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創作キット
「うわ。女子高生キットって生々しくないか?」
仕事のパートナーである駒田がわざとらしく顔をしかめた。
「うるさいな。それ仮タイトルだよ。年代別に作るから、駒田もリサーチ手伝ってくれよ」
駒田と自分とで立ち上げた何でも屋が、今はとあるリサーチに特化した仕事が主になりつつある。
「創作キット、女子高生版? そんなの需要あるか?」
「あるよ。と言うか、頼まれたんだよ。知り合いの作家にな」
「女子高生の生態を?」
駒田は変態のようにへへへと笑った。
「バカ。その顔やめろ。今の生きた女子高生の言葉や流行、親や兄妹の関係とかを小説に反映したいんだそうだ。子育てとかも、世代で全然違うだろ」
駒田は図書館から取り寄せた資料の山を漁り、かつての観光地やデートスポットの記事を読み出した。
「レトロブーム特集だってよ。そういえば最近、携帯電話が流行ってるな。カラフルで可愛いって。ああ、この赤煉瓦の駅舎は今でも現役だ」
綺麗にフィルムで保護された旅行雑誌の写真を懐かしげに見つめ、呟いた。
「こういう不便さが丁度いいのかもしれないな」
「よく言うよ。駒田は何でも新製品が出るとすぐ買い換えるじゃないか。会社の名前で領収書切りやがるし」
「それもリサーチだろ? でも、それを使う人の気持ちとか恋人の会話なんかは大昔から変わらない気がするけどな」
「なあ、最近ドラマ観たか? 俺なんか、女子高生の会話の内容が全然分からなかったよ。言葉そのものがさ。観てる人、理解出来てるのかな?」
「あれは字幕つけなきゃ無理だよ。一生懸命、セリフ覚えたんだろうけど。セリフで訛りを言うのも、直すのも難しいよ」
最近話題の太陽系惑星の高校に通っていた学生達が日本に転校してくるという青春ドラマだ。
「駒田、お前の方はどうなってる?」
「記録媒体キットか? 今、フロッピーディスクをメーカーに頼んで再現している所だ。メディア館の館長が、現物の貸し出しはNGだって言うんだ。なら、作ってみるしかないだろ?」
「作る必要なんかないだろ? データさえあればさ」
「作家が資金提供すると言うんだからさ。それに見てみたいと思わないか? こんなモノが必要じゃなかった時代をさ」
駒田がトントンとこめかみを叩く。
身分証明書や運転免許証、映画や小説などの情報をこめかみに内臓された記憶媒体に保存することが出来る。スケジュールや仕事相手のデータ保存と削除も可能だ。
「駒田、外付けハードディスクなんていう闇商品に手を出すなよ。何が起こるか分からないんだからな」
「分かってるよ。そのうちしれっとメーカーが正規品を発表したりするって」
「おい、電話じゃないのか?」
駒田のこめかみが緑色に点滅している。昔の方が、確かに不便だったけど、人間らしい幸せがあったかもしれない。
それがこの「創作キット」の売り上げを伸ばしている理由なのかもしれない。
「叔母さんの高校生の娘とその友人に取材可能だって。上手くすれば、週末の部活も覗けそうだぞ」
駒田がこめかみに記憶した。
「やってる事は、いちいちアナログなんだよな」
「まーな。そうだ。女子高生に会うなら美容室に行っておかないとな」
駒田はうきうきと予約の電話をかけている。
資料の中にUFOのイラストを見つけた。アダムスキー型と言われるものだ。技術者がこぞって再現を試みたが、未だ成功したものはいない。
「どこまで進化したら、遭えるのかねえ」
「宇宙人は太陽系にはいねえ。いや、俺がそうだろうが」
駒田は火星で生まれて、高校生まで家族と住んでいた。
「お! 宇宙人発見!」
駒田がニヤリと笑う。
「ワレワレハー••••••はい、駒田です。あ、出来ましたか! 試作品!」
フロッピーディスクを開発する宇宙人、駒田。貴重なデータだと、こめかみに保存した。
了