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肉体言語

 誰だって殴りたくなることのひとつやふたつはあるだろう。同じ言語なのに言葉が通じないヤツに出会ったときには肉体言語で話し合いをしたくなることもあるだろう。未開の地や前世紀ならいざ知らず、21世期に果たして肉体言語を使っても良いか論じてみよう。


1.哲人童帝

 ぐんぴぃという哲人がいる。彼は芸人を生業としている人物でバキバキ童貞であると公言した稀有な人間だ。

 彼は20歳の一般男性から相談を受ける。
『自分の父親はアルコール依存症で他人に暴力を振るうクズである。ただ、その血を引いた自分にもそういう特性がある可能性がある。腹を立てたとき、人を殴りたくなったり、暴言を吐きたくなる。実行に移すことはしないがそのような特性とどう折り合っていけばいいかわからない。その心構えを教えて欲しい』

 哲人は次のように答えた。
『気持ちはわかる。私も同じような境遇にあるからだ。だが、血を引いているという表現はやめておけ。それはそなたの特性ではない。そのように考えるのはそなた自身を蝕む自分への呪いと化すだろう』

 哲人は続ける。
『人が感情的になったときに殴るのはそのような選択肢しか持ち合わせていないからだ。子供は親の背を見て育つもの、自身の親の振る舞いを見て自身の子にも同じことをしてしまうのは残念なことだ。だが、そなたはそれがおかしいことに気づいた。ならば他の選択肢を選べば良いではないか』

 哲人は尚も続ける。
『確かにそなた自身に暴力という選択肢を選ばないという努力は必要だろう。しかしそなたは暴力という選択肢を選ばないだけの冷静さと徳を持っている』

 哲人は最後に
『私にも人間をバリスタで吹き飛ばしたり、ファランクスで蹂躙するという選択肢がある。だが、同時にレスリングテルマエという選択肢も持ち合わせている。そなたも殴るの代わりにみずてっぽう眠るという選択肢を身につけるが良いぞ』

 途中からぐんぴぃ氏ではなくマルクス・アウレリウス・アントニヌスっぽくなってしまった。
 丸コピするのは華がないので私なりの言葉で書き直したら哲人皇帝が乱入してきた、そんな感じだ。

 元の文では『コマンド』という表現をぐんぴぃ氏はしている。RPG
(*1)ゲームやポケモンなどで選べる選択肢のことだ。選択肢は多い方がいい。うつ病の人間が自殺しやすいのは選択肢が少ないことと同じだ。何百個というコマンドを用意する必要はない。怒りだけではなくあらゆる感情を抱いたときにそれぞれ複数個の選択肢(他者や自分に危害を加えない範囲で)を準備しておくのが吉であろう。素数を数えてもいいし、前転してもいい。餅つきでもいいし、猫を吸って(*2)もいい。

 次は現実的に『肉体言語』でコミュニケーションをする弊害をみてみよう。

2.壁なぐり代行

 怒りのままに壁を殴るのはやめておいた方がいい。高い代償を払う可能性が高いからだ。主な代償はふたつ・・・

・嘆きの壁

 壁が脆い場合、あなたは高い修理費用を払う必要がある。実家であれば家族から養豚場の豚を見るような目(*3)で冷たくされる、もしくは親父に鉄拳制裁(*4)される可能性が高い。仮に賃貸だとすると不動産屋、あるいは大家から大目玉を食らうことになる。あるいは経年劣化で割れたなどと醜い言い訳(*5)を考える必要がある。

・拳を痛めてしまってね・・・

 石膏ボードだと思ったら鉄筋コンクリートだった。そんな経験のある人もいるだろう。大抵の場合、あなたの拳は蹂躙される。
 打撲で済めばいいが骨折した場合、病院で治療を受ける必要がある。その場合、あなたは恥ずかしい言い訳を考えなければならない。壁を殴ったら拳を負傷した、などでは保険はきっと使えない。10割負担だ。『つまづいて、咄嗟に壁で身体を支えたら偶然てのひらではなく拳で手をついてしまった。偶然、壁が硬かったので拳を負傷してしまった』
 ビロウな話で恐縮であるが、尻の穴で遊んでいた諸氏が肛門科で異物の誤挿入(*6)について相談すること並に恥ずかしい(*7)。

・外注しよう!

 世の中には壁なぐり代行という便利なサービスがある。諸兄諸姉方でどうしても殴らないと気が済まない、という人は少々金はかかるが外注されることを勧める。
 あなたは実家から出荷されることもないし、大家から追い出しを食らうこともない、病院で悲劇を演じる必要もない。いいことづくめだ。

3.怒られ

 青井硝子氏(*8)という人物がいる。彼についてはどこかで紙面(*9)を割きたいが、簡単にいえば虎の尾を踏んで『怒られ』てしまった人である。
 怒られという概念は一般的な言葉に直すなら『政府による社会的制裁』、逮捕や書類送検、あるいは監獄行きのことだ。
 そもそも怒られという言葉は青井硝子氏が自身の同人誌(*10)で考案したもので語感が良いので拝借させてもらっている。

 あなたが仮にこの日本において他人に肉体言語で語りかけるならば、あなたは間違いなく日本政府と肉体言語によるディベート(*11)を実施する羽目になる。あなたが仮に範馬勇次郎やカイドウ、ラオウ、スーパーマンあるいはハルクといった肉体的強者(*12)でない限り、あなたは肉体言語によるディベートの敗北者となるに違いない。この国において肉体言語の使用者は日本政府という特権階級に限定されるという決まりがあるからだ。
 嘘だと思うなら、メキシカンマフィアの支配する地域で彼らに無断でコカインの密売をしてみるといい、あなたは身を持って思い知るハズ(*13)だ。

 

4.田舎者

 怒られ、なくとも現代においては肉体言語で語ることはハッキリ言ってダサい行為である。田舎者丸出しだ。
 日本の地方に行くとリーゼントに長ランとボンタン(*14)でキメた絶滅危惧種のような不良に出くわすことがある。私の母方の実家の周辺には『モボ・モガ』なるセレクトショップがあり、絶望的にダサい。派手な刺繍の入ったスカジャンやデニムが並んでいる。
 少なくとも都会の人間は文明的で音声言語によるやりとりを重視している。バーバリアンのような肉体言語話者はお引き取り願いたい。

 一方で都会の人間も肉体言語に憧れているフシがある。やたらマッチョになってみたり、格闘技を習っている姿をSNSに上げてみたり、これ見よがしに和彫のトラディショナルなタトゥーを丸出しのまま出歩いたりしている。
 マリリンマンソンのような人は別にしても大概のモテる人は最終的に身体を鍛え始めるから野性味というのは需要があることは確実だ。

 人間も一介の動物であることは確かであり、なんやかんやで現代社会も弱肉強食のサバンナと変わらない。最終的には肉体言語がモノを言う。
 だからと言って肉体言語ムキ出しであるのは品がない。うまくカバーをかけてやる必要がある。
 大胸筋にリンゴを挟んでフレッシュジュース屋を始めてもいいし、上腕二頭筋と腹話術ならぬ筋話術をしてみてもいい。あるいはオネエ言葉でガチムチのドラァグクイーンでもいい。
 一目で肉体言語話者であると感知されることはあってはならないが、非言語的に暗にほのめかす(*15)、わかる人にはわかる、というのが現代社会ではスマートなやり方である。

<まとめ>

・殴る以外のコマンドを選べるようになろう
・壁が殴りたくなったら外注しよう
怒られは回避しよう
・肉体言語はスマートに

以上!


<*注釈*>

*1:ゲリラ兵の持つ魔法の杖ではない
*2:用法・用量を守って正しく吸いましょう
*3:豚は出荷よー
*4:あなたが悪い。受け入れろ
*5:実体験
*6:尻餅をついたら間違って入ってしまったらしい
*7:恥ずかしいのはわかる。だが命に関わる問題だ、早く病院に行け
*8:アヤワスカアナログのグル。ギフテッド。Amazonに青井硝子三部作がある。一読の価値あり。
*9:デジタルなのに紙面とは如何なものか・・・
*10:同人誌を一通り見直したが見つからない。青井三部作のどれかか青井堂でみたのだろうか・・・
*11:屈強なお巡りさんにチョメチョメされる
*12:極真空手5段?ヘビー級ボクサー?うるせえ!戦車を素手で破壊してから言え!
*13:とても残念なことになる可能性が高い
*14:飴の方ではない
*15:何を書こうとしたのか忘れてしまった・・・






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