はじめに
この度、ゆりかご.comというメディアを開始します。
産前・産後からはじまる子育てと親となる人の人生をサポートする「ゆりかご.com」は全国にある産婦人科・小児科・助産師/保健師・産後ケアの情報を掲載。独自の特集やユーザーの声をもとに、様々なジャンルのサービス、目的や予算にぴったりのケアが見つけられます。
運営者である私は、この数年間、こどもの医療機関でPR・Webサイト運営・ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事してきました。そのご縁を戴いたのが、Living in PeaceというNPOで出会った人とのつながりでした。
週末プロボノをしていた、児童養護施設の支援をするLiving in Peace教育プロジェクト(現・こどもプロジェクト)で、創業者の慎さんにお声がけいただき、当時デジタルマーケティングを専門とするコンサルティングファームにいた私は全く他分野だった医療の世界へと入ることになりました。
その後、小児・周産期の医療機関の専門職として仕事をする中で感じた現実が3つあります。あまりにIT化の進んでいないという現実と、お母さんがどんなに困っていても〝病院に来なければ患者になれない〟という現実、そして医療者として専門性の高い資格を持っていても出産・育児で離職した後に復職を諦めている人が多いという現実でした。
一つ目の『あまりにIT化の進んでいない現実』。これは、ある知り合いの女性が出産するときに痛感しました。見知らぬ土地で子どもを産む、身寄りのない彼女をサポートしようと様々な支援を考え、調べ、案内できるようにしたいとNPOのメンバーと知恵を出し合ったときです。
その地域ではそもそも産前・産後をフォローする医療機関の少ないことに加え、困ったときに頼りたい窓口の連絡先リストが行政のWebサイトに総てPDFで載っている…という状況に「まだ、こうなっているのか」とガッカリしました。これでは、検索エンジンにもひっかかりません。困ったとき、探したくても、探せないのです。
二つ目の『お母さんがどんなに困っていても〝病院に来なければ患者になれない〟という現実』。困り感や育児不安などに自ら気付けずに睡眠不足やコミュニケーション不足から精神的な余裕をなくし、徐々に追い詰められてしまう親御さんもいらっしゃいます。そうした潜在的に困っている人へ介入するようなリーチをしていくことが今後の小児医療において求められているのですが、そもそも自分が困っていることに気付いていない人に向けてどうアプローチしたら良いのでしょうか。
そんなことを考えているとき、ある市区町村の窓口で産後ケアセンターを紹介されたときに「この事業は虐待予防を目的として予算の付いた事業なので、どうしてもお困りの際にはおこしください」という説明をされた、という話を聞きました。そんな説明をされた人が、どうして子どもを抱えて出向いて、気軽に悩みや不安を訴えることができるのでしょう。支援すべき人に〝虐待親予備軍〟としてのレッテルを貼り、その人にとって自分事ではないかのような説明をしているという現状。
どんなに困っていても、そうした窓口や施設、病院にいかなければその人は支援をうけとることはできない。考えられた支援を市民に推奨して、予算の付いた事業を広げていきたいのであれば、当事者が自分のなかにある困り感をポジティブに捉えられるような情報発信でこそその人に支援をとどけられるはずだと思うのです。
三つ目の『医療者として専門性の高い資格を持っていても出産・育児で離職した後に復職を諦めている人が多いという現実』。資格を活かした職場復帰をしたくとも、自信がなかったり、学び直せる環境がなかったりして二の足を踏んでしまい、復帰からどんどん離れていってしまうのだと聞きました。責任感の強い人たちの対人(ひと)のお仕事だけに、そのようなハードルがあるのかとハッとさせられました。
現在、自分が仕事をしている地域のクリニックで、両親の支えになる医療者の存在が近所にあることの効果の大きさをひしと感じます。身近な専門職がいて、困ったときもそうでないときも必要とあらばソーシャルワークしてくれることで地方行政の窓口や必要な相談事業へとつながれる…そんな場所は全国にも少なく、首都圏であっても地域格差の大きい実態があるということも知りました。
先人たちが育んだ小児・周産期医療の専門職を、一人でもおおく地域に残すこと。これが出来なければ、これからさらに少子化の進むこの国において次世代がその専門性を学べる機会すら無くなっていってしまいます。
このように、産後うつ、児童虐待、育児不安、就労におけるキャリアパスの不透明さなど…子育てを取り巻く環境における支援はいまだ不足しており、これらを解決するはずの医療機関・医療者(小児・周産期)との距離は縮まってこないまま。しかも、ソーシャルメディア経由の情報・デマの影響力は増える一方です。
その一方で、厚生労働省研究班の取り組みによって、産前・妊娠中から保健師が介入し顔見知りの関係性をつくることで(導入前の母親に比べて)、出産から3カ月後の産後うつリスクが低くなることが確かめられています。そして、相談窓口の利用、両親教室への出席、訪問保健師を受け入れる割合のいずれも導入後が高く産後不安のセーフティネットがより機能する成果が確認されています(これを、その研究がなされた地方の名称を取って須坂モデルと云います)。
そう、置かれた状況はシビアではありますが、「もうどうすることもできない」という訳ではないのです。「こうすればできるようになる」という真実が、地道な研究から明らかにされてきているのです。
私は、産前・産後からの専門職の早期介入と医療/保健サービスの供給を量・質ともにスムーズにするメディア・サービスを運営することで、育児不安を解消し、できる限り不安なく子育てのできる世の中をつくることを目指したいと思っています。
デジタルメディア運営それ自体は、直接的に命を扱う医療とくらべればさほどクリティカルな技術・技能ではないのかもしれません。しかし、情報発信はそんな地域に根差した次世代を支える医療とのつながりを〝処方〟することができます。ゆりかごからはじまる幸せのつながりを、大人にとっても、子どもにとっても、誰であってもとどけられる社会にしていければと願っています。
生まれたばかりのメディアですが、これからどうぞよろしくお願いいたします。
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