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『僕と私の殺人日記』 その34
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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その場所は村の集会所で、月に一度、村の人が集まって田んぼやお金の管理などをするところだ。
そこには、権太くんとノブ夫くんの、おかあさんとおとうさんがいた。残りの村人も全員集まっていた。わたしがまだ殺していない人、全員だ。
「あ、リナちゃん、ユイカちゃん。無事だったのね!」
権太くんのおかあさんがわたしたちに話しかけてきた。
「無事って、どういうこと?」
平静をよそおってユイカちゃんが聞く。
「実は、昨日から権太もノブ夫くんも帰ってこないのよ」
男子の家族はまだ、自分の子供が殺されたことに気づいていないらしい。激しく降った雨のおかげで、学校まで探しに行かなかったのかもしれない。
ユウくんが、学校での出来事をおかあさんたちに言っていたのを思い出す。警察には連 絡したものの、ほかの人には話さなかったようだ。
ユウくんを守るためにわざと伝えなかったのだ。 それはわたしにとって、ありがたいことだった。
「リナちゃんたちと遊びに行くって、出て行ったきりなの。何か知らない?」
「うーん、わかんない。学校で遊んだあと、普通にユイカたちと別れたよ」
ユイカちゃんが何事もなかったように答える。わたしもそれを見習って、知らないことを伝える。
「そうなの・・・。あの子は反抗して、よく家出するし、ノブ夫くんと一緒みたいだから放っておいたんだけど・・・怖いわ」
「何かあったの?」
「ええと、冷静に聞いて頂戴ね。今日の朝、村の人が殺されていたの。しかも五人も。もしかしたら、こないだの殺人犯がこの村にいるかもしれないわ」
「ええ! ユイカ、怖い!」
衝撃の事実を聞いたユイカちゃんは、身体を震わせて怖がる。すごく演技がうまいわ、 とわたしは思った。わたしも身体を震わせる真似をする。
「ノブ夫が犯人に殺されていると思うと・・・」
ノブ夫くんのおかあさんが泣き崩れた。その横にいたノブ夫くんのおとうさんがそれを支えた。みんな沈んだ顔をしていて辛気臭かった。犯人におびえていて、絶望に押しつぶされそうな雰囲気だった。
「とりあえず中に入りましょう。外は危険だわ」
権太くんのおかあさんの提案で、みんな集会所へ入った。わたしたちも入ることになった。室内は広くて、長い机と座布団が置いてあった。みんな、そこに座る。ユイカちゃんはわたしの左側に座った。
「どうするんじゃ? 一週間くらい、警察は来れないと聞いたぞ」
「子供たちのこともあるし、心配ねえ」
村のおじいさんやおばあさんたちが、不安の声を次々に上げる。
「そうだ! トンネルが通れないなら山を登りましょう。それならここから脱出して、警 察に保護してもらえます」
ノブ夫くんのおとうさんが余計な提案をする。そうされて一番困るのはわたしなのだ。
「ふははは、馬鹿なこと言うやつがいるもんじゃ。本当にこの村の人間か?」
急に笑い出したのは、東郷のおじいさんだった。胡坐をかいて猟銃を自分の肩に立て掛けている。 東郷のおじいさんは山小屋に一人で暮らしている、この村、唯一の猟師だ。とても狩猟がうまくて、狙った獲物は鹿でもイノシシでも必ず仕留めてしまうのだそうだ。
そのスナイパーみたいな眼光と腕前、名前の同じ某殺し屋漫画の主人公になぞらえて、若い村人たちから『ゴルじい』と呼ばれている。
「どう意味ですか?」
ゴルじいの言葉にノブ夫くんのおとうさんは、むっとして聞き返した。
「いいか、この村は山に囲まれている。町に一番近い山を通っても、十キロはあるんじゃ。 その上、ここらは凶暴な熊が頻繁に出る。死にたいのか?」
「そう言いますけどね、ゴルじい。この村には殺人鬼がいるんだ。危険を冒してでも、山を登るべきだと俺は思いますけどね」
権太くんのおとうさんが反撃に出る。それはまずい。口封じができなくなってしまう。 どうしよう、とユイカちゃんに囁いて助けを求めた。すると、大丈夫だから怪しまれないようにだけして、と言われた。
「お前ら若い衆や儂はいいが、ほかの年寄りはどうするつもりだ? 腰の曲がったそやつらに熊が徘徊する山を十キロ以上も歩けると思うか? まさかとは思うが、その殺人鬼のいる村に置いて、見殺しにする気ではあるまいな?」
「そうじゃ、そうじゃ」
「そうよ、そうよ」
「うう・・・」
ゴルじいのもっともな指摘に、権太くんのおとうさんはうなだれてしまった。
お年寄りたちは、ゴルじいの後ろで調子良く意見に賛同している。 わたしはほっとした。だから、ユイカちゃんは大丈夫だと言ったのか。
わたしは納得して、胸を撫で下ろした。
続く…