AED男女論争について

「女性にAEDを使わないで」と呼びかけるポストが話題です。
話題になりすぎて違反と見なされ、リンクを共有できない状態になっていたのでスクリーンショットで引用します。

AEDについては私も何度かXで話題にしてきました。

私は自分が女性でありながら、AEDは女性に、というかよく知らない他人全般に、使うべきではないと考えています。
同時に、AED論争は男女論で語るには解像度が足りない問題だとも思っており、noteにまとめることにしました。

まず、女性が男性にAEDを使うことに法的なリスクはあるのか?という問題ですが、これは理論上はないと言えます。
AEDがある場所は大抵ある程度の人が集まる環境であり、夜道でのひき逃げや密室での医療行為などとは違い、救助者と被救助者の2人きりになることは考えにくいです。
大勢の目撃者がいる状況であれば、救命活動を行っていたことの証明は容易であり、その状況で警察が被害届を受理するとは到底考えられません。
民事で訴えるにしても、裁判には金と時間と労力を相当に割く必要があり、かつ勝ち目が薄いため受任する弁護士もそういない状況で戦うことは難しいと思われます。
被救助者が心停止から助かった上で、
救助の過程で裸にされたことに余程深く思い悩むか激しい被害妄想に取り憑かれるかして、
さらに金か時間かそのどちらもを投じるという決断をした上で、
本人または受任する弁護士が並ならぬ努力をして、
初めて救助者の加害を糾弾できるかもしれないというハードルの高さを思えば、訴訟沙汰にすることは簡単でないことが分かります。

しかし、こちらのポストでも語られていますが、現代において最も恐ろしい懲罰である"私刑"を免れることは困難と言えるでしょう。

目撃者の多い環境であればこそ、スマホで動画や写真を世界中に共有された上で、その容姿や慣れない手つきを犯罪者扱いする人が現れるリスクも比例して高くなります。
Xではよく、フォロワーの数はあなたに向けられた銃口の数と言いますが、リアルではスマホを持つ人間の数があなたに向けられた銃口の数です。
別に犯罪者でもなんでもなくても、電車で倒れた人や道端で喧嘩している人たちの動画や写真を軽率に上げているアカウントは星の数ほどあり、AEDを用いた救助活動はこの盗撮の対象には容易になると推測されます。
しかも、この銃口は救助者の行動や容姿、属性にも向きますし、被救助者に対しても同様です。
被救助者が女性であれば、救助者に対して何も思うところがなくとも、上裸で倒れた姿をXに上げられたくないのは当然のことです。性差はあれど、男性でも晒されるのは嫌でしょう。

その上で、
「救助者男が被救助者女に感じるリスク」と
「被救助者女が救助者男に感じるリスク」が噛み合っていないから、この話は男女論で語るには不毛だと思っています。

あくまで私の観測範囲ではですが、救助者がハイリスクだと考えていることは、「救助が遅れて助けられないこと」です。
AEDは1分遅れる毎に救命率が10%下がると言われます。速さ最優先ならば周りへの気遣いの優先度が下がるのは当たり前です。
これは被救助者のためのみならず、助けられないことが自分のせいになるかもとか、罪悪感を感じたくないとかの感情からも導かれる優先順位です。
救助に全振りするという前提でいるのに、スマホで撮られてSNSで私刑にあうだとか、可能性は低いけど訴えられるかもだとか言われれば、AEDを使用しなければそもそも全てのリスクがなくなるじゃないかと考えるのは理にかなっています。

一方で、被救助者がハイリスクだと考えていることは、「適正な手順での救命」です。救命と適正な手順は両立すると考えているようなのです。
ポストを見ていても、適切な手順を踏まれないことを嫌がる女性が本当に数多くいます。

女性を裸にしなくてもAEDが使用出来ることは事実です。

また、目撃者が多い環境だからこそ、周りに人の壁ができれば救助者に裸にされたとしても救助者も自分も撮影されることはありません。
これは男性にも利益になることだし、適正な手順を守れば良いだけなのに、AEDを使わない方が良いと言うのは差別だし、裸にひん剥くことに執着してるのは性犯罪者マインドだ、と女性としては言いたくなるのでしょう。

これはもう、男女論の枠を超えているのです。一つ補助線を引きます。
あなたが工場長だとして、経験も能力もまちまちな社員に一定の品質の仕事をしてもらおうとしたら、業務はどのようなフローで組み立てますか?

個人の適切な判断や能力に依存するビジネスがないわけではありませんが、工場では可能な限りそれを排します。
なので、ライン作業というのはとても理にかなっています。
多少思考が停止していても単純で誰でも覚えられる一定の行動をすれば、製品ができあがるようにすべきなのです。
工場に限らず、個人プレイに依存しないビジネスは、多かれ少なかれ単純で確立されたフローの構築を目指します。
そして、この体制は社員の精神も守ります。やるべきことさえやっていれば個人が責められないというのは社員に仕事を長く続けてもらう上でも重要なことで、訳の分からない怒られが突然発生するから人が居着かない職場の対極にあります。

そして、AEDも本来はそうあるべきなのです。
金をもらってやる仕事でも、個人の繊細な自己判断や気遣いという能力を求める体制はリスキーなのだから、
完全ボランティアであるAEDの使用は思考停止の上で男女老若男女、完全に同じ形で行うようにやり方を統一すべきなのです。

実際、私はAED講習を受けていますが、「女性にだけ特別な配慮する」というのは本当に最悪だと思いました。
マニュアルだけで動かせるように作ってある機械なのに、女性というだけでマニュアルの逸脱を求めるというのは使用を躊躇われて当たり前です。
配慮させるなら全ての人にさせるべきです。

AEDの正しい使い方も知らんやつが男と同じように思考停止で女を裸にして何の気遣いもしなかったのは救助者が性的なまなざしを持っていたからだ、と言われる可能性があるとしたら。
仕事でもないのに、何の責任もないのに、AEDを使いたくなくなって当然です。
そして女の目線では、救助者が皆が見ている中で直接おっぱいを揉む可能性こそ低くても、救助者が思わず裸の女の胸を性的に見ることや、ギャラリーが性的なまなざしで動画を撮り始めることがないとは言いきれず、これに腹が立つのも分かりはします。

なので、解決策としては、
「男も女も完全に同一とする形でAED使用マニュアルを確定する」
「殺害予告や風説の流布のように、救助動画や救助活動に関する情報をSNSに投稿することを厳罰に処す」

ことではないかと思うのです。
男が救助者・被救助者であったとしても、性的なまなざしはともかくSNSに晒されたくないという点では利害は一致しているため、統一感のある運用という点でもハードルを超えやすいと思います。

最後に、私自身のAED観について。
私はAED講習を受けていますが、今のところ、赤の他人に使用するつもりはありません。
そもそも、他人の命を救うという行動が簡単にできると思ってないです。
また、女の私が男にAEDを使ったとして、さすがに性加害で訴えられるとは思ってませんが、私のやり方が不適切だったから助からなかったんだと遺族からなじられる可能性は十分あると思ってます。
介護施設で90代の爺さんに介護士が誤嚥をさせたという裁判で、介護施設に2,365万円の賠償命令が下る時代です。

性加害だけがリスクなわけがないなと思っています。
その上、AEDを使用しさえなかったら、何のリスクも負わなくてよいのです。これはAEDを使用させない方に世の中が出来ているとしか思えないです。
学校の先生が生徒が倒れた時に何もしなかったとかだと安全配慮義務違反に問われるかもしれませんが、通りすがりの第三者でそれはありえないですからね。

とはいえ、AEDという技術は本当にすごいものだと思っています。
このまま失われた技術になるのはもったいないとも思うので、発明者へのリスペクトから、完全に男女平等な使用方法かつ現代のスマホ事情を反映した法律の確立を提案しようと思いました。

以上!

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