年間ベスト・アルバム2018
お待たせしました、音楽ライターのナカジこと中嶋友理がお送りする2018年の年間ベスト企画、アルバム編です。
今年は雑誌の年間ベスト企画等には参加しないので、誰にも忖度しない完全に自由なセレクトです。
「このアルバムが好きでいっぱい聴いた!」それだけです。
シーンへの影響力とか革新性なんて知ったこっちゃないぜー!
それでは早速1位から発表していきます。
すでに公開済みのシングル編、ライヴ編とあわせてお楽しみいただければ幸いでございます。
①「Black Panther: The Album」Kendrick Lamar他
2018年このアルバム以上に自分にとってインパクトあった&影響を与えた作品はなかった、ということで1位はこれです。
マジで今年前半ずーっとこれとケンドリックの旧譜ばかり聴いていた。
私がケンドリックにハマった経緯はこちらの記事に詳しいのでよろしければあわせてどうぞ。
時代の語り部としてのケンドリックのすごさっていうのにいまいちピンと来てなかった自分ですが、映画『ブラックパンサー』を観てこのアルバムを聴いた時に、「なんちゅー物語の読解力と表現力だよ!」ともうシビレまくってしまいました。
私は元来他人のキャラクター解釈を読むのが大好きなタイプのオタクなので、映画のキャラクターを掘り下げたケンドリックのリリックや、曲によって主人公ティチャラと悪役キルモンガーを鮮やかに行ったり来たりする表現力に、「ブラックパンサー二次創作の最大手……!」とひれ伏しました。
特にここ最近のアメリカはエキゾチックなものを安易に取り入れると「文化の盗用」という言葉で批判を浴びることが多いんですが、本作はアフリカ出身のミュージシャンを起用したり、随所に映画からサンプリングしてきたアフリカ固有の楽器の音を効果的に使ったりと、とにかく丁寧に作られたという印象。あの素晴らしいエンドクレジットと共に流れる大名曲の「All The Stars」も、よく聴くとほんの少しビートにタメがあって、アフリカっぽいリズムになるように調整されてるんですよね。
そしてこのアルバムは2018年のミュージック・シーンを知るためのカタログとしても素晴らしい1枚であったと思います。本作が出たのは2月上旬ですが、トラヴィス・スコット、ジェイ・ロック、ヴィンス・ステイプルス、アンダーソン・パーク、ジョルジャ・スミスなどなど、その後自分の新譜を出して話題になったアーティストも大勢参加。2018年のシーンを予習&復習するためのガイド的なオムニバス・アルバムとしても非常に有用な作品でした。
ところでジェイムス・ブレイクって最近ヒップホップのバックでいい感じのコーラスを歌うシンガー、みたいな位置に落ち着いてる気がするんですけどいつの間にそんなことになったんでしょうか。謎。
②「iridescence」Brockhampton
昨年の私からは考えられない、まさかのヒップホップ勢1、2フィニッシュ。
2018年後半はBrockhampton大ブームだった私ですが、9月に出たこのフルアルバムを2位に選びました。
LAを拠点に活動するボーイバンド/大所帯ヒップホップ・クルー、Brockhamptonの5作目。
今年8月にロンドンで2週間でレコーディングして完成させたという勢い重視の新作です。
いや〜、アルバムが出た直後は年間ベストTOP3には入れないかな〜とか思ってたけど結局めちゃくちゃリピートしたしお気に入りのアルバムになっちゃいました。
アルバムのファーストインプレッションについてはこちらに書いてあります。
ベスト・シングルで紹介した3曲に勝つインパクトの曲は正直このアルバムの中にはなかったんですけど、冒頭の「New Orleans」から最後の「Fabric」まで彼ららしさに溢れてて愛おしい作品だなと思います。
「俺たちって最高にクールだろ?」って自信をひけらかしてみたかと思えば、「自分はこのグループの中で最悪のメンバーなんじゃないか」と、本当は自分に自信が持てない一人の人間であることを吐露してみたり。
その不安定さ、不完全さこそがリアルで、はみ出し者な若者の共感を呼んでいるんでしょう。
バンドにとって初の全米No.1も達成し、商業的にも成功したと言えるアルバムです。
しかしまだまだ未発表曲がたくさんあるようなので、2019年もこのリストに名前が挙がるよう期待してます。
③「Trench」Twenty One Pilots
3位は一応ロック・アルバムだけど、彼らもヒップホップ成分多めのアーティストではありますね。
2019年はフェスのヘッドライナーも決まって、完全にビッグ・アーティストの仲間入りを果たしたアメリカの2人組、TOPのメジャー3作目です。
9人の司教が支配する架空の世界「Dema」を舞台にしたコンセプト・アルバムですが、すみません歌詞はそこまで深読みしてません。
私にとってこのアルバムの一番の肝は、プロデューサーにMutemathのポール・ミーニーを迎えているという点なので。
Mutemathの大ファンでTOPも好きな自分にとっては、これはもうカツカレーみたいなアルバムです。
別々に食べてもいいけど一緒にすると更に美味い!みたいな。
これまで出した3枚のアルバムの中で一番好きです。
「Trench」について詳しくはこっちの記事にも書いてるので、アルバム解説についてはこちらを参照してください。
④「Zoo」Russ
はい、またしてもヒップホップ・アルバムです。
アトランタ出身の26歳、ラスによるメジャー2作目。
昨年出したメジャー1作目「There's Really a Wolf」がじわじわとロングヒットしてプラチナディスクに認定されたんですが、また今年も新作を上梓ということで多作な人なんでしょうか。
アーティスト本人のことは詳しくDigってないのですが、Diemon Crewというヒップホップ・クルーにも所属しているそうです。
長いことレーベル契約なしのDIYで活動してきて、チャートアクションは超地味なのにトータルセールスとファンベースはめちゃでかいというちょっと毛色の変わったラッパーのようですね。
「Zoo」は流行りのエモ・ラップやトラップとも違う、適度にメロディアスで言葉を詰め込みすぎてないスタイルがとても聴きやすくてかなりヘビロテしました。
スヌープおじさんも参加してます。
⑤「Reioi」Black Foxxes
5位にしてやっと純正ロック・アルバムが入ったぞい。
音楽友達のそんくん(https://note.mu/kyonghagi)に教えてもらったバンド。
彼は「2017年のBrand New枠」って言ってたけど、まさにそんな感じ。
USオルタナや初期エモ、パワーポップからの影響を感じさせる正統派ギター・ロックでありつつ、意外にもUSではなくUK出身のトリオです。
正直2018年はこの系統のバンドを全然掘らなかったので、この一枚と出会ったのは「あっ私やっぱりロックも好きだな」と思い出すキッカケとして大変よかったですね。
聴きながら「それにしてもこの感じ、どこかで……」と何度も思ったのですが、最近ようやくその正体がわかりました。
ギターの音の作り方やヴォーカルのMarkの歌い方が、Placeboに影響されてるっぽいんです。
本人たちが影響を受けたと言及してるソースがないか探したら、本人の発言こそ見当たらなかったものの同じことを指摘してる海外メディアのレビューはいくつかありました。
メンバーの世代とPlaceboのヨーロッパにおける絶大な人気を考えても、影響源の一つにPlaceboがあることは間違いないと思うので、ぜひ何かの機会に裏を取りたいですね。
PlaceboもPixiesとかUSオルタナにかなり影響されてるバンドなので、その遺伝子を継いだ孫のようなバンドがこのBlack Foxxesと言っていいでしょう。
⑥「Goodbye & Good Riddance」Juice WRLD
またヒップホップ系のタイトルです。
シカゴの19歳のラッパー&コンポーザー、ジュースワールドくんのデビュー・アルバム。
テンタシオンみたく顔にタトゥー&金歯ビカーみたいなラッパーってなんか怖いというかちょっと苦手意識があるんですけどこのジュースワールド君は怖くないです。
ラジオではStingの「Shape of my heart」をサンプリングした「Lucid Dreams」がヒットしてましたが、私はあの曲はあんまりピンと来なくて。
「I Still」とか「Used To」みたいなメロウな曲が特に好きです。
いやこのアルバムの収録曲ほとんどメロウだけど。
しかしなんで私この人の曲、特にメロディーにグッと来るんだろう?と思ってインタビュー漁ったら、彼は音楽リスナー歴の最初の方にエモがあるそうなんですね。
小学校のクラスメイトがFall Out Boyの大ファンで(彼はシカゴ出身で、FOBは地元が生んだ大スター)、その子に教えてもらってFOBとかBlink 182を知ったという。
FOBがヒットしてた時小学生かぁー若いなーそりゃ今19歳だもんな……小学生だったの8年前とかでしょぐわー!
話が逸れましたがそういうわけで彼のメロディセンスにはエモをはじめロックの素養がかなり大きくあるということがわかり、なるほどそりゃ好きだわと納得しました。
彼は今年年間ベスト企画の常連作であるトラヴィス・スコットの「Astro World」にも呼ばれてるし、今後もっと伸びてくる気がする期待の若手です。
⑦「M A N I A」Fall Out Boy
安心と信頼のFOB、7枚目のフルアルバム。
本来は昨年秋に出るはずが、メンバーが「やっぱり納得いかないから」と一部作り直したため今年1月までリリースが延びました。
これ、フィジカル盤と配信版で曲順が違うんですよね。
アルバムが「Young And Menace」で始まるか、「Stay Frosty Royal Milk Tea」で始まるかで印象が全然変わってビックリしました。
「My Songs Know What You Did In The Dark 」とか「Centuries」級のビッグアンセムはないけど、堅実なソングライティングとアレンジできちっと平均点以上のものは作ってきたという評価。
2013年の活動再開から5年弱で3枚のフル・アルバムって、アメリカのこれくらいビッグなバンドとしては結構なハイペースでリリースしてる(しかもその間にワールドツアーもみっちりやってる)んですが、ソングライティングの質が全然落ちないからパトちゃんはすごい。
あと「The Last Of The Real Ones」の歌詞がエモくて超いいからみんな読んでくれよな。
⑧「Honeybloom」Choker
米ミシガン州出身のSSWによる2作目です。
彼についてもプロフィールはあまり詳しくないので各自ググってください。
ケンドリック関係で相互になったフォロワーさんがオススメしてて聴いてみたら大変ハマった一枚。
静謐さの中にセクシーさがあり、艶っぽく上品な声がとても心地よくて何度も聴きました。
ヒップホップを軸に言葉を紡いでる曲もあれば、スフィアン・スティーヴンスのようなシンガー・アプローチをしている曲もあり。
ちょっと変わったバランス感覚のSSWアルバムだと思います。
個人的には2曲目の「Starfruit LA」がグルーヴィーでお気に入り。
⑨「Life's A Trip」Trippy Red
またしてもヒップホッp(省略
米オハイオ出身、ジュース・ワールドと並んで若手ラッパーの有望株と言われるトリッピー・レッドのフル・アルバム。
大変話題になったトラヴィス・スコットの「Astro World」とリリースが近かったせいで注目度がイマイチだったんですが、むしろ自分はこっちの方が刺さりました。
ちなみに本作にはそのトラヴィスの他、ディプロやヤング・サグなどの有名どころも参加してます。
このアルバムのことはラジオで流れてた「Taking A Walk」から辿って知りました。
写真見たらテンタシオンとかリル・ピープと似た傾向のスタイルだし、長生きしそうにない感じがする……と思ったら他人からそう思われることをネタにした曲もあるようですね。
エモ・ラップの一翼と言われてますが、確かにこの寂寥感あるメロディがとても好み……と思ってインタビューなど掘ってみたら好きなアーティストはKISSにシステム・オブ・ア・ダウンにニルヴァーナ、そして同郷のマリリン・マンソンと。なーるほど。
ヒップホップやR&Bに目覚める前はロックバンドをやっていたこともあるそうで、ジュースワールドくんといい元ロック少年のラッパー掘り当てる感度良すぎるぜ私。
あとこれは余談ですけどジャケットがキング・クリムゾンの「ポセイドンのめざめ」連想するの私だけ?
⑩「Sweetener」Ariana Grande
デビュー当時は「うわっ、お姫様気質のぶりっ子だ〜絶対自分とは相容れないわ」とか思っていたのに今やめっちゃ信用できる子だと思ってるよアリアナ、その節はごめんな……(謝罪から始まるレビュー)
フル・アルバムとしては4作目。
自分のライヴでテロが起きて死傷者が出たり、別れた元彼マック・ミラーが亡くなったりと不幸続きの彼女ですが、それでも前を向いて歌い続けてるのが本当すごいなと思う。
このアルバムも得意の高音でバリバリ歌ったり、キュートな自分を見せたりっていう内容じゃなく、自分のダークサイドを素直にさらけ出していて、人間として/アーティストとして今表現したいことをしっかりやった作品。
ノリノリのヒットソングはないけどめっちゃ信頼できる誠実なアルバムとして支持します。
がんばれアリアナ。私もがんばる。
ナカジの年間ベスト企画、アルバム編は以上です。
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