ハザードとリスク
「登山家」と言われて誰を思い浮かべるだろうか?野口健?植村直己?ジョージ・マロリー?
そもそも、登山家を推す、というのが意味わからないかもしれないが、好きなプロスポーツ選手、みたいなものだ。ただ、野球選手が野球で死んだり、サッカー選手がサッカーで死んだりというのはほとんど起こりえないが、こと、登山においては往々にして起こり得るのでしんどい。
登山、と一口に言っても、その種類は多岐に渡る。「極地法」と呼ばれる大勢で山に入り、ルートを歩きやすいように整備しながら尺取虫のように行って戻ってを繰り返して登頂を目指す方法は昔の大学登山部や現在の商業登山・ツアーなどがヒマラヤやカラコルムで行うことが多かった。莫大なエネルギーと資金を用いるが数十人の登山隊の中で山頂に立てるのはその時1番確率の高いと思われた数人だけだった。
「アルパインスタイル」とはヨーロッパアルプスで発展して行った方法で、数人で山に入り、多少のリスクを顧みず登頂し、戻ってくるという方法だ。荷物は必要最小限に留め、スピード重視で個々の能力が問われる。「極地法」に比べ、資金や環境に対する負荷が少なく済む。
その他にも、数千メートルの壁を何日もかけてクライミングする「ビッグウォール」、滝や激流を登っていく「沢登り」、凍った滝を登る「アイスクライミング」、凍った部分と岩の部分が混ざっている「ミックス」、登ったあとスキーで下る「山スキー」、登ったあとパラグライダーで下山する人もいる。
それらを組み合わせたりして登山をする訳だが、どのスタイルにおいても一定の環境的危険が存在する。雪崩が起きそうな地形だったり、落石が起きそうな地形だったり、天気が不安定、電波がないので救助を呼べない、こういったコントロールできない危険を「ハザード」、これに対して、コントロールできる危険を「リスク」とここでは呼ぶ。この「リスク」をどう処理するか、というのが登山の醍醐味とも言える。
面白いのが、大抵の「リスク」はジレンマや二律背反を抱えているということである。天気が悪い日に赤信号を無視すれば雨に打たれるリスクを減らせるが車に轢かれるリスクがある。どちらのリスクを取るかは登山の結果や価値に大きく影響するが、失敗の原因にもなり得る。どうすればいいのかは結局確率の問題であり、失敗した後に言えるのはたらればのみである。これは登山以外にも通じている気がする。
では、素晴らしい登山とは何か。これは、人によって価値観が違うのでなんとも言えないが、僕はハイリスクハイリターンな登山だと思う。安全に安全を重ねることは大事だ。人生は1度きり、死んだら元も子もない。(実際は人生が終わったあとを観測していないので1度きりかどうか定かではないが。)その中でより高度で命を賭した登山をする人間を自分は評価したい。もし失敗することがあっても記憶に留めてあげたい。そういう意味で価値のある登山はハイリスクハイリターンであると思っている。
前置きが長くなってしまったので、自分が思うすごい登山家は明日紹介したい。
ちなみに写真は登山中の自分。この時、途中の支点が脆く、失敗したら10メートル以上の落下は免れない状態だった。こういう時の方がやはり記憶に残る。
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