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ロシア人はいかにしてドイツの極右の台頭を促したか

The Conversation 11/1/2018の記事の翻訳です。写真:2016年2月撮影、ドイツ中部エアフルトで、ドイツのための選択肢党(AfD)が始めたデモで、ドイツ国旗を振る人々。AP写真/Jens Meyer

2017年10月、Kと言う男性が、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に一票を投じたと私に告げた。

K氏はカザフスタンのカラガンダ出身で、ドイツのロシア・ドイツ人コミュニティの一員である。2017年のドイツ選挙で、AfDは12%以上の一般投票率を獲得し、楽に国会に進出した。最近までアンゲラ・メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)に投票していたK氏は、「AfDはロシア・ドイツ人コミュニティの価値観を代表する唯一の政党だ」と語った。

特に、CDUが同性婚を受け入れたこと、2015年にメルケル首相が100万人以上のシリア難民を受け入れたことは、間違いであったと言う。

K氏だけではない。2015年以降、AfDはドイツのロシア人コミュニティを積極的に口説き、特に彼らの懸念に対応するためのネットワークを党内に設置したほどだ。この戦略は特にバーデン・ヴュルテンベルク州で実を結び、AfDはロシア系ドイツ人が多く住むヴィリンゲン・シュヴェニンゲンで42%、ヴェルトハイムで52%の票を獲得している。

ドイツのAfDの支持者は、2018年5月にベルリンで行われた行進に参加し、アンゲラ・メルケル政権に抗議している。 (AP Photo/Markus Schreiber)

こういう所では、「私達 」の意見はいつも 「隠蔽されている 」という感覚がある。「CDUの政治は、もはや私達の心には響かない」とK氏は説明する。「AfDはこのような人達に新しい政治的な居場所を与えているんだ。」

ドイツのロシア人コミュニティの政治力は大きい。公式な統計はないが、2014年に実施されたマイクロセンサスによると、約150万人のロシア帰還民(ソ連に代々住んでいたドイツ民族)がドイツに住んでいる。

差別に直面

第二次世界大戦中、ソ連では、ドイツ人であることを理由に激しい差別を受けた。 「裏切り者」「ファシスト」と呼ばれ、まるでソ連国民の敵のように扱われた。

1980年代後半、ゴルバチョフ大統領とコール首相との外交交渉により、ドイツに移住した家族もいる。最近まで、言葉の問題や職業的スキルの欠如もあり、統合が困難であったが、うまく統合されたグループと認識されていた。

2016年1月24日、ロシア国営放送チャンネル1が、後に虚偽であることが証明された話を報じた。リサという13歳のロシア系ドイツ人の少女がベルリンの路上から引きずり出され、3人のアラブ人風の男達に古びたアパートに連れて行かれ、殴られ、レイプされたというのだ。

すぐに少女が嘘をついたことが明らかになったが、ロシアの上級外交官はドイツ当局が隠蔽工作をしていると非難し続けた。セルゲイ・ラブロフ外相はモスクワで記者団に対し、レイプ被害者のことを「我々のリサ」と呼び、ドイツではこのような事件は「政治的に正しく」見せたいために「絨毯の下に隠されている」と語った。

全てのロシア系ドイツ人がAfDを支持しているわけではないことに留意する必要があるが、フェイクニュースやモスクワからの支持表明によって、ドイツのロシア系コミュニティーのかなりの部分が、1月に退任を表明したメルケル首相(のニュース)に刺激されている。

リサの話をきっかけに、AfDはベルリンにあるメルケル首相の事務所の前で大規模なデモを行うなど、全国で何十回もの抗議行動を行った。

「ブルカ? 我々は、2017年のドイツの選挙でビキニがこのAdF サインを読むことを支持する。
ケルビーノ/クリエイティブ・コモンズ

彼らの視点からは、ドイツの政治を動かしている「誤った寛容さ」だけでなく、反移民活動家によれば、ドイツの歴史に対する理解や経験も危機に瀕しているのである。

ドイツにおけるロシアの影響

最も重要なことは、ホロコーストと第二次世界大戦の責任をドイツが認めていることが、多くのロシア系ドイツ人にとって問題であるということである。そして、多くのロシア系ドイツ人は、自分達を戦争の被害者とみなしており、罪を犯した側とはみなしていない。

ロシアはドイツにおいてかなりのメディアプレゼンスを誇っている。Odnoklassniki(クラスメート)やVkontakte(コンタクト)などのロシアの主要なソーシャルメディアネットワークは人気があり、衛星テレビでは、プーチンの「国営チャンネル」ともみなされるロシアのテレビチャンネル1に簡単にアクセスすることができる。

ドイツのテレビ局は国内の多くの言語コミュニティーの存在を認めているが、ロシア語系住民をほとんど無視している。連続ドラマにはロシア人の司会者や主役はいないし、トルコ語を話す参加者が多いトークショーにロシア系ドイツ人コミュニティーのメンバーが参加することはめったにない。

2018年5月、ドイツのベルリンで旗を振るドイツのための選択肢 (AfD) 政党の支持者
AP Photo/Markus Schreiber

ドイツのロシア人社会だけが、プーチンの友人と言う訳ではない。最近でも、アレクサンダー・ゴーラントらAfD党の有力者は、クレムリンに忠実な民族主義者やロシア正教会の指導者と会談し、ヤルタ国際経済フォーラムへの招待を受け入れている。

AfDは、クレムリンの反自由主義、反ヨーロッパ、同性愛嫌悪の思想を歓迎している。AfDがモスクワから資金援助を受けているという確たる証拠はないが、同党は数千枚の選挙看板や、AfDの反難民政策を宣伝する無料キャンペーン新聞の数百万部という形で、気前よく現物寄付を受けている。

後援者は匿名を希望しているが、AfDの財務担当者クラウス・フォアマンは、ロシアの資金が党を助けている事実を決して否定していない。

極右の構築

ロシアの政治は依然として拡張主義的だが、今や軍事力だけでなく、コミュニケーションやデジタル戦略にも依存している。

更に言えば、ロシアの移民に対するネイティヴィスト的な姿勢、国家愛国主義、ロシア正教の価値観の是認は、AfD以外の極右運動、マリーヌ・ルペンの国民戦線、オーストリアの自由党、ブルガリアのルメン・ラデフ大統領などにもアピールしているのである。

外国人嫌いの思想をアピールすることで、ある政治的主体や国の中の不安定化を促進しようとするのである。

これは、民主主義を内部から空洞化させるロシアの政治戦略である。ロシアが欧州の右翼運動から支持を得れば、欧州のポピュリズムもロシアもますます強くなっていくだろう。

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