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【報告レポート】ウクライナ避難者支援活動の1年を振り返って(3)
日本YMCA同盟の横山由利亜です。
YMCAウクライナ避難者支援プロジェクトでは、全国の皆様に本当に力強くお支えいただき、心から感謝を申し上げます。
◯【報告レポート】ウクライナ避難者支援活動の1年を振り返って(1)
https://note.com/yurianne/n/n4a8867045962
◯【報告レポート】ウクライナ避難者支援活動の1年を振り返って(2)
https://note.com/yurianne/n/n8ba73421ee13
■第3フェーズの生活個別支援へ
夏ごろから相談事項の内容が様変わりしてきました。
私たちは在日ウクライナ大使館から全国、そして横浜市の避難者支援の要請、ご寄付をいただきました。
東京都政からは、公営住宅に住む避難者を戸別訪問して生活の見守り、必要な支援策の提言を行う協定を結びました。
それぞれ避難者の様子の変化、例えばメンタル、体調の異変、子どものトラウマなどの相談が全国で相次いだからだと思います。
ニュース報道などでも孤立・孤独、場合によっては事件に巻き込まれるといったことが課題になってきた時期です。
これは避難者をめぐる課題をまとめたものです。
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子どもをめぐる相談が一番多いです。
母親は本国に残してきた夫に、このような子育ての悩みを打ち明けることをためらい、責任とプレッシャーで眠れない、慣れない仕事、主として清掃や倉庫での物資の整理などですけれども、それが原因で体を壊してしまう、自分が倒れたら、誰がこの子の面倒を見るのか、といった相談を受けます。
中高年は、高血圧や糖尿病などの持病を抱えながら節約や本国の状況を思って電気や暖房もつけずに引きこもる人もかなりいます。
本国では、家族、地域社会、会社などで信頼を培ってきた私と同年代のような人たちですけれども、日本語ができないというだけで「自分は無価値」だと思ってしまうのです。
数少ない男性はやはり孤立傾向、男性として本国で戦っていない、といった後ろめたさを抱えながら中には飲酒やDVといった行動に出る人もいます。
ギルティ・シンドローム(罪悪感)と言われますが、避難者は自分たちだけが日本という安全な場所に身を置いていることに罪悪感を持ってしまい、慣れない異文化の中の緊張でかろうじて自分を保っていながらも、花火などの大きな音や地震での揺れがあると爆撃を思い出してパニックになったり、将来がどうなるのかその不安に対処ができなくなったり、涙が止まらなくなったり、体調を崩したりということがあります。
私はそういった人々のお宅を訪ねて上がり込んでお話を聞いているのですが、それで何ができるのか、と皆さんも思われるかもしれません。
私がしているのは、まず、話をゆっくり聞くこと、そして不安や罪悪感は自然なことで「よく頑張ってきましたね。」「そういう気持ちになるのは当たり前ですよ。」「時間をかけて焦らず、ゆっくり一緒にこれからのことを考えましょう。」「必要ならこういう支援策、選択肢、情報もありますよ。」と伝えているのです。
また、家の中で、ちょっとした飾りつけや家族の写真などがあったら「これは何?」とお話を聞くような投げかけ、素敵なアクセサリーをしていたらそれを褒めたり日常のそういったささいな喜びであったり、その人を知るということも心がけています。
いずれにしても、私の心の中では、「何かを決めるにしても決めるのはご本人、でも、どんな選択であってもその決断の背中を押す」ことを意識しています。
行政や入管は、どうしても全体の傾向を見て支援策を出します。
一人ひとりの人生に踏み込むことや一人ひとりに興味、関心、共感を示すことは業務性質上、難しいのです。
■第4フェーズ中長期滞在定住支援へ
秋になると、キーウなど都市部も含めた大規模なインフラ攻撃がありました。
この頃から避難者も一時的避難ではなく中・長期化を覚悟し始めます。
最新の避難者アンケートでは、7割の避難者が日本での定住あるいは中・長期的な生活を希望するという結果が出ています。
帰る家や家族がウクライナにある人、ない人、ロシアに占領されている地域とそうでない人など、背景はそれぞれですけれども、元の生活には戻れない、たとえ戦争が終わっても、という現実を受け入れ、今、自分たちがすべきことに取り掛かり始めています。
2023年1月の段階で首都圏、そして全国のウクライナ避難者500名ほどに直接お会いしてきました。
都内ではお家に上がり時間に制限なく話し込んで来ました。
一人ひとりの悩みの深い部分に触れ、ひと言では言い表わせないものがあります。
秋以降の大規模な攻撃に、心が折れ、泣き出し、本国を想い電気も暖房もつけずに過ごす人たちが多くいました。
そのような避難者の方々も、少しずつ様子が変わり、ままならぬ人生の変化を受け止め、日本での長期滞在、定住も視野に入れて立ち上がり始めています。
■皆さんと一緒に考えていきたいこと
最後にYMCAらしく子どもにフォーカスして、皆さんとご一緒に考えることができればと思います。
子どもの変化、特に保育園児から小学生低学年までの変化は目を見張るものがあります。
避難当初は環境の変化に、押し入れに閉じこもる、おねしょをするなどしていた子どもたちが半年を過ぎた頃から、日本語を文章で話し、たとえ授業が分からなくても「キュウショク、プール、ヤスミジカン、サイコー!!」と話してくれたりします。
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学校では学習支援員が配置され母国語での支援も受けられています。
一方で、その学習支援も上限時間があり、間もなく打ち切りになります。
勉強についていくにはまだまだ足りず、そこにはハードルがあり、学校も課題がある子は特別支援学級に入れられないか、そんなことを考えてるという話しも耳にします。
そして、ウクライナの小学生もオンラインの本国の学校を継続していて、だいたい、それが夕方から夜まであるんです。
午前中は日本語の勉強をし、午後は日本の学校に行って、部活動や友だちと遊ぶこともなく、大急ぎで家に帰って夕方からオンラインで本国の授業を受ける、そういった非常に負担の大きい生活を送っているのです。
また、子どもがどんどん日本語を学習すると、親の方が追いつかなくて、親子の会話に混乱が生じるといったことやお母さんが「この子は将来、ウクライナ語も日本語も中途半端になってしまうのではないか」「ウクライナのことを忘れてしまうのではないか」といった悩みも新たに生まれてきています。
そして、10代が一番深刻です
多感な時期、友だちと、ウクライナの友だちですけれども、24時間、オンラインでずっと連絡を取り合って昼夜逆転していたり、日本の学校に転入しても馴染めない、覚えた日本語を話すのは恥ずかしい、皆170センチ以上身長があって、金髪で体格もよくて目立つのでからかわれる、いじめられる、そういった子どももいます。
彼らが、彼女らが、ぼそっと話してくれる一言は「帰りたい」「混乱している」といった重い内容です。
数学や英語など日本語ができなくても、問題が解けてそれがうまくいけば進学にも非常に有利だし、全体の足かせにならないのではと希望を持っていましたけれども、テスト問題そのものの日本語が読めない、特に文章問題などは難解、といった切実な声が聞かれます。
これから春にかけて進級・進学の時期を迎えますが、そこには言葉の壁、 資格・手続きなどの制度の壁、異文化適応の心の壁があります。
そして、子どもの希望や事情だけでは決定できない家族をめぐる課題もたくさんあります。
親のビザ、就労、経済基盤の壁、こういったことには、地域の学校、教育委員会、それ以外にもNPOなど様々なセクターが支援や活動を模索していますが、トータルにその子ども、そしてその家族を見てコーディネートする人材ははっきり言ってほとんどいません。
本当にそういった組織や機能はないんです。
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私たちはこのような外国にルーツを持つ子どもたちにどう伴走していくことができるのでしょうか。
■YMCAとして出来る事
YMCAには保育園から進学のための日本語学校、学校以外の居場所としての学習支援やウエルネス、キャンプそして保護者とのコミュニケーションなど、全国規模で体系的に取り組みメッセージを発信することで、ウクライナだけではなく、多くの日本で暮らす外国の子どもたちの成長にYMCAが寄与できる可能性は多くあるように思います。
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そして、実際に既にそういった取り組みを長く続け知見を持っているYMCAもたくさんあること、私は今回のウクライナの避難者の全国受け入れ、各地の協力から私自身も学びました。
そしてそれは高く評価されています。
これらをこの機にこれからの日本のYMCAの役割・使命として全国で考えていけないかと考えています。
もともと難民の受け入れや移住労働者への対応が不十分な日本でウクライナだけ優遇されているのではないか、ミャンマーやアフガニスタン、クルドといった人たちもいるじゃないか、何よりコロナで生活に困窮している日本人も大勢いるという現状もあります。
私たちは、今回のウクライナ避難者支援活動を通して日本で外国人の人権が守られ、真に共生できる豊かな社会をつくる、そういった社会の変換につながるような喚起、意識喚起を積極的にしていきたいと思っていますし、メディアなども活用してそのようなことを訴えているところであります。
私自身、この避難者支援活動にかかわってみて外国にルーツのある方々が暮らしやすい日本社会は日本人にとっても暮らしやすい、特にこれから生きていく若い人たちにとっても生きやすい社会になるのではないか、そう感じることがたくさんあります。
ウクライナ避難者支援活動は、世界を揺るがす戦争という事態にYMCAがポジティブネットの力で抗い、一人ひとりの人生を支え、戦争に“否”を訴え、平和を訴えるアクションであり行動なのです。
YMCAの活動は全てにおいて、そのネットワークの広さ、人との関わりの深さ、そして息の長さが根幹にあると思いました。
まだいつ終わるともわからないこの戦争、そしてウクライナの人々の日本での生活の定着まで長い道のりですけれども、どうか引き続きご支援、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
ありがとうございました。
日本YMCA同盟
横山由利亜
活動はTwitterでお知らせしています。
ウクライナからの避難者に寄り添うYMCAの支援活動は変わらず継続してきます。
皆さまにおかれましても引き続きご関心・ご支援くださいますようよろしくお願いいたします。
Tポイントによるご寄附もお受けしております。
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※領収書の送付を希望された方に限ります。