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『春と私の小さな宇宙』 その56

※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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○ 小さな宇宙

私は奇妙な映像を見た。

いつもの目線ではなかった。過去の記憶でも無い。実に不可解 な出来事だった。

ハルの過去を知った私は、イトウが大嫌いになっていた。つねに、どういう風に復讐してやろうか考えていた。ハルは脅されているのかイトウの言いなりになっていた。それが嫌でたまらなかった。


その日、私は眠くて寝ていた。そんな時だった。争うような声が聞こえて目が覚めた。 当然、物理的に目が開いたのではなく、脳が覚醒したのだ。私の目は相変わらず閉じたままだ。

脳内に飛び込んできたのは、イトウとミヤノだった。血気迫る形相で口論をしていた。 場所は教授室のようだった。ハルがときどき来ているから知っている。イトウがいつもいる不愉快な所だ。

目線はだいぶ低い位置で、二人を下から見上げる格好だった。

「カノジョヲカイホウシロ!」

「ナニヲイッテイル? ハルクンハ、キョウリョクシテクレテイルノダヨ」

どうやらハルのことでもめているようだった。お互いの意見が食い違っているのか白熱している。イトウは落ち着いているが、ミヤノは声を荒げていた。

話はおかしな方向に進んでいった。

私は耳を澄まして二人の会話を聞いた。

『僕は知っているぞ。お前、ミチコと不倫しているだろ!』

『な、なぜそれを君が知っている。 家にお前の毛髪があったんだ。最近、ミチコが色づいているしね。 だからと言って、それが浮気をしている証拠になるとでも? ミチコの部屋から出てきたとしてもか?』

『ぐっ、今は、その話は関係ないだろう。話は君が違法なクローン研究をしているということだ 』

『そうだな。だが、お前はそのクローン技術を盗もうとした。以前から嗅ぎまわっていた よな?』

『 はて、意味がわからない』

『 僕の部屋にも落ちていたんだよ。お前と同じ白い毛髪がな!』

『 馬鹿な! ありえない! あの時、確かに鍵がかかっていて入れなかった! 』

『墓穴を掘ったな。やはり僕の家にいたわけだ』

『 なっ! 図ったのか! このわしを!』

『 事実を言ったまでさ。お前は僕の部屋に入って、日記を見た』

『 日記だと? 何を言っている? そんなもの知らないぞ!』

『 ウソはいけないな。部屋にあったこの白い毛髪が何よりの証拠だ!』

ミヤノは透明なビニールを取り出した。白い髪の毛が入っている。イトウは不思議そうにそれを見ていた。

『これを鑑定してお前のDNAと一致すれば、言い逃れできないぞ!』


ミヤノはイトウに詰め寄ってビニールを突き出した。 イトウは困った顔をして「そもそも、その毛髪が君の部屋から出てきた物か定かじゃないね。確かにわしはミチコさんと交際している。だが、君の部屋には絶対に入っていない」 と断固拒否していた。

二人の男の話し合いは平行線だった。全く相手の意見を受け入れる様子がなく、自分の 意見ばかり主張していた。

私は髪の毛の話題が気になった。あの映像に映っていた部屋。あれはミヤノの部屋だっ たのだ。ハルが落としていた白い髪の毛。あれはイトウのものにちがいない。

部屋の侵入を誤魔化すために、ハルはあんなことをしたのだろうか。


続く…


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