ゴールデン街・瑠璃の夜 第一夜「猫窓」
ゴールデン街G2通りのバー「瑠璃」でアルバイトを始めて、早1年。
元々は臨時のような感じで始めたアルバイトだが、徐々にシフトが増え、今では月・木16〜22時、金16〜20時、土16〜19時(金・土は最終週以外)と、時間は短めながら結構な頻度で入っている。
インバウンドで世界中から日本に観光客が押し寄せてきている現在、ゴールデン街にも当然ながら、大勢の外国人観光客がやってくる。
お店によってその対応は異なるのだが、瑠璃は通りに面した一階にあって店内が見え、初心者が入りやすい店なので、外国人観光客も大歓迎だ。
私がアルバイトを始めてから、来店したお客様の住む国は覚えているだけでも、
アメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、中国、フランス、イギリス、イタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ベルギー、スイス、ポーランド、ロシア、ギリシャ、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ルーマニア、セルビア、クロアチア、メキシコ、ブラジル、ベネズエラ、インドネシア、イスラエルなど数多い。
もちろん、どこから来たのか尋ねていないお客様もいるので、実際にはもっと沢山の国から来ているはずだ。
一番多いのはアメリカのお客様で、次がオーストラリア。
日本語ができるお客様もたまにはいるものの、コミュニケーションはどうしても英語がメインとなる。
私は英語が苦手なので、外国人のお客様と接することで、英語が上達しないかなと密かに期待しているが、今のところ大して進歩の兆しは見られない。
ハードルになっているのはリスニングだ。
ネイティブの発音は本当に難しい!
日本人や、英語が母国語でないお客様の英語の方が、まだ聞き取ることができる。
ともあれ、海外のお客様とお話することで、世界の様子が多少なりとも知ることができ、充実した日々だ。
そんな中から、印象に残るエピソードを紹介していこうと思う。
瑠璃のオーナー、流李さんは猫好きで、家で猫を飼っているし、お店の看板にも猫が描かれている。
ある日、瑠璃に来たら、窓のところに長く伸びた猫のぬいぐるみが三匹、押し合いへしあいしている。
店の前を通り過ぎてゆく観光客の中に時々、無断で写真や動画を撮影していく人がいる。
私などはあまり気にすることもないが、お客様の中にはゴールデン街で飲んでいることを知られたくない人もいるかも知れない、と流李さんは撮影されるのを迷惑がっていた。
猫たちはてっきり、その撮影避けなのかと思った。
ところが、窓越しにぎゅうぎゅうしている猫たちを見た観光客たちは、面白がって以前にも増して撮影している。
これじゃあ逆効果なのではないか?
そこへ入ってきたアメリカ人夫婦、猫たちを見て"Cute!"と笑顔になっている。
お、こいつら客寄せ効果もあるのか。なかなかやるな!!
アメリカ人夫婦に「猫が好きなのか?」と聞かれたので、「好きですよ。うちのオーナーも猫好きなんです。あの猫たちはオーナーが連れてきたんですよ」と答えた。
すると彼らは「私たちも猫を飼ってるのよ。今頃どうしてるかしら。彼らが恋しい」と言いながら、愛猫の写真を見せてくれた。
猫はひとしなみに可愛い。
彼らの猫も当然、可愛いかった。
「猫の世話をする人はいるんですか?」と聞くと「ええ。でも彼らはきっと『なんで僕らを置いていっちゃったのー』って泣いてるでしょうね」と、笑いながらもちょっと切なそうに答える。
どこの国でも、猫飼いの気持ちは同じなんだなあ、と、微笑ましく思った。
後で流李さんに聞いたところ、ぬいぐるみは人にもらって、置き場に困ったので窓のところに置いたそうで、特に撮影避けなどの意味はなかったそうだ。
「ごめんね、来週にはどかすわ」と言うので、彼らはお客を招いてくれるんですよ、と、猫につられてやってくるお客様の話をした。
そんな訳で彼らには、そのまま窓際にいてもらうことになった。
三毛猫が一匹いるので、新宿駅東口の街頭ビジョンの三毛猫だ!と言われることもある。
そういうことにしておいても、いいかも知れない。