上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花という傑作
ネタバレを多分に含みます、ご容赦を
私はここ数日、後悔と自責の念に苛まれた日々を過ごしている
その理由がこの作品「上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花」の1巻を読んだ時、これは日常系作品にお酒の要素をプラスした、キャラ萌えメインの作品だと断定してしまったことだ
日常系作品は、仕事やプライベートに疲れたときに見ればいい
そういうスタンスを持っている私は、上伊那ぼたんの1巻を読んでそのまましばらく放置してしまった
2巻を読み始めたのは1巻を購入してから1年近く経った日のことだった
ハッキリとこの作品が日常系ゆるふわ作品ではないと理解したのは#15、郡上先輩がいぶきとドライブする話だ
単行本でいうと2巻の93ページ、たばこを咥えながら「今のなし」と言った郡上先輩の、あのページはあまりにも様々な感情を想起させる
「今のなし」といった郡上先輩の、すべてを理解したうえでの笑顔に対して、言われたいぶきの寂寥感?焦燥感?どの気持ちを抱いていてかを読み手に考えさせるような表情が良かった
読み手に考えさせるという要素、これが上伊那ぼたんの魅力の一つだと思う
他のかたの感想を見ていると、間がいい、という意見が数多く見られる
そう、この作品は間が他の作品と違って、そしてそれによる独特のリズムが心地いい読後感を生んでいる
そして間だけではなく、この作品は空白の使い方も素晴らしいと思う
2巻#16、ジンランの初登場シーン
あえて入寮したタイミングの描写を飛ばし、ぼたんといぶき、二人とでかけているところから始まっている
ここでジンランのキャラクター性をみせることで、寮に来たときはどんな感じだったのかを読み手に想像させているのではないかと思う
今の御時世、空白を残した作品作りは減っているように感じる
というのも、説明がないと不安になってしまうという心理形成が行われてしまっているからではないだろうか
悪役にもそうなってしまう裏側があり、主人公に関しては1から10まですべてさらけ出されてしまう、そこに受け取りての想像の余地はない
かつて私はkeyというエロゲブランドの作品が大好きだった
「ONE」や「kanon」、「AIR」「CLANNAD」といった作品をかじりつくようにプレイしていた
これらの作品では重要な設定みたいなものをぶん投げて、それでもハッピーエンドだからいいよね!みたいな終わらせ方をしているものもある
でもそこの重要な設定を考察して、想像を重ねていくうちに作品の沼にハマっていくのだ
2巻でジンランの登場についてあれこれ考えている時点で、私は上伊那ぼたんという沼にハマっていたのだろう
そんなわけで、2巻で沼にハマった私は発売されていた5巻までを一気に購入した
巻数を重ねるごとに、各キャラクターたちの関係が深まっていくためだろうが、面白さが青天井になっている
3巻は#24と#27がお気に入りだ
#24は、ぼたんの「季節が進むことを躊躇っているみたい…」からスタートする話だ
いぶきとぼたんの関係性がぐっと縮まった話だと思うが、特に94ページの
「ちょっとぼたん!奥行くと深くてあぶないよ!」といういぶきに対して
「大丈夫ですよ、私は」とぼたんが返すシーン
あまりにも美しすぎる
いぶきは単純に物理的な話をしているが、ぼたんは貴方となら深みへ進んでも大丈夫ですよと精神的な返しているわけだ、こんなんドキドキするに決まっている
そして#27、3巻ラスト
ぼたんの「友達やめていい…?」からの、いぶきの「友達やめよ」の告白シーンですよ
こんな二人だけの世界を構築した告白があっただろうか、あまりにもおしゃれすぎる
そこからの#31
この話は致死量の百合を私に打ち込んできた
いぶきの「この香りをまとって、あなたのそばにいたいと思ったの」からの
「うん、幸せな匂いがする」はあまりにも百合すぎる
百合すぎて私の心臓のドキドキが加速して心房細動を起こす可能性があったので一旦読むのを中断したほどだ
そして中断した脳みそであの告白シーンは本当に良かったなーなんて考えていたが、翌々考えたらあれが私が勝手に告白シーンと捉えているだけで、いぶきはそう思っていないのではないか、なんて考えを巡らせた
例えば「わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!」という作品において、主人公はヒロインに対して、恋人でもなく親友でもない”れまフレ”という関係を提案している
もしかしていぶきは恋人ではなく、そういった関係を求めていたのではないだろうか、だからこそ好きという直接的な表現を使わなかったのではないだろうか
まぁそんな妄想は意味のないこと、なんて思っていたが、4巻ラスト、まさに私が考えていたことをぼたんがぶつけていた
「友達をやめて、いったい何になったの」と
私とぼたんの思考がリンクした瞬間ですね、感情移入しまくって涙すら出てましたわ
いぶきの奥手さが相まって悪い方向に行っていた部分はあるからしょうがない、しかしそこからの巻き返しがこれまた最高だった
かつて約束したピアスを取り出して
「私に孔を開けて?」
「ぼたんに…開けてほしかったの」
「私たちの何よりも先に」
いぶきはここぞというときに良い言葉を投げてくれるから好きだわ
こんなんもう告白とか飛び越えてプロポーズみたいなもんじゃん
この3巻4巻のラストを読んで、私は上伊那ボタンが自分の中の百合漫画ランキングでもかなり上位に位置していると気づいたし、1巻を読んだときに、ここまで好きになれる漫画をスルーしたことに後悔をしていたわけだ
ちなみに私はぼたん×いぶきも好きだが、ジンラン×郡上先輩もかなり好きな二人だ
郡上先輩が負けヒロインという属性を持っているところも応援したくなるし、ジンランのキャラクターがすごい好きだ
ジンラン推しになった一番のきっかけは#32の二人飲みの話
冒頭から待たされているジンランが、郡上先輩の遅刻に
「気づかなかった」「待ってるのが楽しくて…」
純だねぇ、好きになるねぇ
そこからのダイレクトに郡上先輩に「すき」って言うシーン
「そうやって楽しそうに話す先輩がすき」
「いろんなことに興味を持つ先輩がすき」
と、理由を並べながら、最後には「私のことどう思っているの?」というようなダイレクトな聴き方はせず
「私に興味を持ってもらえていると、うぬぼれても良いのかな…?」と一歩ひいて郡上先輩の反応を伺う感じ、もうプロじゃん、恋愛マスターじゃん、台湾でどんな恋愛してきたのさって、もう私の頭の中で妄想がとまらないわけですよ
負けヒロインのその後っていうのは、やはり救いがあるべきなんですよね
だって彼女たちにもその後の人生があるんだから
そして5巻は激動の様子
やえかとあかねは今後関係性に亀裂が入ったままになってしまうのか、ぼたんはピアスなくしてるっぽいし、ジンランはいぶきに嫉妬しているのか少し感情が乱れてきているようだし
単行本で読みたい派の私は6巻発売まで指を咥えて待つことしかできない
頼むから早く、6巻の発売をしてくれ
作者の塀さんにピクシブとかnoteに課金したら執筆スピード上がるかなぁ
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