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夜泣きうどん

『夜泣きうどん、いかがですか?』
 ビジネスホテルのチェックインの際に勧められた事を思い出した。
 寒い。身体が小刻みに震えている。
 レンタカーの助手席で、友人は眠っているようだった。後頭部の傷が無ければ。
「もうすぐ病院だ」
 友人は頷いたように見えた。
「お前を送った後ーー警察に行く」
 友人の壊れた腕時計がガシャリと落ちた。
「事務所の金、手を付けて無かったんだな。お前のロッカーから出てきたってメールが来た」
 友人は何も言わない。
「なのに、訳も聞かずに殴って悪かった」
 病院の受付を済ませ、友人を椅子に座らせて、警察へ行く。簡単な事だ。
 ホテルの夜泣きうどんの香りを嗅ぐと、少し震えがおさまってきた。
「あの、お客様。お車の助手席の方はお連れ様でしょうか?」
 後ろに警察官の姿も見えた。
 ああ、寒い。夜泣きうどんを抱える両手が急速に冷えていく。

*この作品はショートショートガーデンで公開したショートショートです。
個人的に好きな作品をこちらに載せたいと思います。

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