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隣の客

お父さんと休みが合った日、お昼ご飯は決まって外食だ。
カレーか、定食屋か、ラーメンか、そばか・・・
ラインナップは決まっていた。

今日はこの中から、ラーメンがチョイスされた。

お父さんと向かい会って食べるラーメン。
物静かな父とのご飯は、とても静かなものだ。

お昼時になるにつれて、客が入り始めた。
隣のテーブル席にも客がやってきて、席につくや否や
「久しぶりに会えて嬉しいよ。
前に会えたのは・・・先週の金曜日だったかな?」
男性の声だった。
視界の端に映ったのは、おそらく50歳に差しかかるくらいの中年男性。
相手の女性は私の真横に座っているから、顔は見えない。

・・・なんだろう。この違和感。
誰だって、好きな人に会えたら嬉しいだろうけど、何かが違う。

「そうですね、1週間前かな。」
そう答える女性。

敬語で話す関係性なんだ。

その後も会話は続く。

「そういえば、大佐田城って行ったことある?」
「いいえ、ないです。」
「城下町が若者の中で“バエル”って人気らしいんだよ。」
「あー聞いたことはあるかもしれないです。」
「次は、あそこ行くのはどうかと思って。」
「いいですね。」
「あ、でも、アウトレットとかもいいかも。」
「アウトレットには何があるんですか?」
「色々売ってるよ。バックも、服も、食事もできるし。」
「なんでもあるんだ。行ってみたいな。」
「行こう行こう!全部買ってあげるからね。」

淡々と返事をする女性。
これっていわゆる・・・パパ活?

私はラーメンをすすりながら、2人の会話を静かに聞いていた。

表情は見えないが、おそらく女性はそんなに笑っていない。
この声のトーンで笑っていたら、不気味かも・・・

それに比べて中年男性は次の約束ができて嬉しそうだ。

「そういえば奥さんがさ・・・」
奥さん!?
え、やっぱりそうですよね!?
そう言う関係なんですね!?

咽せそうになったのを必死に抑える。

“そう言う関係”の人たちが、田舎のラーメン屋で、
こんなに堂々と食事してていいのか・・・
いや、どこで誰が食事をしようと勝ってなのは分かる。
だけど、きっとすぐバレるだろうな。

まあお金で繋ぎ止めている関係なんで、終わらせるべきだろうけど。

私とお父さんが、隣の客より一足先にラーメンを食べ終わる。

「ご馳走様でした」
店員にそう告げ、席を立つ。

・・・少しだけ。チラッとだけ。
隣の客を見た。

声から想像していたよりも歳を重ねた女性。
『パパ活じゃなくて、ただの不倫?』

・・・いや違う。2人の間にあった違和感。
それは、女性は男性のことを好きではないと言うこと。

誰がどう見ても、好意がないあの態度。

『んーどう言う関係なんだ!』

もやもやが晴れないまま店を出る。

いや・・・待てよ。

側から見たら、私とお父さんも、どう見られているかわからない。
だからもしかしたら、あの2人も親子・・・?


そんなわけないか。

「隣の席の人たちさ、どんな関係だったと思う?」
家に着くまでの時間、私の推理ショーが開催されたが、
この謎が明かされることは、決してない。

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