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『春と私の小さな宇宙』 その27

※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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『君の目的を知りたい』

ミハエルはハルの脳内に直接、語りかけてきた。言語は日本語で、 この国に敬意を表しているようであった。

ハルは警戒していた。恐らく、ずっと隠していたものは明らかになると悟ったからだ。

開いてはいけないパンドラの箱が徐々に開いていくような感覚を、両者は感じつつ、交信を続けた。

『正直、君を信用できなくなってきた。ずっと疑問だったことがあるんだ。それを明らかにするためにも、質問には真実で答えてほしい。と言っても、ウソをつけば脳波の乱れでわかるけどね』

『・・・わかったわ。どこから話せばいい?』

『まず、機関を脱走した時のことだ。君があの時、ばらまいたウイルス。殺傷能力が低いもの選んだと言ったが、ウソだね? あれが致死率の高いウイルスだったとあとで知ったよ』

『そうよ。彼らは私たちの存在を正しく理解できていなかった。私たちは実験体ではない。 彼らこそが私たちのモルモットよ。だから、処分した』

ハルは全く悪びれず、質問に答えた、それが当然だというように。

『うすうす感じていたけど、君はおかしい。ボクと出会う前、何があった?』

『その質問に答える義務はないわ。別の質問にしなさい』

ミハエルは彼女の脳波から確固たる意志を感じ、その返答をあきらめた。 質問の内容を変える。

『君は二度目の帰郷の後、すぐにウイルスの保管室を開けた。特殊な粉を使って暗証番号を特定した。・・・随分、用意がいいね?』

『「用意はできた」と言ったはずよ。それがどうかしたのかしら?』

ハルの脳波からどす黒い波長をミハエルは感じた。それはあの事件の核心に迫っている何よりの証拠だった。 彼女は何かを隠している。

『あの頃のボクはまだ子供だったし、故郷に戻れる思いで頭がいっぱいだったからあまり疑問を感じなかったけど、よく考えるとおかしいんだ。あの仕掛けを実行するには二つの大きな問題がある』

ミハエルは考察を続けた。ハルは静かに念波を受け取る。

『一つは身体検査。家から機関に戻る時、必ず身体検査をされる。反逆や脱出を企てないように。実際、あの時の君は手ぶらだった。二つ目は保管室の暗証番号だ。あれは警備上、 一か月に一度、パスワードが自動で変わる。知ることができるのは所長だけ。つまり、君は二度目の帰郷する前から保管室を開けられていたことになる。それも何度も・・・』

ミハエルの推理は当たっていた。ハルはもう隠せないと悟り、静寂を孕んだ脳波を次々に送った。

彼女の脱出計画は、機関に来たときからすでに始まっていた。 まだ三歳だったハルは地獄から脱出するため、五感を研ぎ澄まし、情報を集めた。

ウイルスの耐久実験が始まった時、これだと思った。ウイルスを手に入れてばらまけば、自分以外の人間は生きられない。そうすれば容易に脱出できる。

思いがけず家に帰れたときは、計画を立てるまでもなかったと思った。しかし、もしもまた、あそこに連れて行かれたら……。

保険のため、ウイルスに関する情報を集めた。医者だった「父」の本棚から医学書を引っ張り出し、種類や性質などを学んだ。

予想通り、機関に連れ戻されることになった。その際、棚にあった蛍光粉と歯を抜く器具を盗み出した。

蛍光粉を銀紙で包み、器具で奥歯を抜いた。そこに粉の入った銀紙を仕込んだ。まだその歯は乳歯だったので、時が経てば永久歯が生える。抜いても問題は無い。奥歯は庭に埋め捨てた。

機関に着き、無事、身体検査をスルーした。 初めてミハエルに出会ったのは、その後だった。

一か月ごとに行われる集合会議の合間を狙って、ばれないように何度も実験室を抜け出した。認証システムの画面を拭き、防護 服に粉をつける。それを繰り返した。その過程で一か月ごとに暗証番号が変更されることを知った。

保管室にも入り、使うウイルスを決めて位置を記憶した。初めはすぐに計画を実行するつもりだった。

しかしミハエルの存在を知り、放っておけなくなった。自分と同じ第三世代の人間。しかも、男。後々の計画に必要だった。

二度目の帰郷。
脱走後に実行する計画を立てるため、海外に渡航する情報を集めた。両親が行く予定だった海外旅行の本や雑誌を読み漁った。

全てが完了すると再び、薬品を奥歯に仕込み、不要なものを処理して機関に戻った。


続く…


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