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≪Art Conservation11≫学芸員と修復師、またはキュレーターとコンサベター

日本の博物館・美術館に保存修復室がある館はとても少ない ー と去年の秋くらいに知って、衝撃を受けた。それでは、一体誰が修復しているんだろう、というのが率直な疑問だった。

専門の部署があっても、その中で修復を担当している人数も少ない。外部の修復会社が博物館の敷地内で修復されているところもあるが、殆どは学芸員が対処できるものは対処して、専門が必要な場合は外注するというのが、私が今理解しているところだ。

国立博物館は別として、博物館で働くには学芸員資格がいる。その学芸員資格の必須科目に博物館資料保存論という科目も含まれている。

日本の美術館の学芸員の方とお話した際に、その仕事内容の広さと忙しさに吃驚した。全部やらないといけないので大変だが、しかし考えようによってはいろいろなスキルが身につくし、分野を跨いで担当するので得意分野があればやりがいがありそうだ。(というのは甘いだろうか?)

イギリスでの職業分担で言ったら、大きな美術館の場合、キュレーターと、学びをデザインするエジュケーターと、作品を購入するバイヤーは別で、さらに作品を修復するコンサベターは分かれていて、企画展示のチームと、展示の技術的サポートをするテクニカル・サービスは別にあったりする。

それぞれかなり必要とされるスキルが違うので、それぞれを専門家が受け持つのは理にかなっているが、分業しているので連携が大事になって来る。 私はコンサベターとして働かせて頂いていたが、キュレーターとテクニカルサービスとの連携は特に大事だった。

例えば収蔵庫で保存されていたものを展示する場合、作品をキュレーターが選び、保存修復が必要であれば、コンサベターの所に話を持ってきて、話し合いでどの程度の修復が必要か決める。                そのコンサベターがテクニカルサービスと相談して、作品の構造として弱い部分の確認やどの様なサポート台が必要か等を話し合う。最終的に展示する現場で、キュレーターは照明の当たり具合や位置、テクニカルサービスは展示台の難易点やアイデア、コンサベターは環境が作品に与えるリスクや来館者の行動を考慮した展示のリスクとその回避策等を話し合う。

なので、そのコミュニケーションが円滑に行く事を可能にしているのは、連絡の取り合いとフレキシビリティーで、柔軟に対応出来る様、全ての人が同じ建物に居るという事は大事になってくる。何故なら、予想外の事は起こりうるし、作業を始めて見て初めて気づく問題点も出てくる。

修復を外注する場合、まず修復の理念というか方針が外注する所によって違ってきてしまう様な気もする。また物理的に離れているので、作品の搬送のリスクや、担当の修復師とのコミュニケーションがどれほどきめ細かに取れるのか、の現状を知りたいなとも思う。

文科省は博物館における修復師の採用人数を増やす予定は無いようだ。私は基本、コンサベター/修復師は単に技術者ではないと思っている。コンサベターはある意味 "ものの代弁者" で、ものと人を繫ぐ上で、どの様にしたらものの価値を保存できるか、そもそもその保存する価値ってどこにあるかという事を踏まえ、これからの文化財の保存と活用を考える、大事なつなぎ目ではないかなと思っている。

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