『春と私の小さな宇宙』 その63
※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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9
「よくわかったね、ハル」
ハルの声を受けて、茂みからミハエルが現れた。前と同じ場所で二人は再開した。視線を合わせて、向かい合わせに立つ。
「いろいろと不自然な部分があったのよ」
冷たい手を温める為、ハルは両手を白衣のポケットに入れる。
「へえ、聞かせてもらおうか。うまくやったと思ったんだけどね」
ミハエルはハルの推察に興味を示した。彼はズボンのポケットに手を入れている。背が高く細身の体型は身体能力を最大限に発揮できる理想的な身体だった。彼から逃げることは妊娠関係なくハルでも難しい。
「いいわよ。答え合わせといきましょう。それに私もあなたに言いたいことと聞きたいことがあるわ」
「受けて立とう。ボクも真実を言うつもりでここに来たから」
ハルとミハエルは未知の生物を観察するようにお互いを見た。
「まず、あの封筒。とてもきれいだったわ。入っていた紙も。まるで買ってきたばかりのように皺ひとつ無い。大けがをした宮野がわざわざあんなことをするために買うと思う?たとえ買っても目撃証言があるはずよ。あの風貌なら確実に。しかも、紙の文字はパソコンで打たれていた。自宅に戻っていない宮野がどうやって作成したのかしらね」
ハルは目の前にいる第三世代の男を見る。ミハエルの表情に目立った様子はない。しかし、彼から伝わる脳波のわずかな乱れにハルは推測の確信を得た。
「それにあのけがであの急な階段を登れるとは到底思えない。誰かが手伝わない限りね」
「・・・ボクだという根拠は?」
「あの紙の文章。宮野が書ける状態ではない以上、誰かが用意したことになる。さらに私がR神社に行ったことを知っているのはアキと宮野、そしてミハエル、あなたよ。この二つの事実を検証すれば、何も知らないアキと大けがをした宮野は除外される。よって、手紙の『R神社に来い』はあなたの指示だと導かれるわ」
ハルは淡々と説明する。
「それだけではないわ。前にここで話した時も、よ。あなたは偶然、私たちがこの神社に行く話を聞いて、先回りをしたと言ったわね?」
「そうだけど、それが何か?」
「明らかにおかしいの。なぜなら、バス停にいた時、そんな話していないから」
ミハエルの目の色が変わった。
「そうなると、あなたはすでに私たちがR神社に行くことを知っていたわけよ。誰かにその情報を聞いてね。情報提供者は宮野でしょう? アキはあなたと初対面だったから他に考えられない。つまり、あなたと宮野はグルだった」
ポケットから指を出し、ハルはミハエルに突き出す。
「脱帽だね。それだけの情報でここまで推理するなんて。確かに手紙を書いて置きに行ったのはボクだよ。彼がここまで来るのにもボクが手を貸したんだ」
観念したようにミハエルは推察の補足を始めた。
「だけど、その推察は半分正解で半分不正解かな」
「どういうこと?」
ハルは訝しげにミハエルを見た。
「確かにほとんど君の言う通りだけど、最後の『宮野とグル』は違う」
「ならなぜ、こんなことを?」
「う~ん、長くなるから順を追って話すね。ボクが伊藤と時々、連絡を取り合っていたのは知っているだろ? ある日、伊藤から依頼があったんだ。『宮野という男を調べろ』ってね。やらなければボクやメアリーのことを口外するなんて言い出したから『脅された』の方が正しいかな」
ミハエルは困った感じで頬を人差し指でポリポリ掻いた。
「それで宮野を尾行していたんだ。彼は高度なクローン技術を持っているからそのデータを手に入れる目的でね。勿論、このことは誰にも言っては駄目だと伊藤に言われている。そんな時だったよ。宮野がどこかに出掛けて行った。ボクはすぐに追跡した。すると、なぜかこの神社に登って行ったんだ」
「それで?」
「こっそり後をつけた。気配を消すのは昔から得意だから気付かれなかった。彼が境内の木陰に隠れるのを見て、ボクも森の中に隠れて様子を窺った」
「なるほどね。尾行していたのは宮野だった。それでその最中に・・・」
ミハエルはうなずく。ハルはようやく納得した。パズルのピースがはまるような感覚だった。
「そう、君たちが現れた。思わず気配を出しそうになったよ。まさか尾行していた宮野が、君を尾行していたんだから」
「そしてハプニングが起こり、あなたは本来の役目を捨てて、飛び出して行ったと。滑稽ね。相手を知るどころか、逆に自分のことを知られるなんて」
容赦のないハルの言葉に「相変わらず厳しいね」とミハエルは苦笑した。
続く…
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