ロシアの書籍市場で見るスターリン主義とナチズム
元NPO法人@boell_stifungディレクターで東欧の専門家@sumlennyのツイートの翻訳です。
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ロシアの書籍市場が、ロシア人がウクライナ、NATO、西側に対する全面戦争に向けて準備をし、スターリン主義とナチズムを促進し、これが西側に無視されたことについての長いスレッドをスタートしよう。シートベルトを締めて。ここでたくさんの嫌なものを見ることになります。
ロシアが本格的な独裁体制への移行と世界規模の戦争に備えていることを示す最初の指標の一つは、スターリンとスターリン主義のクールな側面と、来るべき西側との戦争に関する書籍が大量に生産されたことである。これらの書籍は、2010年代初頭にロシアの書棚に登場した。
秘密警察FSBの厳重な管理下にある書籍市場において、偶然とは思えないほど大規模な(出版物の)出現であった。『誇りを持て、悪いと思うな!スターリン時代の真実』『スターリン主義者の手引き』『スターリンの弾圧:大きな嘘』『ベリア(スターリンの秘密警察):ベストXXセントマネージャー』
スターリン主義の本の(流行りの)ウェーブは大きく、2011年には出版社に中止を呼びかける草の根運動「スターリン主義本の出版をやめよう」が登場した。もちろん無視された。
書店を通じて権威主義的、軍国主義的なムードを演出する発想は見事だった。2015年、モスクワの中央書店「ビブリオ・グローバス」を訪れたが、扉を開けてすぐに迎えてくれた品物は、軍服、軍事装備品、スターリンと戦争に関する本などだった。
これは前座であった。その後すぐに、クレムリンは「バトル・ファンタジー」と呼ばれるものを出版し始めた。あらゆる紛争においてロシアの軍事的優位を示す低品質の本が大量に生産された。全書籍シリーズが登場した。これ:"戦場ウクライナシリーズ" 『炎のウクライナ』
全シリーズが同じアイデアで描かれている:ウクライナの "ナチス "は滅ぼされなければならない。表紙は薬をやって作られたような物だ(現実離れしてる):『ワイルド・フィールド:ウクライナの廃墟で』- ”DNR“の戦車“ が、“ウクライナ・アゾフ民族主義メルセデスSUV”と確認できるものを粉砕している。
『血のウクライナ:バンデライト(バンデラ派極右)・ジェノサイド』(表紙はキーウのマイダン、“ナチス”の“アゾフ”とのつながりに注意)
『ウクライナの地獄:それは我々の戦争だ!』(ロシア兵が米国パイロットを捕獲)
『ウクライナ戦線:マイダンの上の赤い星』(米軍機は破壊)
『壊れた三叉の矛』
中身はどうなっているのだろう?代表的な物:第3次世界大戦がキーウのマイダンで始まる。ロシア人に対するバンデライト大量虐殺が始まり、 NATOと“平和維持軍(ロシア)”が都市全体を一掃。茶番はもう存在しない。ノボロシヤは反撃しロシアが支援する。キーウを占領する!これは我々の最後の戦いだ!
この様に、これらの本の殆どは、悪いウクライナ人は西洋のマリオネットのように振る舞い、アメリカはロシアを滅ぼしたいと思っているが、ロシア人は恐れず、強いので全面戦争に突入すると言う同じストーリーで書かれている。ジョージアについても同じような本が出版されたが、それほど多くはない 。
さて、ロシアのプロパガンダの次のレベルまで掘り下げてみよう(このスレッドでは厄介で怖い事を扱うと言ったはずだ。)これらの本は何について書かれているのだろうか?*レバンキズム。レバンキズムの究極の形は何だろう?歴史の書き換えだ。そして、ロシア人はこのために本のジャンルを作った 。
*レバンキズム(フランス語: revanchisme、revanche「復讐」)とは、戦争や社会運動によって国が失った領土を取り戻そうとする意志の政治的表出。
ロシアの歴史書き換えバトル・ファンタジーのジャンルは、「ポパダンツィー」(タイムトラベラーズ、文字通り”出現“)と呼ばれている。トウェインの『コネチカット・ヤンキー』やハリソンの『倫理的技術者』に触発されたロシア人は、ロシアをいかに偉大にするかという物語の金鉱を開いたのである。
ロシアの基本的なトラウマは、ロシアが不当な扱いを受け、唯一の世界的超大国としての権力と地位を奪われたことだ。これは学校で習うことだ。ロシアはモンゴルに征服され、300年にわたる発展を失った。エリザベス女王は、イワン雷帝との結婚を拒否した。
ロシアのカルト映画「進め、ガーデマリーンズ!」のラストシーンに注目。勇敢なロシア軍将校は、グロース・イェーガー・ドルフ(1757年)の戦いでロシア軍が勝利し、プロイセンのフリードリヒを捕らえ、戦争に勝つことができるのに、愚かな将軍は撤退を命じる。
1995年に公開され、当時ロシアで最も人気のあった映画の集大成だ。ナレーターは、勝利は「盗まれた」ものであり、後にロシア人がベルリンを占領しても、その勝利は「再び盗まれた」ものだと言う。事実上、これは「*バックスタッブ(裏切り)論」映画の一つだ。
*バックスタッブ(背中を刺す)
友人のふりをするけれども、陰でその人を非難すること。名誉を傷つける狙いがあり、その人が何か悪いことをしていると仄めかす意味合いを含むことが多い。
「盗まれた勝利」「裏切られたロシア」という神話は山ほどある。私の学校の先生は、アラスカはアメリカに売られたのではなく、100年間貸し出され、アメリカはその契約を破ったと言っていた。1920年代のナチスは1914年の「裏切り」について語ったが、ロシア人はそのような嘘に大量に踊らされていた。
さて、本の件に戻る。裏切り者の西側に対するこの根源的な憎悪に仕え、ロシアの勝利に貢献するにはどうすればいいのか?簡単だ!過去を修正し、未来を勝ち取るために、あなた方愛国者を過去に送り込むのだ! そう、ロシアにはこの手の本のジャンルがあり、とてもよくできている:「ポパダンツィー」
まずは気軽に読めるものから
『未来から来たツァーリ』:ロシア皇帝ニコライ2世の体で目覚めた男が、ロシア革命を阻止し、イギリスを倒し、近代兵器でイスタンブールを征服する。
『ロシアよ、立ち上がれ!』ニコライ2世とアレクサンドル3世の体になったポパダンツィー。
このジャンルを掘り下げていくと、一つの興味深いパターンが見えてくる。最大の敵はイギリス(劣勢はアメリカ)
比較:『ポパダンティーの親衛隊:ブリタニーを沈めろ!』
『ロンドンは破壊されなければならない! ロシア軍イギリス上陸』(ネルソン艦を襲撃するロシア軍*SpecOpsに注目)*SpecOpsはゲームのこと
更に比較: 『ロシアン・アメリカ株式会社(アメリカは国でなくロシア所有の株式会社と言う意味)』ある男が18世紀に飛び込んで米国植民地を征服し、大英帝国を破壊し、“インディアンの大量虐殺を阻止する”(とても優しい)でも、ちょっと待てよ、ドイツとナチスはどうなっているんだ?と言う疑問が浮かぶ...
ロシアに関する西側諸国の最大の誤解の一つは、西側諸国が、ロシアは反ドイツ・ナチスだと信じていることである。ロシアはそうではない。ロシアのトラウマは、ヒトラーがスターリン・ヒトラー同盟を破棄し、ソビエトと共に他国を殺すのではなく、ソビエトを殺すようになったことである。
ロシアの夢を楽しもう 『同志ヒトラー、 チャーチルを処刑せよ!』内容:タイムトラベラーはアドルフ・ヒトラーの体に入り込む。チャーチルを戦争犯罪で処刑し、ソ連と同盟を結ぶ事ができるのか?同志ヒトラーとスターリンはアメリカを倒し、アメリカより先に核兵器を手に入れる事ができるのか?
『同志ヒトラー』は、同著者の『同志総統、電撃的勝利』に続く2冊目。情報:政治的な非正統性の記録をことごとく更新! ヒトラーは上陸作戦を成功させ、英国を墜落させることができるのか?総統はソ連との恫喝戦争を防ぐことができるのか↓
もしくは、これ『未来への攻撃!』(表紙の燃えるロンドン+米軍戦車に注目)。情報:(ナチス)ドイツ、ユーラシア連合に加盟。大西洋民主同盟は第三次世界大戦を開始する。USSRは地獄に対抗する! ロシア-ドイツの兄弟が星条旗の疫病に対抗し、世界解放のために立ち向かう!
嫌なものを見ると(最初に)約束ましたね?『(第三)帝国の息子』情報:ソ連は再び協約の裏切り攻撃を打ち破らなければならない。赤軍とドイツ国防軍は新世界秩序に対抗して共に戦う。イギリスのパイロットは都市と難民を爆撃する。
まあ、これはポパダンティーとまではいかないが、いい味を出している
その数は膨大で、1%も挙げることはできない。時たま彼らはジャンルを混ぜる。こんな具合だ:『ノボロシヤのパイロット』スターリンの息子ワシリーの身体で目が覚め、戦争パイロットとして戦争に勝利し、西側工作員フルシチョフを暴き、スターリン主義を救う。
こんなのもある:『未来からの中尉。バンデライトに対抗するGRU』ショイグ空軍大尉の顔をしたタイムトラベラーがリヴィウを焼き払い、ウクライナの政治家トゥルチノフやヤツェニウクを逮捕する。
あるいは、『祖国のために! プーチンのために!』 - 1945年、ロシアの近代戦車がベルリンを襲撃する。
事実上、これらの本はそれぞれ、レバンキズムのウェットドリームについて書かれている。この『ワシントンという街のためのメダル』のように。これは実に面白いタイトルだ。ソ連・ロシアのレバンチズムを知らない人は、ピンとこないだろうが、すごい話なので、更に読み進む
1945年から46年にかけて、ソ連の作曲家ブランターと詩人イサコフスキーは、家族を失ったソ連兵の恐怖を描いた『敵が彼の小屋を焼き払った』という歌を作ったが、“ブダペスト占領のため”という勲章は彼の苦悩を癒やす事はできなかった。
この曲は反戦の語り口から半ば禁止され、後に『メダル・フォー・ブダペスト』の名で知られたが、後のソ連ではアメリカの将来の敗北を賛美するレバンキスト曲『メダル・フォー・ワシントン』に変身し、プーチンにお似合いとなった。
最新版は、バラクとミシェル・オバマの屈辱の詩に修正され、『さあ、アラスカを解放するために行く必要がある』という言葉で締めくくられている。ロシア人が大好きな米国製コンピューターゲーム「World in Conflict」の画像に注目。
しかし「そんなものはソーシャルネットワーク上のジョークに過ぎない」と言われるかもしれない。いや、本からテレビに至るまで、国営のプロパガンダなのだ。彼らは、学問からジョークや逸話まで、あらゆる領域を使っている。
既に2010年には、米国への核・化学兵器攻撃を揶揄する歌(『ワシントンがあった場所はまだ地球が焦げている』)がロシアのテレビで披露されている。観客の楽しそうな反応に注目。この歌は、子供のアニメの替え歌。
「ICBMはゆっくりと飛び去っていく、もう二度と会うことはないだろう。アメリカには、申し訳ないが(それがアメリカの運命)そして次はヨーロッパの番」- というのがこの曲の出だしだ。リンク先で全文を見ることができる。(長いバージョンと短いバージョンとがある)歌詞へのリンク
PCゲーム「World in Conflict」のデザインはロシア人を非常に魅了したので、盗んで、例えばこの本『核の戦車』に使った。
比較(表紙の絵)
西側政治権力の象徴を屈辱して、アメリカと西側を破壊しようというのが、ロシアのレバンキズムの根底にある。これらの本の表紙を比較(2番目は『ノンフィクションと分析』、1番目は『ポパダネッツ(タイムトラベラー)』について)
ロシアが世界規模の戦争に備え、人々を軍事化し、ありとあらゆる奇妙な暴力的幻想を広めている事が、これほどまでに明らかになった後、人は疑問に思うだろう:西側大使館は一体どうやってこれを無視したのか?とても明白なことだったのに、そうでしょう?
それは全く隠されていなかった。レバンキストの本はどこでも売られ、レバンキストの映画はブロックバスターとなり、1990年代以降のロシア文化を文字通り形成したのです。私が@cepaに書いた映画『Brat-2』の歴史と比較して欲しい。 文字通り、何も隠されていなかった。
私が思うに、それは無知とロシアへの憧れと怠惰と腐敗が混ざり合った危険なものだった。海外勤務中は、現地の文化を掘り下げる特別な心持ちが必要だ。言語を学び、文化的な規範を知り、(これらの本のような)クソをたくさん読む事だ。
ロシアに行った人の多くは、トルストエフスキーを読んで、自分はロシアを知っていると信じていた。その代わりに、彼らはLiveJournalで数年過ごし、Krylov, Holmogorov, Galkovsky, Kenigtiger, Legatus_Minor(聞いた事ないだろうね)などを読んで、何が起こっているかを理解しなければいけなかった。
警告のサインは、経済協力の全体像とWandel durch Handel(東方外交)を台無しにするため、無視された。クソみたいな本?私達の国にもありますよと彼らは言った。ええ、しかし、1つのトピックにフォーカスし、こんな憎悪のレベルの本は、こんな数ないでしょう。
このような警告は、「オタクっぽい」「詳しすぎる」「異常な点にばかり目が行ってグローバルな視点が欠けている」「誇張しすぎ」「ロシア嫌い」などの理由で無視された - 私自身も経験がある。
21世紀の国家は、あらゆる可能な協力の申し出を受けるという考えそのものかもしれない。G8、G20、ロシア原子力協議会、平和のためのパートナーシップ、WTOなど - 21世紀の国家が、喜んで戦争の道を選ぶと言うのは、多くの人にとってあまりにも恐ろしい事だった。
「どうしろって言うんだ?この2冊のパルプフィクションのためにNordStream2に制裁を加えるのか?」そして同じ頃、ロシア女性と結婚し、何十年もモスクワで問題なく暮らしている“ロシア専門家”が、対話、協力、理解の重要性について報告し続けていた。
ああ、すっかり忘れていた。ポパダンツィ(タイムトラベラー)を題材にした国策映画もあった。最初のものは(多分)、国営テレビ局ロシヤ(Rossiya)が2008年に制作した『われわれは未来から来た』だ。愛国心のない4人のロシア人が1941年に来て、愛国心を持つようになる。
2010年、『俺達は未来から来た2』に続いて、同じメンバーがウクライナのリヴィウで開かれた音楽祭に行き、そこでウクライナの民族主義者がナチの制服を着ていることを知る。そこで1941年へテレポートしてウクライナ人は生まれ変わり、UPAと戦い、ロシアを愛するようになる。
同じ2010年に『The Fog』という映画が製作された。ロシアの徴兵部隊が第2次世界大戦の帰還兵を侮辱して1941年にテレポートし、そこで国防軍と命懸けの戦いをするというもの。(彼らは生まれ変わり、ロシアを愛し始め、良い子として戻ってくるというパターンだ)
2012年には、同じ原理で『The Fog 2』が製作された。ロシアの愛国心のない若者達が、5月9日の戦勝記念日を仮装パーティーで祝い、歴史を侮辱し、テレポーテーションされ、また同じ展開…
2008年から2012年にかけて、国営メディア会社が国のお金で映画を制作したのだ。これは、超軍国主義的なムードを作り出し、若い世代に、第二次世界大戦はまだ終わっておらず、この世代は「最後まで戦わなければならない」と思わせる、国営のプログラムだった。
それはもう「楽しい冒険」ではなく、「国に負う汚い義務」だったのだ。これは、「君達は先祖のように世界大戦を戦わなければならない、戦わなければ死ぬ」というスローガンのもと、国が運営する洗脳プログラムであった。