ワンマイルウェアはまりかの自由の象徴
「いまは動物愛護センターで出会ったきょうだいネコを飼っています」
「まりかさん、ネコ愛にあふれているんですね。
私も実家にネコがたくさんいるので、話が合いそうです」
ネコ好きで、ネコ話で盛り上がるだけでは、恋はできないのよ、と、まりかはデートセッティングアプリで知り合った殿方とのやりとりを思い出していた。
酷暑のせいか、ここ何年もの介護疲れが出たのか、まりかは夕べからめまいに襲われていた。
ネコ愛の殿方とのデートは、来週でよかった、と思った。
汗でマツエクは落武者のように抜けてスカスカだし、お顔剃りに行って、まゆとお肌も整えなくちゃ。
外気温は35度を超えているようで、エアコンと扇風機を両方フル稼働しても、本棚の温度計は29.4℃と言っている。
ようやくぐるぐるも治まったし、スタバで桃のフラペチーノで中から冷やそうと立ち上がった瞬間、まりかは気づいてしまったのだ。
ワンマイルウェアを持っていない、と。
クロゼットには、犬の散歩に出るスウェットとTシャツはあるし、仕事がない日に着るジーンズやシャツ、それからデートやお出かけ用のワンピースはある。
でも、すっぴんにまゆだけ描いて、ぱっとひっかけてちょっとそこまで、の服がないのだ。
理由はただひとつ。
もう何年も、ちょっとそこまで出ることがなかったからだ。
両親と伯父夫婦の介護がはじまってから、休みはすなわち、年寄り4人の世話に出るか、はたまたマッチングアプリで知り合った殿方に会うか、に限られていた。
まる一日予定がなくてゴロゴロできる日はほとんどなかったから、コンビニやホームセンター、スタバでお茶を飲むのも、いずれかの帰り道しかなかったからなのだ。
今日みたいに、夕方まで寝て、用もないのにふらりと出かけられる幸せ。
フラペチーノで体を冷やしてのんびりして、ホームセンターで延長コードを買ったら、しまむらであこがれのワンマイルウェアを探そう。
仕事からも、介護からも、殿方からも解放された日に着る、ワンマイルウェア。
まりかにとって、自由の象徴なのである。