まだ「スカイウォーカーの夜明け」が許せない

 僕が「スカイウォーカーの夜明け」にブチギレている理由は枚挙にいとまがないが、その中でも一番最悪だったのはアクションフィギュア展開がオミットされていたことだ。これは悪夢である。

 スター・ウォーズシリーズ最大の魅力は3インチアクションフィギュアにあると言っても過言ではない。スター・ウォーズからアクションフィギュアを取ったらはっきり言って何も残らない。

 確かにEP9のフィギュアが一つもなかったというわけではない。しかしここで言ってるのは肘と膝の関節が曲がらなくて腰にT字分割のある3.75インチのシリーズの話だ。EP9ではこの世界最高のフィギュアシリーズ展開が一つもなかった。関節を仕込んで不格好なプロポーションになったフィギュアなど僕は求めていない。五点可動のフィギュアこそ、アクション性を犠牲にして造形美を突き詰めたアクションフィギュアの究極系だ。

 「スカイウォーカーの夜明け」はスター・ウォーズの華々しい歴史を作り上げたいちばん重要な存在である3インチフィギュアを裏切ったのだ。許せるはずがない。

 スター・ウォーズ最初のアクションフィギュアはケナー社から発売された。商品開発が間に合わず、映画公開年のクリスマスには購入証明書だけが売られたというのは有名な話だ。
 3.75インチの始まりもこの時で、当初は8インチでの製品化が企画されたがそれに合わせると宇宙船が巨大なものになり販売価格が跳ね上がってしまうので「これくらいにしよう」とケナーの社員が指を広げたその長さが偶然にもちょうど3.75インチ=18分の1スケールだったという。が、これはおそらく神話に過ぎない。

 彼らが念頭においていたのは当時すでにアメリカ展開されていたタカラの10センチアクションフィギュアであるミクロマン(マイクロノーツ)だったと考えて間違いないだろう。
 ミクロマンは12インチのG.I.ジョー(ハズブロ)およびその日本における落とし子・変身サイボーグがその前身であり、やはり巨大すぎたビークルの小型化を意図して縮小された経緯を持つ。

 そして俗にケナー分割と呼ばれる五点可動だが、発想の元はおそらくマテルのバービー人形だ。

 G.I.ジョーをアクションフィギュアの始祖とするならば、そのジョーを産んだ大いなる母こそバービーである(実はコピー商品からスタートしたのだが)。ジョーは女児向け着せ替え人形の男児版だった。

 3インチフィギュアがポピュラーになるきっかけを作ったのがケナーのスター・ウォーズであることは間違いない。しかしその影響元であるマイクロノーツを展開していたのはMEGOだし、バービーはマテルだ。

 僕が3インチ元年と呼んでいる1978年、この両社もまた、マイクロノーツとバービーの正統な遺伝子を受け継いだ3インチフィギュアを発売している。

 MEGOから出たバック・ロジャース(のアクションフィギュア)の構造はタカラのミクロマンそのもので、肩にリベットが剥き出しになっているところまで同じ。さらに瞳が穴で表現されているのは本家ミクロマンが78年に展開したフードマンを彷彿とさせる。

 他方マテルからは企画自体がスター・ウォーズのパクリでもあった宇宙空母ギャラクティカのフィギュアが出ている。これははっきり言ってオーパーツだ。ケナーが写実性はまだまだなのに対してギャラクティカの造形は現代でも稀に見る水準。いちばんの特徴は顔にペイントが施されていないところだろう。

 実は3インチフィギュアが軽んじられるいちばんの原因になっているのがペイントの稚拙さだ。近年の商品では雑に塗られた目や眉の下が驚くほど緻密に、俳優そっくりに造形されていることが意外と知られていない(僕が3インチフィギュアを手に入れてまず最初にすることが顔のペイント剥離である)。

 ギャラクティカではペイントによって生じる製品の個体差をなくすことが試みられている。さすが母なるマテル。ケナー以上に美を追求することで、出遅れた一歩を見事に取り返した。

 だがそんな両社も結局は3インチ界の支配権を争う戦争に敗れることになる。

 82年にアクションフィギュアの王室ことハズブロのG.I.ジョーがリアル・アメリカン・ヒーロー(RAH)シリーズで3インチを採用。さらにハズブロがケナーを買収したことで終戦を迎え、同時にスター・ウォーズフィギュアの独走が始まる。

 RAHがミクロマン方式の可動を採用した一方、スター・ウォーズはハズブロ化しても呆れるほど頑なに関節を仕込まなかった。
 「クローンの攻撃」公開の頃に生まれた斜め切り関節は、肘が斜めに輪切りされていて、回転させると肘が曲がった形になるという、プロポーションに影響しない可動アイデアだ。もっともこれは一時の気の迷いと言わんばかりに「フォースの覚醒」ベーシックフィギュアではオーソドックスな五点可動に回帰した。

 「ローグワン」を経て「最後のジェダイ」からはフォースリンクという音声ギミック(ICチップ読み取り方式)つきのものがベーシックフィギュアにとって変わった。音声ギミックに興味はないが、このシリーズからは基本の五点に加え手首足首ロールが仕込まれたり、髪の毛が別パーツになったり、分割が増えてちょっと高級感が増した。
 ハイエンドのブラックシリーズからも3インチが出始めたが、こちらはフルポーザブルでプロポーションが悪いので論外。

 フォースリンクはまさしく3インチの限界に挑戦した素晴らしいシリーズだった。「ソロ」に続いて「スカイウォーカーの夜明け」に期待したのは当然の流れだ。

 だが結局EP9公開時にはフォースリンクもベーシックも発売されなかった。

 玩具売り場に置かれたのは「ソロ」の売れ残りとヴィンテージコレクション(フルポーザブル)のレイくらいだった。このレイも金型異常で鼻の辺りがひしゃげてて全然似てない。あげく映画の内容も散々である。「ソロ」は映画はひどかったけどフィギュアは素晴らしかった。エミリア・クラークを3インチ化しただけでも300点だ。

 フィギュアのないスター・ウォーズに価値などないのである。こんなひどいスター・ウォーズは後にも先にも「スカイウォーカーの夜明け」くらいだろう。そうであって欲しい。

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