『春と私の小さな宇宙』 その51
※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アキとの昼休みが終わるとハルは一旦、自宅に帰った。
三日前、ネットで注文した品が届いている時間だった。予想通り、郵便受けに注文品が入っていた。簡易のDNA鑑定キ ットである。
自室に入り、鑑定の準備をする。 机の引き出しから二つのビニールを取り出した。それぞれに「宮野」と「ユウスケ」の 文字が書かれている。その中に髪の毛が一本ずつ入っていた。
伊藤に渡した物ではない。別に取っておいたサンプルである。それを慎重に取り出し、 キットで鑑定する。 しばらくして、結果が出た。 二本の髪の毛のDNAは、完全に一致した。
ハルは胸を撫で下ろす。これで確実に宮野 は、自身のクローンを作っていたことが確定した。ユウスケは宮野ノブユキのクローンで間違いない。
あの時、伊藤に渡したサンプルはどちらともユウスケの髪の毛だった。そのため、DNAは百パーセント一致した。同じ人間の髪の毛なのだから当然である。
宮野の家に潜入した日。アルバムの写真や日記の内容。予感はあったものの、あの時点ではまだクローン説を確信できなかった。
その時、ハルは扉の前に髪の毛が落ちていたのを発見した。 極度の潔癖症である宮野が見逃すとは考えづらい。
ハルは思考を回転させた。もしも彼が自分の部屋に侵入されたかを知らせる仕掛けをしていたら……。
あの警戒心の強い宮野ならやりかねない。恐らく、自分の髪の毛を扉に挟んで、落下しているかどうかで、誰かが侵入したかを確認していたのだろう。
そこでハルは、それを逆手に取ることにした。宮野の髪の毛を回収し、一度、家に持って帰った。
その後、家庭教師の仕事で再び訪れて、部屋に落ちまくっているユウスケの髪の毛をいくつかこっそり採取したのだ。 宮野とユウスケの髪の長さは、ほぼ同じだった。ハルはユウスケの髪の毛を回収した髪の毛の代わりに、宮野の部屋の扉付近に落とした。
さも、侵入者が髪の毛の仕掛けに気付かなかったように。
そして、伊藤には、渡した二本の髪の毛のうちの一本を宮野のものであると、虚偽の申告をした。実際には両方ともユウスケの髪の毛である。
これでたとえクローンでなくとも、 DNAが一致し、伊藤が宮野を問いただす口実を作ることができる。ついでに凶器を持たせてことも容易になる。
宮野の方はどちらでも問題ない。すでに種を撒いてある。伊藤を恨む動機を。
こうして、二人は話合いの途中で口論に発展する。衝突した男たちは偶然、持っていた凶器で……。
ハルは早急にキットをしまい、大学に戻るため、バスに乗った。本当は戻る必要はないのだが、また勝手に帰ったことをアキに知られれば、間違いなく面倒なことになる。
大学 に到着すると、アキと合流し、さっき帰ったばかりの自宅に帰った。
2
○ 小さな宇宙
私はイトウを許さない。ハルにあんなひどいことをしたやつだとは、ちっとも思わなか った。ハルを実験して私腹を肥やしていたのだ。
絶対に許せない。
今、私の頭はあの実験の出来事が大部分を占めていた。そのおかげか壊れかけた精神はイトウへの殺意で何とか耐えきっていた。気を抜けばバラバラに砕け散りそうな、ひどい 記憶だった。
実際に体験したわけでないのに、私の脳内にあの悪夢が深く刻まれていた。 もし外に出られたら、必ずイトウに復讐する。私の奥底にある焔がドス黒く、熱く燃え上がった。
私の願いはよくかなう。
ハルを救うため、安心して暮らせる世界するため、絶対に削除してやる!
私は強く誓った。
続く…
前の小説↓
第1話↓
書いた人↓