リレー小説『GENSO 第一回』
企画中のリレー小説、割と皆さん乗り気になって下さったので年明け目処にスタートできるかな、という感じです。
見本をということで、以前私の運営しているアートサロンカフェ《哲学者の薔薇園》の常連さん達と5名で書いていたリレー小説の書き出しを掲載します。
その時は私から始まり、4巡して私で第一部 完となりましたが、書いている途中でスピンオフの物語が始まったりと、結構話が広がっていったのが面白かったです。
当時、私のブログではこんなことを書いていました。
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「ちゃぷん」
小さな水音がした。
木製の欄干から身を乗り出して、環は青緑色の水面を覗き込んだ。
岸辺から落ちかかる柳の枝の幾本かが、葉先を水に浸している。
流れる雲の映像が二重写しになった水面下には、薄緑色の細長い葉がちらちらと見えている。
その辺りに何かの影がよぎったのを目の端で捉えた環は、大方鯉か何かが跳ねたのだろうと見当をつけながら何の気なしに川を覗き込んだのであるが、次の瞬間、揺らめく水の層をくぐって姿を現したものを認めて息を呑んだ。
水面に頭を突き出し、なまめかしく喘いでいるのはまさしく、たおやかなる美女の顔であった。
濡れ羽色の長い髪はしどけなくほつれ、白い顔の回りに漂っている。寄せられた眉根の下の黒目がちの瞳はぱちぱちとまばたきを繰り返し、少し突き出された紅い唇はぽってりと愛らしい。
だがその顔はせいぜい握り拳ほどの大きさしかなく、そして顔の下にあるのは黒みがかった鱗を持つ、魚の体であった。
驚くなかれ、それは人魚、いや人面魚だったのである。
市庁舎の大時計が午後三時を打った。
我に返った環は、さてどうしたものかと思案した。
アルバイトの時間にはまだ間がある。
環の兄は、国立大の生物学部に籍を置いていた。
「そうだ、写真」
バッグから取り出すタイミングをまるで見計らったかのように、スマートフォンから軽快な着信メロディが響き始めた。
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