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譜めくりという仕事
伴奏者のちょっと後ろに控えるのが譜めくりさんです。
ピアニストって、ソロ弾く時は暗譜が主流で、伴奏や室内楽の時は楽譜見て良いのですよ。
でも、ページ多くて自分でめくれないので、譜めくりを置くのです。
それを学生の頃、あちこちのコンサートでしておりました。
ピアノの先生に頼まれて、初めてプロのピアニストの譜めくりについた時の話です。
その方超上手くてですね、演奏すると力強いのに、話すとふんわり柔らかい男性ピアニストでした。
もうイチコロですよ。憧れちゃいます。
間近でプロの手元を見れて、コンサートのリハーサルから本番をご一緒出来て、コンサートの裏(悪い意味でなく)の世界を沢山見させてもらいました。とても勉強になりましたね。
譜めくりにもタイミングがありまして、ちょっと早くめくって欲しい人や、ぎりぎりまで見ていたい人などおりまして、要望にお応えしながらこなしておりました。
左手の邪魔にならないよう、めくりで近づく時は演奏の邪魔にならないよう気をつけ〜の〜、終わればすぐ引っ込むわけです。
速い曲なんかは座って立ち上がり〜のエッサホイサと結構動きます。
で、スポットライト一緒に浴びてますし、結構緊張もするものですから、ちょっとポッポと暑くなるんですね。
素敵なピアニストさんの時はついでに鼻血が出やしないかと、毎回密かに心配してました。
コンサート終わると客席にお辞儀をした後、譜めくりをしたワタシにもにっこり笑って「ありがとう」と言ってくれるんです。
特権です。キュンキュンです。
懐かしい。
このピアニストさんが響きの良いコンサート会場でペダルの量を減らしている時がありました。
「ここは会場が響くからいつも通り踏むと響きすぎちゃうんだよ。だから少なめにするの。でもお客様入って吸収されるから、また弾きながら調整しないとね。」という現場ならではの話を聞けたり。
安定した演奏は今も脳裏に焼き付いていますね。
優しい人だったなぁ。
で、譜めくり慣れしてるってんで、あちこちの助っ人頼まれました。
そんな中珍しい現象に遭遇した事もありました。
設備があまり整っていないかなという会場での出来事。
リハーサルの時に、『演出で照明の色変えます』ってのは聞いてました。
本番。
暖色系でずっと進んでいたのですが、1番の盛り上がりでいきなり蛍光色の白にバッと変わったんですね。
そしたら楽譜が全く見えないんですよ。
音符が飛んじゃって真っ白に見える。
ピアニストも私も「えっ!!!???」
と一瞬フリーズ。「楽譜見えねー!!」と心の中で大絶叫。
2人とも不自然に姿勢を変えながら見える場所に体勢を立て直し…なんて事もありました。
屋外でのコンサートでは、風に煽られ飛んでいく楽譜を左手でキャッチしながら、右手でピアニストが続行できるよう、弾いてるページを押さえていたなんていうハッスルポーズもとりました。
権力者のコンサートでの譜めくりもありました。
リハーサルのミスをワタシのせいにされたり…なんて事もあったなぁ。
こういう人間にはなるまいと思ったっけ。
まぁ、でもこれも良い経験。
こうしていろいろな本番を同行出来たのは大きな財産となりました。
その後出会うプロの方々、素晴らしい技術と共に人柄が気さくで素敵な方ばかりですよ。
こういう人たちをお手本にして生きています。
譜めくりは淡い恋心を勝手に抱きながら長時間同行出来る素敵な仕事だったり、リハーサルの和やかな雰囲気から一変する本番のプロの姿を見れたり、良い時間を沢山過ごさせてもらったなと書いていて思い出しました。