「自分の悲しみの繭(まゆ)に閉じこもる」 - プーチンの”解放”の約束はドンバスに恐怖をもたらす
Byline Times 4/4/22 の記事の翻訳です。写真はドンバスのヴォルノヴァカ
Tom Mutchは、ロシア支配下の飛び地に取り残されたウクライナの家族の窮状を報告する。取材協力:Lelia Katalnikova
アレクサンドラ・ブシンカは先週、キーウで目を覚ますと、ドンバス地方にある幼い頃の家がロシアの爆弾で破壊されているのを発見した。
「家族と話すたびに、これが最後の会話になるのではと不安になります」と彼女はByline Timesに語った。「とても心配です。私達の家が破壊されているのに、動こうとしない。どうしたら家族の気持ちを変えられるのかわからないんです 。母は地元を離れたくないようで、兄が徴兵されるかもしれないと心配しています。どうやって(地元を)離れろと説得したらいいのか分からないんです。」
ウクライナの強固で効果的な抵抗に会い、ロシアは戦争の目的をキーウの完全占領とゼレンスキー政権の追放から縮小したようである。その代わりに、クレムリンはドンバス地域の”解放“に火力を集中させると言っている。
ウクライナの多くの人々にとって、これは勝利であり、プーチンが国全体を手に入れることはないだろうということを認めている。しかし、この地域の人々にとっては、さらなる恐怖の前兆である。
キーウに住む24歳のファッションデザイナー、ブシンカにとって、この発表は安堵と不安の両方をもたらした。彼女は、もうすぐ自分の生活を取り戻し、ウクライナの首都が再び安全になると信じている。しかし、彼女の家族はまだリシチャンスクに住んでいる。リシチャンスクは、ウクライナ政府がまだ支配しているルハンスク州の一部で、現在の前線に非常に近いところにある。
この街は、プーチンの軍隊の射線上にある。プーチンは、市民を意のままにするためなら残虐行為もいとわないことを、他の場所で明らかにしてきた。ドンバスへの攻撃の第一段階から逃れたウクライナ人は、ウクライナの手に残るこれらの州の町に何が待ち受けているかを知っているのだ。
イリーナ・ポポヴァは、最近ロシア軍とドネツクの分離主義勢力に制圧されたドネツク州の小都市ヴォルノヴァカ出身の34歳の美容師だ。彼女はなんとか戦闘から逃れることができた。しかし、混乱の中、脳性麻痺の妹スヴィトラナと母親は取り残された。
「私は廃墟と化した街を目撃しました。街の85%が破壊され、公式にはヴォルノヴァカの街はもう存在しない」とイリーナ・ポポヴァはByline Timesに語った。彼女の言い回しが、近くのマリウポリから逃れた人々を連想させるとしたら、それはドンバスの都市が経験しているロシアの包囲戦へのアプローチを表現しているからだ。
今回の侵攻の前、ドンバスは2015年初めのミンスク協定調印後、静的な前線全体で低強度の戦闘が行われる「凍結紛争」段階を経験した。しかしポポヴァは、「DNRから人々がいつも渡って来ますが、誰ひとり、言葉一つ、行動一つ、視線一つでも彼らを差別するようなことはなかったです。私達は彼らと他の人と変わりなく同じようにコミュニケーションを取りました。もちろんロシア語で、それは私の母国語でもありますから。」と指摘する。
今、この平和は打ち砕かれ、彼女とその家族は侵略の最初の数週間、シェルターに隠れていた。「私達の家、住宅、病院が砲撃され、破壊されるとは思っていませんでした」と、彼女はByline Timesに語った。「誰もそんなことは予想していなかった。そして、そのことを理解した後、私達は去りたいと思ったのですが、すでに不可能でした」と。
彼らは8日間、街の地下にあるシェルターで苦悩の日々を過ごした。
1週間以上隠れた後、ウクライナ軍はついに彼女と彼女の子供達の脱出経路を見つけることができた。
「ある日、ウクライナの軍人が私達のところに下りてきました。子供の一人は既に病気で、もう一人は泣き、暴れ、パニックになり、外に出たいと言い出し、癇癪を起こし始めたんです。やはり、夜昼の感覚は失われていました。ずっと暗いんです。ずっとです。
ロシアの侵攻が始まって以来、評判の良い西側やウクライナのジャーナリストは、ロシアや分離主義者の支配地域に入ることができないでいる。しかし、ロシアは自分達の政権に友好的だと見なすメディアにはアクセスを提供している。中国国営テレビの映像は、破壊されたアパート、学校、教会などの黙示録的な光景を映し出している。あらゆる建物が無差別に爆撃されているのだ。
ポポヴァはドニプロで無事だったが、いまだに連絡が取れない親族の安否に絶望している。「私は母のイェレナ・メレホヴァと妹のスヴィトラナ・アブドゥリエヴァを待っています。友人達は生きているのか、脱出したのか、まだそこにいるのかわかりません。連絡先が全部入った携帯電話を失くしてしまいました。私は自分自身の悲しみの繭の中にいます。」