SATOMIアブダクション③
③きのこでも生えてくるかのように、車らしきものが緑灰色の地面からすっと出てきた。
それから、さとみにすっと近づいてきた。排気音が聞こえなかったが、少し砂ぼこりがたったように思った。
「えっ、なに?これ、これが車?確かに形はそうね。これに乗れっていうの?」
低い車体は、美しいフォルムをしていた。
〈ランボルギーニのスポーツカーみたい。いつだったか、展示会で見たのと似てる。スタイリッシュで、見てるだけで洗練された気持ちがしたわ。このヘンテコな生物が乗るには、なんだか不釣り合い。クッション性、ないみたいね。座ったら、おしり痛そう。それにしてもボンネットが開くようには見えないわ。これに乗れってこと?一体何の動力で走るのかしら。
ガソリンではなさそう、
電気?
それともリニア?〉
「これ何で動いてるの?」
さとみは目の前の青い目をした小さな存在に質問した。埴輪のような生き物は無邪気さと平然さが混ざったような様子で答えた。
「思念エネルギーですよ、さとみさん。」
〈しねんエネルギー?
あぁ、わけわからないし、それにどうして私の名を知ってるの。〉
面食らっているさとみを気にするでもなかった。
「この車に乗ってください。」
ハンドルもない、ギアもない、オープンカー。もちろんステレオもカーナビもない。
「乗れって言われてもね、目的地もわからないのに、乗れるわけないじゃない。知らない人の車には乗らないっていうのは、常識よ。今の状況で、この常識があてはまるかどうかはわからないけど。これではまるで拉致だわ。それに乗ったところで一体どこにいくの?」
さとみは次第に胸元で竜巻が起こるのを感じた。未知の現象の中にあることで生じたストレスが原動力となり、それは気管を通って頭上へと巻きあがった。頭部で出口を失った勢いは、さとみの口から飛び出した。
「ねぇ、そもそもここはどこ?わたし、死んでるの?生きてるの?ねぇ、これ、仮想現実か3Dでしょ?うまくできてるわよね。ねぇ、それで、埴輪君、あなたはわたる?わたるでしょ?そんな変身よして。エニグマってもの?わたる、好きだよね、エニグマこそ僕を研究に掻き立てる原動力だとかなんとか。あなたは、機械?生命体?それとも映像?あなたが誰であろうと構わないから、もとの世界への戻して!一体次になにが起こるっていうの?ここは、どこ!」
さとみは矢継ぎ早に口走った。不可解な現況への抗いと、打開策を見い出そうとする意識が拮抗していた。小さな動く埴輪は、さとみの動揺と交錯した質問に応える様子もなく繰り返した。
「さとみさん、車に乗ってください。そうすれば、この星にいる理由がわかります。」
「この・・・、星。」
さとみは、何かを悟ったような表情をしてから、整った口元をきゅっと閉じると目をふせた。
〈確かに考えてたわ、
ここが異星人の惑星なんじゃないかって、異次元かもしれない、
別の宇宙かもしれない、
夢の世界かもしれないって.
身を守ろう!
守る?
何から?
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