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鮮やかなる通過
ペトロールズのドラム、河村俊秀さんの訃報を聞いた。嘘だとは思わなかったが、受け止めきれずうなだれてしまった。僕がたくさんの音楽に出会う前、最初に好きになった音楽のひとつが長岡亮介の綴る歌、ギターだった。そこから長岡亮介について調べていくうちにペトロールズにたどり着く。いくつかの動画がネット上にはあった。「OSCA」「雨」だったと思う。中学生の俺の感想は「なんか事変と違うな」だった。洒脱で幽玄な彼らの音楽の良さは、まだ届かなかったんだと思う。一旦ここで接点は途切れる。
再び出会ったのは「SIDE BY SIDE」がリリースされたときだ。この頃はCDに対してお金を使うことにためらいが一切なかった。TSUTAYAのレンタルにはペトロールズ来ないっぽいな、ぐらいのノリで買おうと思った。もうひとつ、この頃はceroや「街の14景」の頃のthe band apartなどをきっかけに、ペトロールズの音楽にも自分の感性が接近できていた時期でもあった。SIDE BY SIDEの1曲目、FUELで想像は大きく覆された。イントロから轟音が響きシティポップ的なそれではなかった。これなんだ!?という喜びだったと思う。ファンになったと言えるのはここから。FUELは音源のバージョンを完成形としつつ、ライブの映像をいくつか見ると年々進化、もしくは音作りの模索が見られる。2023年のFUELがヤバいです。
それ以降、全国流通盤としてリリースされた「Renaissance」「GGKKNRSSSTW」を購入し、音源で追っていくことはできたものの、人混みがあまり好きではなかったのでライブに足を運ぶことはなかった。あまり大きな声では言えないが指定の時間にライブ会場に行くということも得意じゃなかった。今年になってようやくそれらの課題が克服できた時に、地元のライブハウスでカネコアヤノとペトロールズのツーマンが組まれることになった。無事当選して当日を迎えたのだが、ここで思わぬ出来事があった。長岡亮介と同じく高校時代から心酔するあるミュージシャンが大麻取締法で逮捕された。本当に落ち込んだ。初めて見る二組、ペトロールズは念願だったのに心から楽しめるだろうかと不安が渦巻きながら、ライブは始まった。カネコアヤノの「さびしくない」ぐらいからやっとふっ切れた気がした。ギターの轟音と声から発せられる振動が心地良かった。またいつか見たいな。そしてペトロールズの出番。登場した3人は余裕に溢れていて、佇まいがなりたい大人たちだった。ライブは「FUEL」「表現」「止まれ見よ」「Talassa」などで進行していく。ずっと聴いてきた名曲たちだ。
MCも独特のゆるさがあり面白かった。「ごめんねカネコアヤノの次がこんなおじさんたちで…」「いやそんな変わんないでしょ」などのやり取りがあったのを記憶している。笑顔溢れる空間だった。ひとたび演奏が始まるとタイトとルーズを自由に乗りこなすような3人、仙人のようだった。主役は長岡亮介で間違いないが、支えながらコーラスで独特の味付けをするジャンボさん、ボブさん、3人あってのこのバンドなんだとこの日叩き込まれた。そのまま「KAMONE」「雨」「ホロウェイ」といったバラードの名曲も余すことなく披露されて終演。「楽しめるだろうか」なんて不安は遥か遠くに吹き飛ばし、とても幸せな気分にしてくれた。彼らの音楽に背中を後押しする強いメッセージが込められているとは思わないが、確かにあの日僕の心は救われたと思う。
ペトロールズのこと、もっと知られてほしいと思う。心地よさだけじゃなくて、優しさもあり、人を笑顔にする迫力もある。あらためて、河村さんを一度しか見れなかったのがとても悲しく、寂しく思う。タイトルは「Not in Service」というペトロールズの大好きな歌のフレーズから。あの日も披露された。とてもカッコいいからオススメしたいけどシェアする手段は見つからず。カッコいいおじさんのまま、俺の前を通り過ぎていってしまったんだけど、記憶はずっと大切にしたい。心からのご冥福をお祈りします。