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【SS】君の音色
君は、本当に騒がしい人だ。
仕事から帰ってくるなり『バンッ』と車の扉が閉まる音が聞こえてくる。
その音の大きさはいつも違う。
玄関までの足取りもまた、聞こえてくる。
ある日は軽やかでリズミカルかと思えば、またある日は鉛を脚に巻いているかのような、ずっしりと重たい音がする。
扉を開ける前に鍵をカバンから取り出す。
『ジャラジャラ』と鍵通しがぶつかる音が、苛立って聞こえる時もあるし、音色を奏でている時もある。
車から降りて玄関に来るだけで、どうしてこんなにも、君からは音がするのだろう。
君が生み出す音がどうしてこれほどまでに気になってしまうのか。
そんな疑問を投げかけたら、君は
「気にし過ぎなんだよ」って笑うだろうか。
それとも
「そんなに思ってくれてるの?」って笑顔で笑うのだろうか。
「ただいま」の声色も
「今日はどんな1日だった?」と問いかける表情も。
全てから、君の心が見える様な気がするんだ。
きっと今日は、とても疲れてるんだね。
君の音色が聞こえてくるから、それくらいわかるよ。
「まぁ、今日くらいは抱きしめてあげるから、こっちにおいでよ。」
…なんていう前に、君から抱きついてくるんだろうね。
今日も1日お疲れ様。
君の心臓から聞こえるやすらぎの音色に、じっと耳をすませて。
【君の音色】を読んでいただき、ありがとうございます。
このSSを書く時に、一人称を使わないように書いてみました。
読む方が、どんな一人称でこの文章を読み進め、“君”が誰であるか。
それを想像していただきたかったのです。
一人称が彼氏で、君は彼女
一人称が彼女で、君は彼氏
一人称が親で、君は子
一人称が猫で、君は飼い主
視点が変わるだけで、映像もガラッと変わりますね。
文字数が少ない分、読む方の想像で映像が大きく変わってくる。
SSの面白い部分を活かした文章を作れる様になりたいものです。