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ミッション、ビジョン、バリューの謎

日本企業は、やたらに企業理念にこだわる節がある。最たるものが、ミッション、ビジョン、バリューをセットにする謎の慣習だ。MVVなどと略されることもあり、お家芸の三文字略語(Three-letter acronym, TLA※)というやつである。〈※皮肉を込めたジョークです。〉

しかもこの話、提唱したのが、かのドラッカー先生だという尾ひれもついてくるから堪らない。

確かに、ネクスト・ソサエティという書籍には、以下のような下りがある。

ネクスト・ソサエティにおける企業とその他の組織の最大の課題は、社会的な正当性の確立である。すなわち、価値、使命、ビジョンの確立である。(「ネクスト・ソサエティ」、P.F.ドラッカー)

だが、ドラッカー先生は特にこれ以上のことには言及していない。価値、使命、ビジョンのいずれに対しても言葉の定義を与えていないし、ましてや企業理念を表すためのフレームワークなどとは全く言及していないのだ。しかし、「ミッション・ビジョン・バリュー」や「MVV」でググると、この手の解説が山ほど出てくる。あれは、誰が定義したのだろうか。

そもそも、海外企業では、ミッション(使命)が理念の中心に置かれる場合はあっても、ビジョン(展望)やバリュー(価値)などが複雑に入り混じって謳われることは少ない。いくつかの企業サイトを見てみよう。

いかがだろうか。いずれもミッションのみで、とてもシンプルである。

もちろん、他の要素を組み合わせている企業も存在はする。例えば、マイクロソフト社では、ミッションを掲げて、これに対するバリューについても触れられている(どうでも良いが、Our corporate values のページの og:title タグが間違っている)。

スターバックスも、ミッションとバリュー。

最近は、ミッションの代わりに、パーパス(存在意義)なるものを掲げる企業もあるようだ。例えば、フォード社。

https://corporate.ford.com/about/purpose.html

コカ・コーラ社は、パーパス(目的)とビジョンという組み合わせ。

P&Gは、パーパス、バリュー、プリンシパル(原則)という組み合わせのようである。少し複雑だ。

それで、日本企業に移ろう。まずは、リクルート。基本理念、ビジョン、ミッション、バリューズという構成。いきなり、複雑である。

DeNA。ミッション、ビジョン、バリューがある上、価値観と行動指針まである。覚えきれるのだろうか。

キリン。コーポレートスローガンに始まり、ミッション、ビジョン、バリュー、そして、「私たちが挑戦すること」と続く。

ここに掲げた企業を選んだ理由は特にない。単にググってみて上位に出てきた立派な企業ばかりである。

しかしそれにしても、日本企業は、なぜこんなにも標語を掲げるのか。どこかのコンサルティング会社とか広告代理店が、穴埋め問題でも出しているのだろうか。体系だった何かが制定されていないと、経営者が不安に陥るということなのだろうか。

まるでミッション・ビジョン・バリューといった文言がすべて揃っていないとダメであるかのような慣習により、社員が大切な理念を覚えられないような事態に陥ってはいやしないだろうか。この謎をご存知の方がいたら、ぜひ教えて欲しい──。

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