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先生と戦争 第2章

異常気象の夏と


異常気象と聞くようになった夏。
校長も叔母さんもクラスのみんなが暑いと言った。
終業式の日のもっと学校にいたいという友達の声はミンミンゼミの声でかき消されて行った。


夏休みにはいってからの3日間部活があった。
1日目2日目と暑さに耐えながら歩いた。
そして3日目。家を出た瞬間あつあつの空気が肌にまとわりつき、頭皮が焼けるように痛い。目の奥がくらむ。そのうち肌がペトペトしてきて、気持ち悪くなるのかと考えたら、エアコンの匂いが充満する涼しい部屋に1秒でもはやく戻りたくなった。だか、そんな思いは学校に近づくにつれ収まっていった。
「帰りたくないなあ」私はそう呟いた。
学校が好きだからではなく、学校から家に行くまでにまた暑いおもいをしなければならないからだった。


部活がもう終わろうとしている頃、ゴロゴロと遠くのほうで音がした。雷か。
窓の外を見ると枝分かれした光が地上に向かっていた。ほんとに異常気象だな。

帰ろうとした時顧問が私たちに向かって言った。「みんな一旦待機ね」

数分後顧問が戻ってきて、「車でお迎えが来る人はそのまま帰って大丈夫なんだけど、歩いて帰る人は雷が止むまで待機します。」
その知らせを聞いた時、登校中の願いが叶ったかなと思った。雷が私に今は帰るなと言っているよな気がした。初めて雷はいいものだと異常気象に感謝した。

お迎えを頼める人は事務室の電話を借りることになった。後輩が先に電話をしていたので外で待つことになった。

不意に横を見ると岩瀬先生がこちらに向かって歩いてきていた。
私の心臓がズキンと脈打った。うれしくてたまらなかった。雷はこの為に鳴ってくれているのではないかとそんな考えが一瞬頭をよぎった。私は嬉しくて顔がとろけてしまいそうだったが、平然な顔を保ち岩瀬先生に「こんにちは」と挨拶をした。こんな時岩瀬先生と気軽に話してしまう私の友達がそばに居てくれたらと何度も思った。
すると先生は「こんにちは」といつもの何気ない顔で挨拶を返してくれた。
話しかけることも、話しかけられることも無い自分が悲しかった。もう少し先生と話しておけばよかったと後悔した。
一瞬先生の顔を見て、挨拶をしただけなのに、この一連の出来事が全て先生に繋がったような気がして、とっても嬉しくなった。

異常気象と聞くようになった夏に岩瀬先生に出会い、"今の状況に似たあの時"を思い出した。その頃の夏はまだ涼し気な空気に包まれていた。




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