見出し画像

集合場所はハッシュタグ

8年前、東大で行われた伝説の講義

2012年6月30日、東大の伊藤謝恩ホールに全国から300人の若者が集まりました。目的は、エンジェル投資家 瀧本哲史さんの講義を聴くこと。彼の著書『武器としての交渉思考(星海社)』の発売を記念した無料イベントです。星海社に合流して2ヶ月目、「編集見習いの見習い」ぐらいだったぼくも、スタッフとして運営のお手伝いをしていました。

九州や北陸といった遠方からの参加者もいれば高校生もいて、会場は前のめり。その熱意にのせられるように瀧本さんは2時間50分ぶっ通し。話しっぱなし。音源を聞き返すと、最初と最後で拍手の量がまったくちがうのがわかります。「伝説」と言って差し支えのない講義でした。

伝説の講義は“ライブ盤”に

伝説は伝説のまま、それこそ語り継ぐのが粋だと思うのですが、事情が大きく変わってしまいます。2019年8月、瀧本さんが47歳の若さでこの世を去られたからです。永眠の2日後、担当編集の柿内芳文さんとぼくとで彼の噂話をして笑っていたぐらい、誰にも知らせない、秘密主義の瀧本さんらしい最期でした。

突然の別れに落胆する柿内さんから「瀧本さんが2020年6月30日に東大で再集合しようって言ってたの覚えてる? あれ、やろう。他にもなんかできないかな」と連絡をもらい、動き出したのがお盆明け。柿内さんは悩み抜いた末、再集合とともに、この伝説の講義を瀧本哲史最後の一冊として本にすることを決めます。

ライティングは大越裕さん、デザインは吉岡秀典さん。瀧本さんデビュー時と同じ布陣が集まり、一気呵成に作られたのが星海社新書『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』です。

「君たちは、自分の力で、世の中を変えていけ! 僕は日本の未来に期待している。支援は惜しまない」

柿内さんが“ライブ盤”と定義した「はい、瀧本です。」から始まる一冊は、あの日の熱量そのままに、普遍性を持って世に出ました。ひいき目なしにめちゃくちゃおもしろい、数年に一冊の本だと思います。

「その日」がやってきた

発売以降、書籍はコロナ渦にも負けず重版を繰り返しました。4月末の発売からはや2ヶ月が経過。そう、今日が「2020年6月30日」なんです。

もちろん、集合するつもりでした。

何度も打ち合わせし、企画を決め、年明けから会場をおさえていました。ゲストにも声をかけはじめていました。しかしまあ、みなさんご存じのとおりこんな状況になってしまいました。

集まれるか集まれないかで言うと集まれます。別に行政に止められるわけでもない。でもたぶん、あの「熱」は再現できない——悩んだ末、集合場所を変えることにしました。新しい集合場所は #瀧本宿題 オンラインの、ハッシュタグでの集合です。

集合場所はハッシュタグ

あの日実際に講義を受けた人、本を読んだ人、オーディオブックを聴いた人。接触の仕方はそれぞれでいいので、瀧本さんの熱に触れた結果出てきた感想、決意、自らに課す宿題を記して公開してほしい。伊藤謝恩ホールに集まって隣の人同士で想いを交換するように、#瀧本宿題 に集まって意見しあってほしい。そんな風に思っています。

この考えに賛同し、星海社さんは全文公開で、オトバンクさんは全音公開で応えてくださいました。

期間限定ですが、今日から瀧本さんの伝説の講義がすべて無料で受けられるようになっています。全文、早い人で2時間、読み慣れていない人でも5時間あれば読破できる量と読みやすさです。

「アウーアウー」、「そういうの大っ嫌いなんですよ」、「やろうと思えばみなさんを騙すことなんてカンタンですよ」

なによりほんとおもしろいんです。何度も同じこと言ってすみません。ぼくが特に気に入ってる箇所、序盤にしぼってご紹介したいと思います。

 実際の話、「自由人」とか「成人」とか言ってますけど、まだ人間になってない人もたくさんいるんですね。単に人の言うこと聞いて「アウーアウー」みたいな(会場笑)。
 外見だけは人間なんですけど、やってることは人間以下という人が老若男女問わず世の中にはたくさんいてですね、そういう人たちに「早く人間になってくれ」ということです。厳しいことを言うと、「自分で考えてない人は、人じゃない」わけです。
 かつてアリストテレスは「奴隷とは何か?」という問いに、「ものを言う道具」と答えました。僕がいまの世の中を見ても、けっこうな数の「ものを言う道具」の人がいます。

全文公開 『2020年6月30日にまたここで会おう』 第一檄「人のふりした猿にはなるな」|瀧本哲史『2020年6月30日にまたここで会おう』特設note|note
 だから僕は、何かの「正解」を教えることはあんまりいいことじゃないとずっと思っていて、批判し続けています。
 たとえばビジネス書の著者で、本で名前を売ったあとにセミナー始めて、セルフブランディング講座とか、なんとか塾とか開催してる人って、大勢いるじゃないですか。「これをやればあなたの仕事がうまくいきます!」とか、そういうの大っ嫌いなんですよ。
「わかりやすい答え」を求める人向けにインスタントな教えとかノウハウを提供するのって、簡単だけど意味ないんですね。

全文公開 『2020年6月30日にまたここで会おう』 第二檄「最重要の学問は『言葉』である」|瀧本哲史『2020年6月30日にまたここで会おう』特設note|
 僕もやろうと思えばみなさんを騙すことなんてカンタンですよ。でも、どっちかというと僕の真意はその真逆で、チラシとかの煽り文に釣られて来た、ある意味ちょっと勘違いしがちな人たちに、「(講演の登壇者が)僕でよかったね」「他の人に騙されないよう、気をつけようね」と気づいてもらうのが、講演のほんとうの目的だったりします。
 何度もくり返しますが、「どこかに絶対的に正しい答えがあるんじゃないか」と考えること自体をやめること。バイブルとカリスマの否定というのが、僕の基本的な世界観になります。

全文公開 『2020年6月30日にまたここで会おう』 第二檄「最重要の学問は『言葉』である」|瀧本哲史『2020年6月30日にまたここで会おう』特設note|

「アウーアウー」、「そういうの大っ嫌いなんですよ」、「やろうと思えばみなさんを騙すことなんてカンタンですよ」。どうですか。もうおもしろくないですか?

ピンと来た方、まずは「第一檄」だけでいいんで読んでいってください。そしてよかったら、 #瀧本宿題 で落ち合いましょう。お待ちしています。