって、読むその瞬間によって、受け取り方が変わる。

それはその人の人生をほんの少しだけ

変えたり、照らしたり、落ち着かせたりしてくれる。


24時間、365日、生きるのに必要なことだけをしている無駄のない人間に

誰が惹かれるのか。誰が人生の意味を感じられるのか。



その時にしか聞こえない雑音を拾い上げられる人でいたい。

それを大切にしまう人が、心地よく暮らせる国でありたい。



だから、私は今日も、「役に立たないこと」にこだわる。

ぐわっと、体温の上がった本でした。

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