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【短編】マイマイの死
屋上の景色は無敵だ。
眼下に川を見下ろしながら、ゆっくりと日が暮れるのを眺めていた。
花壇の中に巻き貝のような殻を被った大きなマイマイがいた。
真夏の日差しが容赦なく降り注ぐこの炎天下で、どれだけ長い時間生き延びてきたのだろう。
しばらくの間、ゆっくりとした動きで、花壇の土の上を這うマイマイを見ていた。
それから、毎日のように屋上に上がっては、川を見下ろしながらマイマイを探すようになった。
小さな白い花をつけたジャスミンの木の根本、ショッキンピンクの花を誇らしげに咲かせるプルメリアの幹、少し日陰になったレンガの壁、強化プラスティックの柵…
毎日少しずつ場所を変えながら、マイマイはのんびりと日がな一日を過ごしているようだった。
私はその大きなマイマイを「マイマイの神様」と呼んで会えるのを楽しみにするようになった。
ある時、マイマイの模様がいつもとは違うことに気づいた。
マイマイの神様は薄い茶色に濃い茶色の筋が入った巻き貝のような殻を被っていたけれど、この日のマイマイは薄い茶色に白い筋が入った殻を被っている。
よく見ると、もう1匹、そう私がマイマイの神様と呼んでいる濃い茶色の筋の入った殻のマイマイが地べたを這っていた。
つがいかな?
それとも兄弟か親子か。
ともかく、マイマイの神様は2匹いたわけだ。
なんだかとても嬉しくなって、今までよりもっと、マイマイの神様たちに会うのが楽しみになった。
マイマイの神様たちを観察していると、どちらかが近づくと、どちらかが逃げているように見えた。
それから、梅雨の季節が来て、毎日のように雨の日が続いた。
ときどき気になって、マイマイの神様を探しに傘をさして屋上に行くと、マイマイの神様たちは、南国特有の強い雨に打たれながら、元気にレンガの壁を這っていた。
雷の轟音が梅雨の終わりを告げた次の朝、久しぶりの強い日差しを浴びながら、マイマイの神様を探しに行った。
茶色の筋が入った殻を被ったマイマイは、相変わらずレンガの壁を這っていた。
もう1匹が見当たらない。
どこを探しても、白い筋の入った殻を被ったマイマイは見つからなかった。
諦めてそばのベンチに腰掛けようとした時、花壇のレンガに何かがついているのに気づいた。
マイマイの殻のかけら…
何かが乾いて茶色いシミになっているその中に、見覚えのある茶色の殻のかけらが落ちていた。
白い筋の入った立派な殻はほんの少しその形を残しただけで、その体は真夏の日差しに溶けてシミになってレンガに残っているだけだった。
あれだけの大きな殻を被るまでに、マイマイは何年ここで生き抜いてきたのだろう…
誰にも迷惑をかけず、夏の長いこの場所で、まぶしい日差しに耐えながら、静かにジャスミンの葉をついばんでいただけなのに…
もう1匹のんびりとマイマイが猛烈なスピードで近づいてきていた。
きっと、気づいたのだろうな…
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